おまけ♪
弘樹、物事には順番というものがあるだろう、順番っていうのがよ」 「だから、どんな」 「たとえばさぁ。いきなり、これはないんじゃない?」 智史が自分の状況を指で示しながら、弘樹に問いかける。 ちなみに、今の彼の状況とは──ボタン全開で羽織っているだけの状態のシャツと、これまたボタンを外されファスナーを降ろされかけたジーンズ──と描写すれば、だいたいの流れはお察しいただけると思う。 「じゃあ、その順番というのを言ってみろ。とりあえず聞いてやる」 「だから〜。例えば、映画館とか水族館とか言って、3回目のデートでキスして、何かのイベント(智史の言うイベントとは、クリスマスとか、お互いの誕生日とか、ふたりっきりの旅行とか、その様なものらしい)で雰囲気が盛り上がった処で、こういうことにならない? 普通さ」 「……それは『普通』じゃなくて、お前の小説の展開だろう。だいたい、その3回目のデートでキスっていうのはともかく、映画館とか水族館には一緒に行ったことがあるじゃないか。お互い言い出せなかった気持ちをはっきりさせて、雰囲気も盛り上がってる。しかも、ここは邪魔が入ることはないふたりの部屋で完全防音。順番もあってるし、状況もバッチリ。イケイケってなもんじゃないか」 「弘樹〜、お前、キャラクター違っちゃってるよぉ〜」 「うるさい、黙ってろ」 同時に、弘樹の唇が智史のそれに重なる。とりあえず、ごちゃごちゃとうるさい智史の口をふさぐには、最も効果的な手段であることは実証済みである。 智史の歯列を割り舌を絡ませながら、弘樹は、まだ辛うじて服としての役割を果たしている相手のシャツを手慣れた手つきで剥ぎ取った。 さらりとして気持ちのいい指先が、智史の身体をゆっくりと探索し、唇が首筋に移動する。 「っ──」 弘樹の舌が首筋をそろりと移動した時、智史の声から声が漏れた。 甘く濡れたその声は、弘樹の情欲に火をつける。 弘樹は指先で転がしていた胸の突起を口に含み、空いた手をジーンズのファスナーへとのばす。 その瞬間、智史の身体が硬直し、それをあやすように、弘樹は再び軽く口付けた。 他とは違い、慣れつつあるその行為が安心感を与えるのか、智史の緊張が緩み、両腕が弘樹の首へとまわされる。 弘樹の愛撫が再開されると、今度は智史もそれをなぞるように弘樹の肌に手を這わせた。 「………てる」 耳元で、弘樹が低く呟いた。 「……あっ」 言葉と同時に自分自身を握りこまれ、智史は思わず漏れた声に赤面した。 愛してる── 初めて言葉として与えられたその単語に酔いしれた隙に、弘樹は手をのばしたのだ。 先程から与えられている愛撫による快感が、じわじわと背筋を這い上がるように押し寄せるのに比べ、今度のそれは電流が流れたかのように強烈だった。 その強い快感に、抗う術を智史は完全に失っていた。 弘樹の手が堅く張りつめたそれを、更に追いつめるかのように緩急をつけて愛撫する。 智史に身体の中で訳の判らない濁流が渦巻いて、彼の思考は完全に停止される。理論という武器をもたない智史は、もう弘樹の敵ではない。 既に智史のジーンズは弘樹の器用な足によって、ベッドの下へと退場していた。 「こうっ──」 突然、天を仰いでいるそれに、軽く歯を立てられ、唇によって愛撫されていることを認識した智史は身を捩り逃れようとする。 「大丈夫、逃げないで」 多少不安を含んだ弘樹の声が、智史の抵抗を封じた。 しかし、智史は知らない。 これが、百戦錬磨、伊達弘樹の技なのである。 力の抜けた智史の足をそっと抱え上がると、弘樹は素早い動作で身を割り込ませた。もう一度唇を寄せると、入念な愛撫を再開した。 「あっ……んっ──」 舌先で先端をつつくようにしたかと思うと、深く口に含み、甘がみする。与え続けられる快感に、ただ翻弄されている智史を、更に煽りたてるように愛撫は続けられた。 「あぁっ……やっ──」 何かにすがるように弘樹の髪を握りしめて、智史はすさまじい快感の波の耐えるしかなかった。 「こうっ──もう──」 その感覚は突然襲ってきた。 弘樹を引き離す間もなく、彼の口の中で智史は絶頂を迎えていた。 それを嚥下し喉が立てた音と、最後の一滴まで舐め取っている弘樹の舌の動きが、智史に自分の痴態を実感させる。 その時、ゆっくりと肌を探索していた弘樹の指が、奥の堅く閉じられた部分に触れた。 軽くかすめるだけの接触ではあったが、弘樹の求めているものは智史に伝わってくる。 めんどくさがりやな智史は、もう、結構どうでもいい気持ちになっていた。ここまで来たら、それこそイケイケってなもんじゃないかと。 意志を伝えるように、そっと眼を閉じる。 なんだか、手慣れた様子の弘樹に任しちゃっとけばいい、簡単な選択だ。 ゆっくりと時間をかけ、弘樹の指が、舌が、智史の奥深い処を暴いてゆく。 弘樹の肌の熱さが心地いい。 智史の秘処を丁寧にほぐしていた弘樹の指が抜かれ、智史は次に来るであろう衝撃を覚悟した。 取りあえず、羊の数でも数えていよう。と、訳の解らないことを決心しながら── * * * ピンポン、ピンポン、ピ〜ンポ〜ン。チャイムを鳴らし始めてから約4分、風折と涼のふたりは、やっとインターホン越しに、弘樹の不機嫌な声を聞くことが出来た。 『はい』 「弘樹? 遅いよ。何やってたの」 『寝てました、と言いたいところですが、風呂ですよ』 「智史は」 『寝てます』 「そう、とにかく開けてよ。2次会やろうと思って買い物もしてきたんだから」 『わたしもこれから、寝・る・ん・で・す!』 「弘樹、僕の言うことが……」 『今日ばっかりは聞けません。2次会をやりたいならふたりでお願いします』 「だって、どうする? 涼」 「しょうがないよ。ふたりで呑もう」 「そう、じゃ、そうしようか。じゃ、弘樹、そういうことで」 ふたりが立ち去る足音を聞きながら、弘樹は壊れそうな勢いで受話器を戻した。 そして、次の瞬間。浴室に智史を置きっぱなししていることを思いだし、慌てて救出に向かったのである。 その頃、智史はバスタブの中で溺れかかっていた。 これからも、相変わらずな彼ら、である。 そして──今回に限ってやけにすんなり引き下がった、風折生徒会長様が、いったい何をどこまで知っているのかは、神のみぞ知るのである。 おしまい☆ |