Don't forget -3-


暗い夜道。彼らはあえて歩いて行くことにした。

「なぁ、結局剛君ってあのこと二人に話してなかったん?俺、言っとけ言うたやろ?」

岡田が言った。

井ノ原は驚いた。

岡田は全部知っていたのか?剛の健に対する想いも。全て知っていたのか?知らなかったのは俺だけなのか?

井ノ原の胸に、さっきは驚きで沸いてこなかった剛に対する怒りが沸き上がった。

井ノ原は全身の怒りを瞳に込め、剛をにらみ怒鳴った。

「お前なんなんだよ!!お前も健が好きだったのか?なら、何で言ってくれなかったんだよ!!

 俺達の仲を取り持ってくれたのはお前だろ!健が好きなら・・・何で言ってくれなかったんだよ!!?

 お前の気持ちに気付いてやれなかった俺も悪かったけど、言ってくれればお前を傷つけるようなことも無かったかもしれないだろ・・・。俺は、仲間として、お前のこと大好きだから、苦しめたくは無かったんだ・・・。」

最後の方は涙で声がにごっていた。

岡田は黙って二人の様子を見ていた。

「・・んだよ!!だって現に健はお前のこと覚えてねーじゃん!!

 そんな奴が恋人より、Jr.のころから親友の俺が恋人になってやったほうが健は幸せだと思ったんだよ!!」

ガッ・・・

鈍い音がした。

剛はわけがわからないまま道に倒れこんだ。

岡田が剛を殴ったのだった。

「えぇかげんにせえ!!お前何様のつもりやねん!!健君の幸せ?!そんなもん健君が決めることで、お前が決めること

とちゃうやん!!お前は健君にとってそんなに大きな存在なん?!幸せまで決められるような存在なんか?!

 よう考えてみい!!さんざん健君利用して、イノッチ傷つけて、まだわからへんのか?!」

岡田は本気で怒っている。肩で息をし、押さえのきかない怒りを全て流れ出る言葉に託している。

「だいたいお前、さっきイノッチが言うたこと、ちゃんと聞いとったんか?!イノッチは、健君が好きなら、何で言ってくれんかったんかって言うたんやで!!健君が好きやってお前が教えてくれとれば、お前の前で健君と仲良うして、 

 お前に嫌な思いさせんでもすんだのにって言うたんやで!!こんだけ傷つけられても、お前の気持ち心配してくれてんねやで!お前イノッチに負けても当然やわ!!」

頬の痛みで冷静さを取り戻した剛の心に、岡田の言葉が深く響く。

 そうだ。井ノ原は一度も俺が健に偽りを教えたことを責めてはいない。

ただ、教えてくれれば俺に嫉妬させるような行為を目の前でして、俺を傷つけることも無かったと、そう言っただけだ。

剛は井ノ原の顔を見た。

井ノ原は俯いたまま、剛の顔を見ようとはしない。

深く長い沈黙。もう誰も口を開こうとはせず、3人の足音と自分の鼓動が、それぞれの耳にやけに大きく響いた。

3人は健のマンションに着いた。

「俺、気分ワリーわ。スマンけど帰る。」

「えっ・・・。」

なんと、突然岡田が帰ると言い出した。

「なんでだよ。」

剛が明らかに不機嫌な口調で言う。

自分自身に腹を立て、その思いを誰かにぶつけることができないせいだろう。

「だから気分ワリーって言うてるやろ。それに今回のことは俺にあんまかんけーない。」

「ワケ全部知ってて関係ないだと?!ふざけんなよ!!」

剛はもう、自分のプライドを捨てているようだった。こんなこと言える立場じゃないのに。

「そうだよ・・・。それに俺はお前にキスされたんだぞ・・・。お前にはちゃんと最後まで居てもらった方が良いと思うしな。4人で話し合おうぜ。」

井ノ原は消え入りそうなほど小さな声で静かに言う。

剛は驚いた。岡田が井ノ原にキスした?そんな素振りなんか見せていなかった。岡田も、井ノ原も・・・。

3人はそれぞれ混乱したまま、健の部屋のベルを鳴らした。

出てきた健の瞳はうっすらと濡れている。

3人が中に入ると、テレビがついていた。電気の明かりは無く、真っ暗の部屋にただテレビの明かりだけがあった。

V6のコンサートビデオ。井ノ原のソロ、『お前がいる』が終わろうとしていた。

「健・・・お前これ・・・。」

井ノ原は驚き、健を見て言った。

「少しでも井ノ原さんのこと思い出そうと思ってビデオ見てて。なんかこのシーン見てたらすごく嬉しくなって、それですごく寂しくなって、ずっと巻き戻して見てたの・・・。」

健の目から涙が溢れ出た。必死で堪えようとしても涙は後から後から溢れ出てくる。

井ノ原は思わず健を抱きしめた。キツク・・・ツヨク・・・・。

「ごめん・・なさい・・・。俺・・思い出せなくって・・。ごめ・・なさい・・・。ごめんな・・さい・・。」

井ノ原はさらに力をこめて健を抱きしめた。

「もういい・・。いいんだよ。お前が悪いんじゃないんだ。気にしなくていい・・。」

その言葉が優しすぎて、ずっと待っていた言葉が聞けて、健は怖くなった。

こんなに優しい人が、本当に俺を愛してくれているんだろうか。

すぐに、すりぬけていってしまう夢じゃないか。

怖い・・・。離したくない・・・。

「健・・。大丈夫・・・。俺は何処にも行かない・・・。」

井ノ原は健の心中を察したのか、優しく温かい言葉をかけた。

そんな2人をじっと岡田と剛が見つめていた。

ふいに、剛の目から涙が一滴流れ落ちたが、このことを知るのは後にも先にも岡田一人だった。

岡田は剛の肩をたたいて妙に明るく言った。勿論、健たちに気付かれないよう小声で。

「ま。俺ら2人そろって失恋っちゅーことやな。また新しい恋でも探すか!健君のこと諦めて。」

「ハァ?!諦める?なんで俺様が健ごときのためにそんな事しなきゃなんねーんだよ。俺が!健を!フッたんだよ!

 俺にはねぇ、日本中に愛するFANの子達が五万といるんだ。こんなチッコイことでいつまでもグチグチしてるほど、俺は安っぽい男じゃねーんだよ!」

岡田は少しムカっとしたが、それが剛の精一杯の強がりだとわかっていたので、許してやることにした。

2人はそっとマンションを出た。もう話し合わなくても大丈夫だろう。

剛は岡田に、後で2人に謝ることを約束した。今は2人をそっとしておきたかった。


しばらくして、健がやっと泣き止んだ。

井ノ原は、健が泣き止むまでずっと抱きしめてやっていた。何度も優しく頭を撫でてやった。

健はとても幸せだった。

自然と涙は消え、笑顔が零れるようになった。

「ごめんね。井ノ原さん。俺、絶対思い出すからね。」

井ノ原は苦笑して言う。

「健。その前に『井ノ原さん』はやめろよ。前みたいに『井ノ原君』って呼んでくれよ。」

「あ・・うん!わかったよ。井ノ原君!」

健は天使のような笑みを井ノ原だけに向けて言った。

あぁ、これは健だ。俺が愛し、俺を愛してくれた健だ。何も変わってなんかいない。

「なあ、健。お前は何も変わってなんかいない。俺達は変わっていないんだ。思い出が消えたなら、また思い出を作っていけば良いんだ。」

「うん・・・。」

井ノ原は片手でゆっくりと健の髪を撫で、そして頬を包み込んだ。

健は一瞬、ピクッと身体を震わせたが、すぐに力を抜き、目を閉じた。

その仕草が妙に可愛らしくて、井ノ原はクスッと笑った。

そして、健の頬に残る涙の跡を唇でなぞり、そのまま健の唇に自分のそれを重ねた。

その瞬間、健は頭の中に風が走るような感覚をおぼえた。

「あ・・・!」

何度も感じた、この唇の感触。いくつもいくつも積み重ねた忘れようのないくらい幸せな記憶。

俺の誕生日、去年のクリスマス、初めて両想いだとわかったあの日、2人で仲直りした海。

いろいろな思い出が一気に頭の中を駆け巡り、最後に健の頭に浮かんだのは井ノ原の優しい笑顔だった。

「健?」

健は井ノ原をじっと見つめ、ふわりと井ノ原の唇にキスをする。

井ノ原は突然の健の行動に驚いたが、以前の健の眼差しで、健の記憶が戻ったのだと直感した。

「健・・・俺のこと思い出したか・・・?」

健は心底嬉しそうに言った。

「うん!!俺、井ノ原君のこと全部思い出したよ!!」

「健・・・・。」

井ノ原と健はかたく抱きしめあった。もう二度と離れられないように。






健はいつかと同じようにエプロンをして、夕食を作り出した。

たいてい、夕食などは外で済ませることが人一倍多い健が、チャーハンを作るのに苦戦する姿を見て、井ノ原の胸は高鳴った。健が可愛くて可愛くて我慢しきれなくなり、井ノ原はそっと後ろから健を抱きしめた。

そんな井ノ原に驚いた健だったが、健は優しく井ノ原に言った。

「待ってて、もうすぐできるから。・・・あぶないし。」

背伸びをして、そっと井ノ原の頬にキスをする。

井ノ原は、高鳴る鼓動を押さえてリビングのソファーに座った。

10分程して健が料理を運んでくるまで、TVがついているにもかかわらず、井ノ原は落ち着かなかった。

すごくいい匂いのする、でも少し焦げたチャーハンを見て、井ノ原は思わず顔がほころんだ。

二人で夕食を食べるなんて久しぶりのことだ。

二人とも、幸せのために笑顔は絶えなかった。

井ノ原は健の作った料理が、今日に限っては特別に美味しく感じた。

そして、井ノ原は健と一つになることを強く願った。

井ノ原はゆっくりと健にキスをする。

始めは優しかった井ノ原の唇がだんだん貪るように激しくなった。

健の着ていたTシャツを脱がせ、唇を首に、肩に、胸に、腰にと徐々に滑らせた。

健は顔を真っ赤にしたが、抵抗することはなかった。

それどころか、井ノ原とこんなことができることに対し、嬉しさを感じるほどだった。

井ノ原は健の唇に、頬に、耳にキスを降らせる。

小さく声をあげて、腕の中で乱れる健を愛しく思い、井ノ原は健の身体に自分の身体を重ねた。

健はその行為に、始めは苦痛でしかたがなかったが、続けるにつれ快楽に溺れていった。

二人の初めての夜はこうして過ぎていった。






次の日の朝。

井ノ原は健よりも、早く起きた。

健の寝顔はいつ見ても、他の誰よりも可愛い。

そんな健の顔を幸せな気持ちで見つめていると、健は

「井ノ原くん・・・。」

と、寝言を言った。それを聞いて、井ノ原は健の額に唇を落とす。

健はゆっくりと目を開けた。すると、井ノ原の顔がすぐ近くにあったので、驚いて顔を赤らめる。

「おはよう、健。」

井ノ原は優しく言った。

「おはよう、井ノ原くん。」

健も朝一番に満面の笑顔でこたえた。

井ノ原は健の耳元で言う。

「昨日のことは二人の秘密にしておこうな。剛にも、岡田にも内緒で。」

そして、健の耳にキスをする。

さらに頬を赤らめる健だったが、そっと頷いた。

二人は優しくキスを交わし、何度も誓い合った。

「もうお前を離さない。ずっと一緒にいるよ・・・。」と。






健は昨夜のように朝食を作ってくれた。

健はトーストにジャムをぬって、井ノ原にわたした。まるで新婚のように幸せだった。

二人は急いで朝食を済ませ、支度をした。

そして、今日は二人で家を出た。

勿論、出る前にキスを交わして・・・。

テレビ局に着くと、二人は昨夜何事もなかったかのように楽屋へ向かった。

楽屋にはメンバーが揃っていた。

メンバーは皆、健の記憶が戻ったことを知り、とても喜んだ。

「よかったな!!」

剛が言う。

「悪かった。勝手なことして・・・。」

「もう、いいよ。」

予想に反して、井ノ原はすんなり許してくれた。

剛は戸惑い、健を見ると健もにっこりする。

剛がキョトンとしていると、スタッフからお呼びがかかった。

「さ!行こうぜ!!」

井ノ原が大声で言った。

「おう!!」

全員で収録に向かう。

今日もV6はFANのため、自分のため、そして大切な人のために生きている。











THE−END











なんか、凄い物を貰っちゃった感じがします。これはお友達と共同で作り上げたんだそうですけど、初書きとは思えないほど素敵な作品。ついでに私の大好きな記憶喪失モノ。長くて、健くんといのっちだけではない、剛くんや岡田くんの気持ちまで考えてしまいます。今後も彼女の作品はどんどん載せていきますので私共々よろしくお願いします☆

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