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秘書 1

 恋愛なんて、冗談のようなものだ。
 ルーファウスはそう思っている。
 与えられる女性。「これを使え」と言われた時から、肉欲は恋愛とは無縁のものだと学んだ。
 元々感情が希薄で、愛だ恋だに騒いだことはない。
 適当に微笑めば、神羅という巨大背景の影響もあって、誰でも抱くことが出来たし、幸か不幸かそれに見合うだけの外見も与えられていた。
 生まれは高貴でも、育ちが良いとは限らない。
 この言葉はルーファウスのためにあるような言葉だ。
 これまで父親や会社の目を盗んで出来ることは全てやってきた。それが悪いことに類されることでも、躊躇わなかった。
 何もかもを自由に出来る。人の心でさえも。
 だからずっと、そう思ってきたのだ。
 彼に出会うまでは――。



「拒否されましたね」
 苦笑した副社長第一秘書のツォン。来春から調査部の主任に異動が決まっている。
 元々現場で部下を仕切る方が向いているような男で、秘書には勿体無いような能力の持ち主だ。
 暴れ馬と実の父親から称されてしまうルーファウスを、かろうじて副社長室に閉じ込めるのにはそれなりの人材が必要で。だから調査部にいたツォンが秘書へと異例の異動を果たしたのは、今から三年程の、ルーファウスが副社長に就任した時期と重なる。
 しかしながら調査部のたっての願いで、ツォンが調査部へ戻されることとなり、秘書課は現在揺れていた。
 副社長付きの秘書適任者がいないからだ。
「どうせなら、セフィロス辺りを就任させますか?」
「冗談だろう? あれは広告塔だ。秘書には出来ない」
「ですね……」
 現在、社員総数のプロフィールを検討の後、一人のソルジャー候補を秘書課へ異動させようとしているのだが、本人の強い拒否にあっている。
 秘書にされるくらいなら、死んだほうがマシ。とタークスを前に言い切ったソルジャー候補の名をクラウド。現在十五歳の神羅内部では最年少の少年である。
 本来就職年齢の規定は十八からだが、軍部は例外で、十四から入隊することが可能だった。
「そんなに秘書の仕事は嫌か?」
 思わずルーファウスは尋ねる。
「そうですね……他の重役方の秘書ならば、それ程の苦労もないと思うのですが……」
「どういう意味だ……」
「あ、いえ……」
 いかにも失言を、わざとらしく吐き出してしまう辺りがツォンだ。
 クビを恐れない実力派で、過ちと判れば相手が例え社長のプレジデントであってもきっぱりとそれを指摘する度胸がある。
 故にツォンの信頼は絶対で、誰もが頼れる兄貴的な存在でもあった。
 残念ながら、ルーファウスにとっては邪魔で煩い小姑のようなもので、あまりあり難がってもない。
「仕方ない。クラウドは諦めるか……」
 十五にして、仕事は正確。細かいところまで目が行き届く、良い兵士見習いにしてソルジャー候補である、と報告を受けているのだが。
 年齢が若いのも良い。
 育ちきる前の人材を自分好みに育てれば、使えるだけでなく利用が出来る。
 そう考えたルーファウスの思考が浅はかだったのか……。
 その辺はわからないが、本人の強固な拒否を、命令で無理にくじけさせては神羅の威信に関わってしまう。
 あくまでクリーンな企業でなくてはならない。人民の信頼は、築くのは難しく、崩すのは簡単だ。
「お会いに行かれたらどうです?」
「誰に?」
「クラウドに、ですよ。もしかしたら、本人を目の前にすれば、気が変わるかもしれない」
 ルーファウスは眉を寄せる。
「本当にそう思うか?」
「いいえ」
「だろう?」
「ですが、何もしないであきらめるのも、ルーファウス様らしくありませんしね」
 ニヤリ、と笑うとツォンはメモを手渡す。
「これは?」
「今日のクラウドの予定です。さりげなく仕事振りでも見学なさったら良い」
 受け取ったメモをしげしげを眺めて。
「こんなに立て込んでいるのか?」
「そうです。クラウドの仕事量は、平均してそのくらいですよ」
「凄いな……」
「だから、実力がある、と申し上げたんですよ。幼くても仕事は出来る。そして……」
「そして?」
 ツォンはニヤリともう一度笑う。あまり性質の良くない笑いなのだが、ツォンがすればそれなりに様になる。
「それは見てからのお楽しみ、と言う奴ですか。私の見込み違いかもしれませんし」
「?」
 ルーファウスは首を捻る。
 そして。
「なら、行ってみるか……」
 立ち上がった。



 クラウドは頼まれた書類の束を、資料室へ運んでいる最中だった。
 兵士見習いとしてソルジャー資格試験を待つ身なら、毎日はこんなものだ。
 細かい性格が災いしたのか、他の候補生より仕事は多い。今も他の候補生に頼まれるはずの仕事がクラウドに回ってきている最中で、これもその一環である。
 これから資料室へ書類を運び、そこでファイリング作業に入るのだが、これがまた面倒なのだ。
 出来れば遠慮したい仕事なのだが、これも兵士見習いの仕事なのだ、と言われれば、給料を貰っている身としては断わることも出来なかった。
 だからといって、これを一人でこなせ、と言われるのも変だと思うのだが……。
 たどり着いた資料室前。両手に持った書類のおかげでドアを開くことが出来ない。
 迷った末、足でこじ開けようとしたところ、横から手が伸びてドアを開けてくれる。
「あ、ありがとうございます」
「いや……」
 見れば高そうなスーツを着こなす美丈夫が立っている。
「えっと……資料室に用ですか?」
「ああ……そのようなものかな?」
「じゃ、先に使ってください」
「先に? 君は?」
「この資料室、外からはそれ程でもないんですけど、中は物凄く狭いんです。作業するなら、一人が精一杯なんですよ」
「そうなのか?」
「はい」
 クラウドは言うと、どうぞ、とドアの前からどいた。
「いや、君が先に使ってくれ。私は後で良い」
「でも俺、かなりかかりますよ?」
「構わないから、先に使ってくれ」
「そうですか?」
 クラウドは首を捻りながら室内に入る。
 何故か直ぐに美丈夫も一緒に入ってきて、狭い資料室内はそれで一杯になってしまった。
「本当に狭いな」
「でしょ? 資料棚の置き方が悪いのか、資料に対して室内が狭すぎるのか疑問なんですけど、きっと、どっちもなんでしょうね」
「そうだな。この量でこの広さはさすがに狭すぎるだろう」
「一度総務に部屋替えの申請出したんですけど、却下されたそうです。軍部の資料なんて、大したものはないだろうって。確かに軍部は肉体労働ですけど、それなりに書類は溜まるんですけどね」
 クラウドはからからと笑いながら書類を作業机に下ろすと、ファイルを取り出す。
「軍部の資料はすべてこの部屋に集るのか?」
「そうですよ。一部重要書類は統括指令室にありますけど、他は全部ここです」
「総数一万を越える兵士の資料が、全部この部屋か。狭すぎるな」
 棚は部屋の四隅から、中央に二列配置され、しかも天井まで伸びた資料棚の全てにファイルがぎっしり詰め込まれている。
 これで地震なんてこようものなら、資料は崩れて何がなんだか判らない状態になるだろう。
「デジタルデータ化はしないのか?」
「したいんですけど、端末を支給してもらえないんです」
「軍部にも予算が組み込まれているだろう? 端末処理すれば、いちいち資料室へ書類を運ぶ手間もなくなるんじゃないか?」
「予算のことは知りませんけど……端末は買ってもらえそうにないから、デジタルデータ化は無理じゃないでしょうか?」
「軍部統括か、総司令辺りに話を通すか……」
 呟く青年に。
「統括は出張で、総司令は行方不明ですよ」
「なんだって?」
「先日社長からの直接命令で、統括は新たな魔晄炉予定地の視察に行きました。総司令は、出社はしてきてるみたいですけど、社内に姿が見えないんです。何時ものことですけどね」
「何時ものこと……」
「仕事はちゃんとなさってるから、誰も文句は言いませんし、多分……嫌なんじゃないかな?」
「何が?」
「総司令の執務室、作戦会議室と同じなんですよ。あの部屋じゃ、落ち着いて仕事が出来ない、って言ってました。そりゃそうですよね。作戦会議の度に数人がずかずか入ってきて、仕事の邪魔をするわけですから……」
「そんな状態なのか、軍部は」
「そうですよ」
 話しながらもクラウドの手はてきぱきと動く。
 あれだけあった資料が全てファイル分けされ、残すはラベリングだけになっている。
 クラウドはラベル作成機の前に座ると、目を見張る速さでラベルを作成していく。
「君は、そういう仕事が得意なのか?」
「得意というよりは、もう慣れですかね」
 クラウドは笑う。
 ラベルを吐き出す印刷機の角度を変えて、出来上がったラベルが床のダンボールの中に落ちるようにしているのが、頭が良いというところか。
「入社してから、まず覚えたのがこの仕事なんです。他には何も出来ませんでしたから」
 最年少入社社員なら、そうだろう。だが軍部の人間でもある。
「任務には出ないのか?」
「まだ訓練が途中ですから」
「成る程……」
「ソルジャー資格試験には間に合いたいんですけど、今年は無理ですかね?」
 ラベルを作り終え、ダンボールから取り出すと、今度はファイルの背に貼り付けていく。
「何故?」
「体が出来てないんです。普通の男なら、十五でかなり体が作れるはずだって言われたんですけど、どうも成長遅いみたいで。一度適性検査で引っかかってるんで、今度ひっかかると適性検査自体受けられなくなっちゃうんですよね」
 ソルジャー資格試験を受ける為には、資格試験に耐えられるかどうかの前段階として、
適性検査が行なわれる。
 肉体、精神。共にある程度の強さがなくては、資格試験にすら耐えられない。
「……となると、ソルジャーになるのは、体が出来上がってから、ということだな?」
「そうですね。そうなれると良いんですけど。誰もがソルジャーになれるわけじゃないですから」
 神羅軍部でも、ソルジャーになるのは極一部の人間だ。
 まずは適正検査にひっかかり、資格試験を受けたとしても、ある一定以上の総合値をマーク出来なくてはソルジャーになる為の強化措置を受けられない。
「もしも、ソルジャーになれなかったら、どうするつもりなんだ?」
「そうですね……」
 クラウドはラベルを貼り終えたファイルを棚に戻し始める。
「国に帰る――ってことも考えてるんですけど、ソルジャーになるって大見得切った奴が、のこのこ帰れるはずもないし……」
「兵士になるか?」
「うーん。それも考えてます。学歴ないんで、まさか研究者にはなれないし、デスクワークも出来ないと思うんですよ」
「何故?」
「書類とか、読んでも意味が判らなかったら、仕事にならないじゃないですか」
「成る程な」
「なんで、目下のところ、一番可能性のあるのは、兵士ですね。これなら、体動かして状況判断だけで何とかなりそうですから」
 クラウドは笑うと。
「じゃ、仕事終ったんで失礼します」
 頭を下げて資料室を出て行った。



 狭い資料室の中、ルーファウスは胸元から出した電話を繋げる。
「ああ、ツォンか? 軍部にこれからクラウドの辞令を私が持っていくと言っておいてくれ」
 告げて。
『気に入ったんですね?』
 面白そうに言うツォンに、ルーファウスは薄く笑ったのだった。


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