理想のヒト |
《Side:KEN》 オレの理想の恋人は、カッコイイ人。 カッコイイ女の人って良くない? 可愛い女の子より、カッコイイ大人の女。 やり手のキャリアウーマンタイプとかもいいんじゃないかな? 男と同じ仕事をするって、男にも女にも結構疎まれがちじゃん。 その中で孤高の戦士みたく頑張って、馬鹿にしていた男達を見返すことのできる人って、カッコイイよね。 お姉様、僕を守って、ってカンジ。 年上ウケするこの容姿だったら、ある程度の人は引っかかるでしょ。 オレをぬいぐるみみたいに可愛がってくれるとうれしいな。
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「…って、言ってたよなぁ確か」 クリームソーダをつつきながら剛が言った。 ここはオレたちのお気に入りの喫茶店。 大通りから少し外れていることもあって人は少ないけど、それなりに繁盛してるみたいな店。 この落ち着いた雰囲気が好きで、昔からよく来てる。 「そうなんだよねぇ」 オレはあったかいミルクティーを一口飲んで溜息をつく。 「どうしてあーゆー理想に反するような人を好きになっちゃったかなぁ…」 ティーカップを置くとカチャリ、と音がした。 「はっきり言ってさ、オレお前があいつを好きっつったとき、寝ぼけてんのかと思ったぜ」 「…ちょっと言いすぎじゃない?」 「まぁ聞けって。坂本くんとか長野くんなら納得いったよ。まだね。よりによって井ノ原だぜ? 正直お前の目は節穴だって、ショックだったんだよ」 バニラアイスをぱくんと口に入れ、冷たさに目を閉じる剛が可愛い。 けどなんか凄い事言ってるんだよね、何気にさ。 「マジ納得いかなかった。最初は。オレがこんな奴にお前任せられないって、何とか諦めさせようと頑張ってんのにさあ、あっさりくっつきやがって」 「剛、あの頃やたら井ノ原くんに突っかかってたのって、そういうことだったの?」 オレのグレープフルーツゼリーをつつく手も、剛のアイスをすくう手も止まる。 あちゃーって顔をしているように見えるのは、オレの気のせい? 「ん…まぁ、でもさ、お前の話聞いてると、だんだんいい奴だなって判ってきたから認めざるを得なくなったけどな」 「そうだよ。井ノ原くんは優しいし、理想とは違うけどすっごくカッコイイんだから!」 決まり悪そうにソーダを飲む剛に、オレはここぞとばかりに言う。 「普段そのままでも充分過ぎるほどカッコイイけど、オレがちょっと過ぎた我儘言っちゃったかな〜って時でもにっこり笑って『いいよ』って言ってくれるし、オレが料理できなくて悔しくて泣いた時も『いいんだよ。健には他に出来る事いっぱいあるだろ』って慰めてくれるし、寂しいときもぎゅっと抱いててくれるし。すっごく大人でカッコイイんだよ、井ノ原くんは」 ふっふっふ。力説しちゃった。 どうだ剛、井ノ原くんの凄さがわかったか! 「お前さー、ホント好きなんだなアイツのこと」 あれ、剛もしかして呆れてる? 「呆れるっつーか…よかったな」 「…うん…」 なんだかんだいって、オレを一番心配してくれてるのが剛なんだ。 それに剛だって。 「剛だってさ、今幸せなんじゃん?」 「ん…、まあね」 あ〜らら、頬赤らめちゃって。 言うと剛は怒るけど、こういうトコ可愛いよね。 天下の森田剛が、たった一人の人にメロメロなんだからさ。 ふと時計を見る。 「あ、そろそろ時間だけど、行こっか? 駅で待ち合わせなんだろ」 「お前こそ、そろそろお迎えが来るんだろ?」 クスクス笑い合いながら店を出る。 「じゃーな。明日遅れんなよ」 「剛こそ」 手を振って、駅の方向へ駆けてく後姿を見送る。 愛しい人に逢える嬉しさいっぱいってオーラが出てて微笑ましい。 そんなオレの元に一台の車がやってくる。 「健」 「井ノ原くん。早いね、時間ぴったり」 ドアを開けて、遠慮もなしに助手席へ乗り込む。 「時間ぴったりは早いとは言わないよ〜って、今の剛だろ?」 「うん、アイツもこれからデ・エ・ト♪ なんだって」 「ほ〜お、なんかウキウキしてんな」 「オレもね、今すっごいウキウキしてるよ」 「そう? 実は俺もなんだよ。健ちゃんとデートできるなんてもうウキウキだよぉ〜」 一人テンションの高い井ノ原くん。 確かに理想のカッコ良さとは違うけど、今が幸せだから過去の理想なんてどうでもいいんじゃない? 理想と現実は違ってて当り前だしね。 これからの未来を創っていくのは他でもない、現実のオレたちなんだから。
END
健くんバージョン一番の謎。剛くんの相手はいったい誰か(笑)特に決めていないので、お好きな方を想像してお楽しみ下さい。一応、受っぽく書いたつもりなのでそのようにして頂けると助かります(笑)この話は、二人の差をわかって頂けると嬉しいですね。理想について語るシーンの長さや内容なんかも、大袈裟に差をつけているので。さて今後は、イノッチメインでも相手を変えた話を書きたいです。さしあたってはカミセンの誰かかな。 |