約 束


『近所で事件が起きたから今日は遅くなる』
俺は小さなため息をつきながらメールを送信した。

22時という、『帰るコール』ならぬ『帰れないメール』を送るにしては遅すぎるくらいの時間にメッセージを受け取ったアイツは、今ごろどんな表情をしているだろう。

ガッカリしてるだろうか?
ホッとしてるだろうか?
…それとも、怒っているだろうか?

もっと早く連絡したかったけれど、そんな余裕がなかった事はアイツも承知しているはずで。
アイツが心配してくれているのはわかっていても、俺にとっては仕事が一番大切で…。
そのためだったら、自分が傷付こうが、万が一命を落とすような事になろうが、本望だと思っていた。

──アイツのあんな顔を見るまでは──

2年ほど前、俺が刑事になったばかりの頃、ちょっとしたヘマがもとでアイツと連絡が取れなくなった事があった。
やっと俺の意識が戻り、見舞いに来てくれた時のアイツの表情は一生忘れられない。

俺が今まで見た事もないくらい怒っているのに、今にも泣きそうで…。
病室に備え付けの冷蔵庫を殴って、看護士さんに叱られていたっけ。
きっとアイツは俺の事を殴りたかったに違いない。
本当は殴らせてやりたかった。
殴って俺が本当に生きているんだって事を実感させてやりたかった。
どんなにアイツが俺の事を心配していたか、わかったような気がしたから。
そして、二度とアイツにあんな表情をさせたくないと思った。

…だけど、俺はこの仕事を辞める事はできない。
親父が警察官だったからというだけでなく、何よりも俺がこの仕事に誇りを持っているから。
刑事という仕事を辞めるという事は、俺が俺らしく生きられなくなるという事だから。

アイツを心配させたくない。
だけど仕事は辞められない。
ならばいっそ一切の連絡を絶って、遠くからアイツの幸せを見守っていればいいのに、そうする事もできない。

だから、アイツが同居を言い出した時、二つ返事で承知した。
せめてアイツの気が済むならと。
もちろん、いろいろと不自由になる事はわかっていたけれど。
だけど、新しい生活は思っていた以上に楽しくて。
時間が不規則で、同じ家に住んでいながらすれ違いばかりの生活だけど、アイツが待っていてくれると思うだけで嬉しかった。

約束通り、遅くなる時には連絡を入れるから…。
非番の時には、なるべく掃除もするから…。
だから、俺の我が侭を許して欲しい。
アイツを傷つけるとわかっていても、側を離れられない俺の弱さを許して欲しい。

俺は約束を守るから。
俺は絶対死なない…例えどんな重傷を負っても生き延びて、アイツの元に帰るから……。


──アイツが俺を待っていてくれる限り──



─The End.─

2005.01.03



※桐島紗香さんのサイトで、77077という微妙なミラー番を踏みつけて、
 『例の『アイツ』でお願いします』と暗号のようなリクエストをして書いて頂きました。
 これで解ってくれる辺りが大好きよ紗香さん♪
 素敵なお話どうもありがとうございました!

 ってな訳で(毎度のことながら、どんな訳だ?) このお話には、
 冴木が書いた『待ってるアイツ』視点の話もありますので、
 お暇だったら読んでみてください♪

この話を書かれた桐島紗香さんのサイトはコチラ→『Half and Half』

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