思った以上に細い足を、彼の上半身に押し付けるように開き、ライエルは息を呑んだ。
同じ男の体だというのに、その身は思った以上に甘い匂いを放ち、その形はライエルの劣情を煽った。
「良いか?」
ともすれば掠れて聞き取りにくくなってしまう声で問いかければ、潤んだ瞳を目蓋で隠し、微かに頷く。
普段の彼からは創造も出来ないその様子に、暴走しそうになる己を何とか押し留めて、ライエルは散々嬲り広げたそこに、己の熱を溜めきったものを押し当てた。
「んっ……」
押し殺した声が、しかし漏れ出でるのが聞こえる。
触れたところが互いに波打ち、その先を期待する。
ライエルは体を傾斜させ体重をかけると、ヒクヒクと収縮を繰り返しているそこに、切っ先を押し込んだ。
「あ、ああっ!」
狭い肉が無理矢理押し開かれ、ライエルの熱いものをゆっくりと飲み込んでいく。
痛みにか、その衝撃にか、若い体は反り返り、感覚の鋭さを伝えてくる。
しかし包み込むその肉は柔らかくライエルを包み、その囲いは酷く熱かった。
ことさらにゆっくりと身を勧めるライエルに、彼の目が見開かれる。
涙の膜に覆われた目は綺麗で、その左右の色の違いが不思議な光を放ってライエルを見つめた。
――誘われている。
そんなはずはないのに、思ってしまった。
内を犯す熱が奥へ進む度、びくびくと反り返る体。
無駄な肉のない綺麗に整った体が、今ライエルの腕の中で官能の波に揺られている。
自身でも気付いていないのだろう。顫動を繰り返す肉が、ライエルを煽っていることに。
奥まで到達するとライエルは吐息一つ零し、目の前で己に貫かれ喘ぐ姿を見つめた。
互いの体が、一点で一つになっている事実。
しかもその相手は……。
無理な体勢ではあったが、繋がったまま体を折ると、ライエルは彼の額にキスを落とす。
同時に、今度は勢いをつけて突上げ始めた。
夢――だと思う。
異様に生々しい夢だった。
起き上がったベッドの上で、ライエルは情けなく、汚れた自分の下半身を見下ろした。
確か昨夜、突然「宿を貸して欲しい」とカーマインがやってきて……。
勿論、普段は忙しく、滅多に会えないカーマインの来訪はライエルにとっても嬉しいものだったから、喜んで迎え……。
しこたま酒を飲んだ。いや、カーマインはまだ未成年だったので遠慮していたが。だがしつこく勧めるライエルに辟易してか、少しは呑んだと思う。
それから……。
――夢……だよな?
それからの記憶は夢と混同していて、しかも飛び飛びだった。
客人を迎える方であった自分は、恐らくカーマインよりも先に潰れてしまったのだろう。
使用人は返した後だったから、ベッドの支度もライエルがしようと思っていたが……本当にしたのだったか?
記憶にない。
そもそも自分が何故ベッドにいるのか、判らない。
そして、飛び飛びの記憶の中……。
やけに生生しい感覚と共に、カーマインを抱いた――ような、そんな気が……する。
「いや、夢――だよな?」
ライエルはしこたま酔っていたが、カーマインは酔っていなかったはずだ。
容姿は妖艶なくせに、存外鈍いカーマインは恋愛ごとには滅法弱い。恐らくそれに伴う肉欲とも殆ど無縁なのでは……と思わせる程にストイックだ。
そのカーマインが、まさか酔っているライエルごときに組み敷かれるとは思えない。
第一に、若々しい今時の外見をしている割りに、カーマインは考え方が古風だ。
好きだと、気持ちを交し合った相手ならともかく、告白もなにも済ませていない状態で、体を許すとは思えない。
「やっぱり夢だな……」
だが本当に生々しい夢だった。夢精すら促す程の。
思春期の青少年ならまだしも、それを過ぎた自分が、しかも性欲に関してはかなり淡白だという自覚があったのに、夢精するまでの生々しい夢を見るとは……。
やっぱり、自覚ある片想いだからだろうか?
そう。ライエルは、既に体が反応する程に、カーマインに惚れていた。
昨晩酒を過ごしたのだって、想い人が側にいるのが嬉しくて、舞い上がった結果だった。
「それで、奴はどこに寝ているんだ?」
夢で犯してしまったばつの悪さはあるものの、客人だ。まさか勝手に帰れというのはいかにも失礼だから、朝食を用意して送り出すのが最低限の礼儀だろう。
ライエルは羞恥を覚えながらも下肢の始末をして服を着込むと、部屋を出た。
出て――硬直する。
「何を……してるんだ?」
自室のドアの外。壁にもたれるようにカーマインが座り込んでいる。
しかも全裸で!?
かけた声に振り向いた顔が、困ったような笑みを作る。
「立てなかったんだ。だから……」
少し赤くなった頬。潤んだ瞳。そして……。
――夢じゃなかったのか!?
薄い胸に広がる、覚えのある紅い跡。
舐めるようにカーマインの全身を見回して、ライエルの心臓が高い音を立てた。
上手く隠していると本人は思っているようだが、ライエルには見えてしまった。カーマインの両足の狭間に流れを作る、白い――液。
「本当に――したのか?」
「え……」
どこまでも困ったような顔。
夢じゃなかった? 汚れた下半身は、本当にした、名残だった?
途切れ途切れの記憶は、正しい記憶。
「えっと……ライエル?」
呆然としたまま止まってしまったライエルに、カーマインは戸惑った声をかける。
ライエルは……。
「クソっ!」
吐き捨てると、カーマインの体を抱き上げた。
「ライエル?」
出てきたばかりの自室に入ると、ベッドの上にその体を下ろし、自らも乗りあがり組み敷く。
カーマインは、戸惑った視線でライエルを見上げていた。
「何故、抱かれた?」
鋭い問いに、カーマインが怯えたように首を振る。
だが、答えはない。
「俺をからかったのか?」
「違う……」
「なら、抵抗出来なかったのか?」
「それは……」
ふい、と反らされる視線を、顎を掴んで戻し、もう一度。
「酔っ払いに絡まれて、仕方なくその体を開いたか? それとも、お前はそんな風に見えて、誰にでも抱かせてやるのか?」
「違う!」
あまりの言い様に視線を鋭く変えたカーマインが叫ぶ。
「昨夜が初めてだ! 大体俺は、男なんだぞ!」
そんなことは見れば判る。だが、カーマインに関してだけは、性の境界が曖昧になってしまう。きっとそれは、彼が男にはありえない色香と整いすぎの容姿を持っているからだろう。
「なら何故、俺に抱かれた?」
もう一度問うライエルに、カーマインの表情が悲しげに歪む。
「先に手を出したのはあんたの方だ。なのになんで、俺に先に言わせようとするんだ……」
恨み言であった。
小さく囁かれた言葉に、ライエルは後頭部を殴られたような衝撃を受けた。
確かにそうだ。抱いたのは自分で、恐らくそれは無理矢理で。
なのに自分はその行動の理由も説明しようとはせず、どちらかといえば被害者のカーマインに対し見当違いの怒りを露にし、その権利すらないのに責めている。
「……すまなかった……」
ライエルは謝り――。
「好きなんだ……」
切ない色を乗せた言葉を、カーマインに告げた。