とんとんとん。
軽い足音、階段を上がる音。
真正面の部屋のドアが開き、ドアが閉まる。
戻ってきた。
夜中近く?
もう翌日だ。
余程僕を避けている?
それでも、もう逃がさないよ、達哉。
子供の頃から溜め続けた好意と行為の雫は、僕の心の中の達哉という器に溢れて、もうあふれ出しそうなんだ。
今夜、僕はどうあっても、お前の体を手に入れる。
心?
心は二の次で良い。
体を手に入れれば、いずれ心もついてくる。 反対?
そんなのは気にしないさ。
色々問題はあるだろうが、そんなの子供の頃から実の弟を肉欲を伴った愛情で好いていると自覚した時から、山のように積みあがっていると自覚してきた。
勿論、普通というものにこだわり、忘れようとした時だってあったさ。
だが、もう駄目だ。
年々僕の目に好むような成長を遂げてきた達哉は、今、高校三年生だ。
このまま指を銜えて眺めていれば、いずれ不相応な奴が達哉を手に入れようと躍起になるだろう。
世界が広がれば、それだけ達哉に群がる害虫も多くなる。
その前に、あの体を手に入れるのだ。
決して僕以外は受け入れないような、僕の独占できる体を、今のうちに作っておかなくては。
お前も本当は、それを求めているんだよ、達哉。
覚えているかい? 子供の頃のことを。
まだ、小学生の低学年の頃。
両親のいない静かなこの家で、僕に何をされていたのかを。
性に未熟な僕を受け入れ、お前は笑いながらでも性行為といものを覚えていったことを。
お前は女のように僕を受け入れ、まず男に抱かれることを覚えたんだ。
だがそれも、子供の頃の遊びに過ぎない。
こうして性行為に意味を見出す年になって、僕に抱かれれば、お前はきっと判るだろう。
自分は、僕の女になる為に生きているのだ――と。
さ、その体を僕に捧げるんだ。
そして、心まで、僕のことで一杯にしてご覧……。
嫌だ……。
背後のドアが恐い。
その向こうにある、魔界の入り口のような、闇に覆われたドアが更に恐い。
部屋に鍵をかけておいたのは正解だったかもしれない。
これで少しは時間をかせげる。
兆候があったら、直ぐに逃げれば良い。
大丈夫。
兄だって一応良識ある社会人だ。
まさか俺をとって食おうとか、殺そうまでは思ってないはずだ。
そもそも、そんなの警察官の正義感が許さないはず。
だが何だろう。この恐怖は。
足の下から這い上がる喪失感。
体中の穴という穴から、どす黒い粘着質なものがしみこんでくるような不快感。
ぞわぞわと肌を這い回る、一種異様な触感。
恐い。
嫌だ。
そんな短い単語ばかりが頭を駆け巡る。
いけない。
ここにいてはいけない。
咄嗟に思った。
ドアを開け、外へ――。
「やぁ、達哉」
ドアの外には、兄の姿が――。
捕まえた。
逃げようとして、腹をしこたま殴られた。
意識が霧散する。
そうだ、優男風のなりでも、克哉は警察官だ。
薄れていく意識の端に、忘れていた事実が引っかかった。
気を失った達哉の体を、克哉は楽しげに担ぎ上げる。
そうだ。この家でするのはまずい。
いざという時に両親にみられでもしたら、問題だろう。
達哉を抱えたまま、階段を下り階下へ。
そのまま玄関を出て、滅多に使わない車に乗せる。
どこに行く?
夢前区?
確か、裏通りにホテル街があった。
管轄が違うので、あまり行ったこともない場所だが、適当な場所で良いだろう。
達哉を助手席に乗せ、ついでとばかりに手足を縛っておく。
抵抗されるのはスマートでない。
意識が目覚めた時には、全て自分のものになっているのが一番良い。
己の中に克哉を銜え込んでいると知ったら、達哉はどんな顔をするのだろうか?
勝気な顔が、絶望に歪むのか。それとも別の何かの感情か?
どちらにしても楽しいには違いない。
運転席に移り、ハンドルを握る。
エンジンをかけ、クラッチとアクセル。
暫く運転してなかった割に、滑り出しは順調だった。
長く運転しないと、クラッチとアクセルの兼ね合いがなかなか難しく感じるものだ。
あとは坂道でバックしなければ問題ないだろう。
といっても、ここから夢前までは坂などは一つもないのであるが。
さすがに夜中ともなれば、後ろ暗い人間以外の車は走っていない。
途中、暴走族と思しき車に絡まれたが、黙って身分証を見せたら大人しく引っ込んでいった。
暫く走れば、派手なネオンの集中豪雨にあう。
あそこにしよう。
駐車場に滑り込んでエンジンを止めた。
助手席に乗せるのは結構簡単だったが、これから引き出すとなると、意識のない人間相手というのは一苦労だ。
達哉も男で、そう軽くはない。
苦労して引き出した体を担ぎ上げ、フロントを無事通過して部屋へ。
派手な内装に無駄な装飾。
とりあえずベッドに達哉を下ろすと、足の戒めだけ解いて衣類を取り去る。
ろくなものを食べてないのだろう。背ばかり高いがそれ程しっかりとした体つきではない。
これで運動すれば、驚く程に見事な肉体になるだろう。
僕にとってはどうでも良いのだが。
利き足となるだろう右足首を縛り、ベッドに括りつける。
抵抗されればされるだけ時間が長くなる。
どうせなら、目覚める前にとにかくプライドごと体を根こそぎ奪っておきたい。
自由な左足をかかえあげ、浮いた腰の下にクッションをあてる。
上がった尻の肉をかきわけ、形の崩れていない肛門を見る。
子供の頃だ。
ここをいじって、幼い性器をつき立てた。
弟は痛がりもせずに受け入れた。
遠い記憶だ。
ポケットからアルミに包まれたクスリを出す。
押収した誘淫剤。
アルミを、下手をせずに歯で挟み、こじ開ける。
中から出てきたのは、小指の先程のタブレット。
これを入れ込み、解けるのを待つのだ。
固く閉じた達哉の菊門の中央に、タブレットの先端を当てる。
ぐい、と押し込むと、すんなりと入っていく。
クスリの形がそこから微かに顔を出す程度まで押し込んだ後、中指を舐めて湿らせると、指ごと押し込んだ。
「ん……」
眠っていても違和感があるのだろう、声を上げる。
タブレットを押し込む為だけに入れた指だったが、そのまま内部をかき混ぜる。
もう目覚めても構わない。
後はクスリがどうにかしてくれる。
だが、その前に奪い取っておくのも良い。
中指を出し入れさせながら、広がりゆく穴を舐めて唾液を注ぎ込む。
クスリが溶け出したのか、どんどん中が熱くなる。
寝返りが増えた達哉を見やりながら、指の本数も増やす。
もう直ぐだ。
もう直ぐこの弟が僕のものになる。
いや、最初から僕のもので、僕以外の誰のものでもない。
二本に増やした指を、中で開いたり閉じたりしながら、隙間に舌をねじ込み、ねちこく中を楽しんだ。
だが、それだけでは足りない。
十分に濡れ、指を締め付け始めたそこに、達哉に触れるだけで高ぶったものを取り出し、押し当てる。
クスリが効いているのか、十分に熱く濡れたそこは、思った以上にすんなりと克哉を飲み込んだ。
「さて、達哉。もう起きても良いぞ」
しっかりとぴったりとはめたままで、達哉を揺り起こす。
肩をガクガクと揺すられ、ゆっくりと覚醒に導かれた達哉。
目をしっかりと開いて――愕然とする。
「に、兄さん……」
「ん?」
下腹に異様な違和感。
兄がちょっと動くだけで、何故か腹の底から湧き上がってくる、考えたくもない――快感。
呆然としている達哉を、満足気に眺めて、克哉はそのままだった達哉の上半身を脱がせ始める。
達哉の視線の前で、ゆっくりと。
撫でるように首から。ボタンを外しながら胸をさらけ、繋がったままの下肢を持ち上げ折り曲げつつ、胸の突起を、達哉に見えるように歯で挟み舌で転がした。
「ふ……」
鼻にかかった声が漏れ出でるのを聞き、声に出して笑うと、達哉の克哉を飲み込んだ奥が締まる。
「達哉。もうこれで、お前は僕のものだよ」
言い聞かせるように、暗示をかけるがごとく、そう囁く。
何度も何度も。
達哉は首を振りながら、それでもゆっくりと動き始めた兄を締め上げ、押さえ込もうとしてもどうにもならない喘ぎを、荒い呼吸に隠す。
表皮がこすれるのが良くて――良すぎて、行為にのめりこみつつも、克哉はその先のことも忘れなかった。
達哉の耳に、丹念に呪いの言葉を注ぎ込む。
「お前は僕のものだ。この体も――心も」
だから、抵抗してはならない。
求めれば何時も開く体で、常に求める心で。
最初は抵抗していた達哉も、行為がエスカレートしていくごとに、その抵抗を弱め、ついには――。
「兄さんのもので良いからっ……」
だから、いかせて欲しい。
そう告げていた。
長く濃厚な克哉の行為は、まだ若すぎる達哉にはしつこすぎる。
官能をこれ以上ない程に引き出され、戸惑いや躊躇い、罪悪感がないまぜになった心理状態で、それでも、克哉によってより以上の快感をもたらされる。
思考が溶け、ついには体が解け、最終的に気持ちが溶けてしまった。
失った意識の底、小さな頃のことを思い出した。
「お兄ちゃんのお嫁さんになる」
自分はそう、兄の克哉に言ったことがある。
「達哉、弟はお嫁さんにはなれないんだよ」
「なんで?」
「男の子だからだよ」
優しく笑った兄は、その時達哉にキスをした。
「じゃ、女の子になる」
優しい兄を他の誰にも奪われたくなくて、本当にその時は女の子になろうと思っていたのだ。
その時は。
もう、優しい兄んて、どこにも、いない、けど――。