ある時俺は、決意した。
こう――くすぶった気持ちをどうにかして収めないと、平静に任務がこなせないことに気付いたからだ。
そう。最近の俺は、おかしい。全くおかしいにも程がある。
何かっちゃ、考えるのはスコールのこと。しかもちらり見したあの白い足が、脳裏をちらちら過ぎりやがる。
それだけなら、まだ良い。
最近は夢にまで見る。
そう、もう思い出したくもない、スコールを素っ裸にして、押し倒す――あの思春期丸出しの、あれだ。あれ。
夢の中のスコールは、従順で表情豊かで色っぽい。
俺が何をしても受け入れる奴が、俺の中で好き勝手されてる。
冗談じゃない!
夢で見た次の日なんか、スコールに会ってみろ。
まともに顔も見れなくて、どうしたんだそりゃ、ってもんだ。
顔は真っ赤になりやがるし、噂を助長させるだけだろ?
ってことで、俺はこの気持ちやらモヤモヤに決着をつけることにした。
即ち、男らしく告白――玉砕。
これっきゃねぇ!
まだ自分の気持ちが本当にスコールに向かってるのか、とか、そういう確信は――ねぇ。
だが、夢にみちまうもんはもう否定出来ねぇくらいにスコールを求めてるってことで。
とにかく現実で思い切り拒絶されりゃ、暴走気味の下半身も諦めるだろう。
というわけで、俺はスコールの部屋に向かっている。
このところ集中力がないってんで、任務にも出られねぇことだし。暇になると考えるのは夢の中のスコールとのあれこれだ。
この暇をこいている時期に、何とか決着をつけたいところだ。
とは言っても――俺が正直使い物にならないってんで、スコールの方に任務が押し寄せているらしいってのも事実で。
実際、部屋にいるのかどうかも判らねぇんだが……。
いなかったらいなかったで、それはそれ。
とにかく男らしく、一発かます!
ぐだぐだ考えてる内に辿りついたスコールの部屋。
きっちりと鍵まで閉まってるドアを、ノックする。
「いないのか? スコール?」
何度がノックと呼びかけを繰り返して、やっと中の気配が動く。
なんだ、いるじゃねーか。
「……誰だ?」
「俺だ」
「……俺じゃ、判らない……」
言いながら、開いたドアの向こう――酷く疲れた顔をしたスコールが顔を覗かせた。
「なんだ、サイファーか……」
「なんだはねぇだろーが」
「いや……意外といえば意外な人物だったんだが、誰だって聞いてるのに「俺」って答えるところはサイファーらしいと思って……」
寝起きなんだろう、もごもごとはっきりしない声で言いながら、ふわりとあくび。
「どーぞ」
それでも部下は大切に――か?
招き入れられた部屋の中は――――果てしなく汚れていた。
かつて足の踏み場もないと自己申告していたこともあったスコールだが、誇張でもなんでもなかったらしい。本当に足の踏み場がない。
「汚ねぇな。少しは片付けろよ」
「……休みが取れないんだ。時間がない」
それについては、俺は何もコメントしないことにする。
スコールはそのままベッドに戻り、呆れたことに俺を放置したまま布団の中にもぐりこんでいった。
「おい!」
「悪い……もう少し、寝かせてくれ……」
言うが早いか、スコールは夢の中にお帰りになった……らしい。
つーか、ちょっと待て!
普通、客を招きいれたまま、放置ってありか?
それでも委員長か? 責任者か!?
俺にどうしろってんだ? まさか、この惨状を片付けろ、とでも言うつもりじゃねーだろーな!?
しかしどんなに心中で叫んでみても、スコールを起こすことは――出来ねーよな。普通。
無理はするな、とは俺が言ったんだが、その俺が、スコールの仕事を増やして無理をさせてんだ。
自覚があるだけに、睡眠時間を奪うことなんてできゃしねー。
しかたねー。
俺は身をかがめて、一体何に使われるのか、想像も出来ない珍奇な代物を、いちいち分類して片付けることにした。
小一時間もしただろうか?
やっとこ床が見え始めたところで、スコールが目を覚ました。
ぼんやりとはしているが、目は開いているし、状況を見て「ありがとう……」と礼も言ったので、状況は判っているらしい。
にしても……。
「なぁ、スコール」
「ん?」
ベッドから降りてスコール。冷蔵庫を開けると、水をボトルから男らしくラッパ飲み。
「これ、何に使うんだ?」
俺は「良く判らないもの」の中に分類して放り込んだ中から、弾力性のあるにんじんを取り出して尋ねた。
途端、何故かスコールが頬を染める。
「そ、それは……」
「食べられるようには見えねぇし。どんな使い道があるのかも判らねぇ。もしかして、今流行ってるらしい、癒しグッヅとか、そういうもんか?」
「いや……それは……」
なんだ? スコールの目が泳いでやがる。
照れて目が泳ぐ――となると、疚しい感じの感情の発露ってことで……って、ん?
思い至ったそれに、俺は思わず手の中のにんじんを取りこぼす。
ごとん、と音を立てて落ちたにんじんは、衝撃でスイッチが入ったのか、床の上で見事に卑猥な動きを披露し始めた。
ってことは、やっぱり――。
「……使ってるのか?」
「え? いや……使ってはいない……」
「なら、なんでここにある?」
「それは……だから……チチオヤが…………」
「てめーの家系は、チチオヤがムスコに、こんな玩具を送ってくるようなオープンな家庭なのか!?」
「いや、俺は無関係だ」
なぁにが、無関係だ。
俺の細い感情線は、思い切りぷっちりと切れた。
ああ、もう。それは凄い勢いでぷっちりと。
下半身の暴走を甘く見るな。何しろ理性じゃとめられないもんなんだ。
俺は水を持ったまま呆然としているスコールに突進すると、油断していたのだろう、呆気なく倒れたスコールの上にのしかかった。
「さ、サイファー!?」
素っ頓狂な声で俺を呼んだスコールは、自分が持っていた水をひたすらにかぶって濡れている。
お誂え向きじゃねーか。最初から濡れてるなんてよ。
俺は自分の腰からベルトを引き抜くと、まだ油断が続いてるらしいスコールの両手を頭上で一まとめにし、足を引きずって今だオンステージ中のにんじんのところまで戻った。
「使わせろ」
「は?」
「使って見せろ」
「!? ちょっと待て、サイファー!」
「待てねーな」
人間切れると、力まで二割増しになるもなんだ。
普通なら絶対に出来ないだろうが、俺はにんじんを鷲づかみにすると、スコールの片足を掴み持ち上げ、身動きの狭められたスコールの体を、ベッドに放り投げた。
「っ!?」
落ちたところが悪かったんだろう、スコールの意識が飛ぶ。
その間に俺は「良く判らないもの」に分類したものの中から、イボイボのきゅうりとか、ナス。亀まで取り出して同じくベッドに乗り上げた。