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秘書:初体験 1

「だから、お願いします!」
 副社長秘書室。
 エレノア=グリーグ副社長第二秘書のデスクの前、クラウド=ストライフ副社長第一秘書が深く頭を下げている。
 理由は明白。秘書にしては長い、七日間の休暇を申し出ているのである。
「七日かぁ……」
 勿論、その七日間は副社長も休暇を取っている。どこにも問題はなさそうに見えるが、実は違う。
 ルーファウス=神羅副社長。彼が副社長室にいないということは、この副社長室に回ってくる仕事の殆どを、秘書の裁量で他の部署の役付きに送らなくてはならないということで。
 余計な仕事が回ってくることを、多くの人間はよしとはしない。
 要するに、まわした仕事が戻ってくる場合が多いということだ。
 しかも、エレノアは第二秘書であり、第一秘書のサポート的存在と、表面上はなっている。
 第一秘書から仕事が回されてくるのならば話はわかる。が、それが第二秘書となったら、役付き達は多いにご立腹めされるだろう。
 考える胃痛がしてきそうだ。
 エレノアの難しい顔を見て、クラウドは困った顔になる。
「やっぱり……無理……ですよね……」
 そんな悲しそうに言わないで欲しい。と、クラウドの母親気分の自覚があるエレノアは困ってしまう。
「せめて、もうちょっと期間を縮められない?」
「それが……」
 クラウドにしても、七日は長いと思ったのだ。
 が。
「全国の魔晄炉の視察も兼ねるってルーファウス様が……」
「視察?」
「はい。えっと……最近各地の魔晄炉設置地域に、不可思議な噂が多いって言われてて、その原因を、個人的に探りたいって言うから……」
「それじゃ、出張じゃないの?」
「えっと、あくまで個人的に探りたいから、休暇で、って……」
 個人的が聞いて呆れる。
 要するに、ルーファウスの心情としたら、視察は二の次で、本当はクラウドと新婚旅行気分を味わいたいのに決まっているのだ。
 だが、一言旅行に行きたいとは言いづらく、なので視察を兼ねて全国を、ということに、便宜上はしているのだろう。
 不器用な男だ――とエレノアは思う。
「そうね……なら、こうするのはどう? これなら会社の方にも言い訳が出来るし」
「言い訳?」
 クラウドは首を捻った。



「それで……結局出張申し込みをしてきたのか?」
「はい……」
 二人きりのベッドの中で(勿論パジャマ着用)、囁きトーク。
 ルーファウスの腕に抱きこまれたまま、クラウドは休暇申請した後の話をしている。
「エレノアさんが言うのには、どうせ魔晄炉を見たいのなら、会社の方から各地魔晄炉の警備施設に連絡を送らなくてはならないから、出張の名目の方が自由に動けるって……」
「確かにな……」
 だが、旅行気分は一気に薄れてしまう。
「それと、どうせ魔晄炉を見回るなら、ニブルヘイムの神羅屋敷の様子も見てきて欲しいと言っていました」
「神羅屋敷か……」
 懐かしい名前である。
 遠い昔になるが、ルーファウスも一時別荘としてその屋敷を使っていたことがあった。
 その後、宝条の個人研究所として使われていた時期があり、今ではただの空家となっている。
「ならば、ニブルヘイムでは神羅屋敷を宿として使うか……」
 溜め息交じりに言うルーファウスに、クラウドはもじもじする。
「どうした?」
 らしくないクラウドの様子に、思わず尋ねたルーファウスに。
「あの……ニブルヘイムには俺の実家があるんです。良ければ……宿に使いませんか?」
 淡く頬を染めて言うクラウドに、ルーファウスは驚く。
「実家? クラウドはニブルヘイムの生まれだったのか?」
「はい。そうなんです」
 久し振りの実家が嬉しいのか、それとも実家にルーファウスを連れて行けるのが嬉しいのか、とにもかくにもクラウドは嬉しそうに頷いた。
 ふむ、とルーファウスは思う。
 ここは一発クラウドの両親にきちんとご挨拶を。
 好感触を得ていれば、後はミッドガルの法で結婚はお手の物だ。
 すっかりご両親に挨拶気分になるルーファウス。おもむろに電話に手を伸ばすと。
「調査部主任室に回してくれ」
 電話の先は神羅の交換台。
 「暫くお待ち下さい」の返事の後、直ぐに主任室に電話が送られる。
「はい。総務部調査課主任室です」
「私だ」
「どちらの"私"でしょうか?」
「副社長のルーファウス=神羅だ」
「お久し振りです……」
 相手はツォン。かつてのルーファウスの秘書である。
「挨拶は良い。明日、適当なものを見繕って、ニブルヘイムの神羅屋敷に送りつけておいてくれ」
「適当なもの――ですか?」
「ああ。荷物にならない、適当に高価なもので頼む」
「……承知しました」
 訝しげな声も隠さずにツォンは了解して、そのまま電話を切ってしまった。
 当然だろう。今の時間だと、時間外労働中で、しかも各調査員からの報告書を整理する仕事に追われているはずだ。
「神羅屋敷に荷物を送るんですか?」
 クラウドが不思議そうにルーファウスを見ている。
「ああ……」
「じゃぁ、手ぶらで出かけるんですか?」
「ん? いや……荷物は持っていく。土産をな」
「土産……?」
 クラウドは首を傾げる。
 ルーファウスにしたら、クラウドの両親に挨拶をする際、手土産を持っていこうという意思だったのだが、クラウドには想像もしないことである。
「とにかく、明日は早朝に出発するから、支度をしておけよ」
 甘く笑うルーファウスにきゅ、と抱きしめられ、クラウドはやはり頬をばら色に染めながらこっくりと頷いたのだった。


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