※熱望の次、別Verだと思ってください。
「俺の女になれ」
その言葉を放たれた瞬間、スコールは頭をガツンと殴られたような気になった。
「冗談はやめろ!」
「冗談なんかじゃないな」
うっすらと笑うラグナは、かつてののんびりとした――いや、飄々とした、と言った方が正しいだろうか――な彼とは違い、獰猛な牙をむき出しにした獣の顔をしていた。
今しがた奪われた唇に残る温もり――いや、熱。
混乱し始める思考を振り切るように、スコールは己の腕を掴むラグナの手を振り払――おうとして、逆に足を払われて横転する。
「ラグナっ!」
床にもんどりうったスコールの腰をまたぎ、その動きを規制するように押さえつけて、ラグナはスコールの両手を取る。
「素直になるとは思ってねーから、ちょっと無理やり言うことを聞いてもらおうかな?」
信じられない――こんな現実、あっていいわけがない。
そう思うのに、両手は既に戒められていた。
襟首をつかまれ、近場にあったソファの座部に四つん這いに押し付けられる。
「ラグナっ、あんたはっ」
エルオーネを選んだはずじゃないのか?
言葉は続かなかった。
背中をぐいと押され、息が詰まる。
「言葉は一つだけで良い。このまま素直に俺の女になるか、それとも抵抗して無理やり女にされるか?」
当然、素直になれるわけがない。相手は憎む相手である。
なおかつスコールは女になるつもりなどない。
「冗談……」
「だったら、こうするしかないな」
ラグナは言うと、スコールの腰を支えるベルトを、どこに持っていたのかナイフで切る。
「っ!」
締め付けが消え、腹部の圧迫感が消える。
更に、ズボンの腰から両足の狭間までを切り裂いた。
「随分とぴったりしたのを穿いてるんだな」
呆れたような、感心したような声が降り注ぐ。
スコールは屈辱に震える吐息をこらえた。
一部とはいえ、あともう一枚で素肌である。普段から肌を露出するようなことはしないスコールにとって、それでも十分に頼りない格好だ。
「だんまりか?」
ラグナは容赦なかった。
両手を戒める結合部を掴むと、無理矢理スコールを立たせ、引きずって部屋を仕切るドアの前へ。結合部をそのドアの角にひっかけた。
ゆったりした造りの部屋である。天井もある程度高めで、当然ドアも高めのものが備え付けられている。
その天辺に両手の戒めを引っ掛けられたスコールは、爪先立ちにならない限り床に足が着かない。
「ラグナっ!」
悲鳴じみた声が出る。
この行為を責め、そして直ぐにやめるように。
しかしラグナは薄く笑うと、戒めを解きスコールを開放するどころか、既に下肢を包む役目を放棄しつつあるズボンを――下着と共に下ろしたのだった。
「ラグナっ、俺はあんなの女になんか、ならない!」
「自発的に成ってもらわなくても、方法はいくらでもある」
空に晒される素肌が頼りない。
スコールはそれまでは一度とて感じたことのなかった羞恥を一杯に、怒りと恐怖の感情までを付加して、目元を紅く染めた。
ラグナはそんなスコールを、楽しげに見る。
全身を舐めるように視線を這わせ、留めた一点を凝視して、膝を折った。
視線の位置にある、スコールの下肢。
ラグナはスコールの、傭兵とは思えない細い足を腕一本で押し上げた。
「離せっ!」
持ち上げた足から、布切れと化したズボンと下着が滑り落ちる。
既に靴もどこかへいっていた。
「離せと言われて離したら、拘束している意味がないだろ?」
スコールの足を持っていない手がポケットに忍び、中から何か――小指の先程度の大きさの白い塊を取り出した。
ラグナはその白い塊に唾液を落とすと、端を摘んでスコールの足の間――更に奥へと寄せる。
「なにをする気だ!」
「黙ってろ」
つん、と塊が尻の狭間――肛門の入り口に引っかかる。
「やだっ、やめろっ!」
上手く動かない体を、それでも必死に動かし、スコールはその塊から逃れようとする。
だが、無情にも固まりは押し込まれた。
「それはなんだっ!」
「座薬。ガルバディア兵士時代に良く使ったんだなぁ。効くんだよ。拷問とかする時にな、ここに入れて、素直にさせるんだ」
「だから、何の――まさか、自白剤じゃないだろ?」
「どっちかと言うと、催淫剤か?」
スコールは驚愕の表情を浮かべ、必死に腹に力を込める。
腹圧で吐き出そうとしているのだ。
だが、ラグナはそれを予期していたようにまだ肛門につけていた指を、思い切り奥へと押し込んだ。
「ぐっ……っ」
指の先に押され、誘淫剤は奥へ奥へと押し込まれていく。
つるりと滑った誘淫剤はスコール自身ではどうにもならない場所へ入りこみ、溶け出した薬はじわりと内を濡らした。
「っ……」
じわじわと染み出してくるような熱。
スコールは唇を噛んで、出そうになる声を堪える。
「何時まで耐えられるかな?」
にやりと笑ったラグナは、自由を拘束されたスコールの、今はまだ反応を示さない男に手を触れる。
柔らかいそれに手を添えると、全体を包みこむように握った。
「良い形してるな。使ったことはあるのか?」
判っている癖に、そんな風に言う。
これまで一度だって、人と親しくしたことはない。唯一の例外が、かつて魔女と戦った際に共にいた仲間達で、しかし彼らとは、そう蜜な時間を過ごしたことなどなかった。
戦いに追われる日々。
戦いが終われば、今度は世界平和の為のグランスールの設立に走りまわっていたのだ。
やわやわと、指一本一本がそれぞれに意思を持っているかのような動きに、スコールの意識が乱される。
滲み出てきた奥に秘められた薬の効果もあるだろう。
程なくラグナの手の中で、張り詰めたそれが悲鳴を上げた。
「早いな」
にやりとラグナは笑い、手にこびりついたスコールの残骸を舐める。
「それに随分と……自分で慰めたりもしなかったのか?」
「……関係……っない…」
「今はな。でも今後は、そういうこともいちいちチェックさせてもらうからな。俺の、女になるんだから」
「俺はっ……ぁあっ」
ビクンとスコールの腰が跳ねる。
内から激しい衝動が体を押し上げた。
信じられないくらい淫らな欲求が一気に増加する。
知らず呼吸が荒くなり、目じりに涙が溜まった。
「どうした? スコール?」
スコールの目の前。そこでラグナは手にこびりついたスコールの液を指先に集め塗りたくる。
意図的にそうしたのだろう。スコールの目前を通り、それは頭をもたげつつあるスコールのシンボルのその後ろへ。
先程薬を押しこまれたその入り口に、指が引っかかる。
「じれったいだろう? もっと強烈なのがほしいだろう?」
ラグナは囁くように誘う。
意識に霞がかかりつつあるスコールの思考。
囁きを送られた耳の下から、ねっとりと唾液と熱をはらんだラグナの舌が、スコールの肌をなぞる。
「腰を振って、してくださいと言うんだ。俺の女になるって、言えよ?」
ぞっとする程の刺激。
普通なら、それ程度でそこまで強烈な波は襲ってこないはず。
なのに、ラグナの舌に肌を愛撫され、囁きと共に吐息を吹きかけられるだけで、全身が粟立ち腰が跳ねた。
荒い呼吸の中に、熱のこもった声が混じり始める。
甘さすらはらんでいるかのような声に、ラグナの欲望も急速にせり上がってくる。
「言えよ……スコール」
強情なスコールを陥落させるべく、ラグナはあらん限りの餌をちらつかせる。
指一本で、昂ぶる雄の先端から根元までを撫で、もう一方の手で腰から丘の割れ目――ひくつく入り口までを……。
触れるだけでビクビクと波打つ――男にとっては楽しい体を前に、ラグナの方が耐えられなくなってくる。
もっと征服してやりたい。
高潔な精神を地獄の底まで引きずり下ろし、ラグナを見るだけで体が疼くように、そんな風にしてやりたい。
そう、思った。
「俺の女になれ……」
ラグナはスコールの腰を掴み、足を浮かせる。
その狭間に己の腰を挟み、ひくつく入り口に昂ぶった己のものを押し当てると、二度三度と肌を滑らせる。
既に先走りで濡れている先端が、ぬるぬるとスコールの肌をすべっていく。
もの凄い――快感だった。
「言えよ……スコール。俺の女になれ」
ラグナに媚び、姿を見るだけで欲情し、腰を振ってねだれ。
もう二度とすかした顔など出来ないくらい淫靡な感情の中で、ラグナ一人におぼれる性の奴隷となり果てろ。
ラグナはそこまで、スコールに求める。
スコールは、頑強にそれを跳ね除ける。
体は既に陥落間近であった。腰は淫らにラグナを誘い、男を受け入れさせられるのであろうそこは、時折触れるラグナの熱い欲望を食まんと何度も収縮を繰り返す。
荒い吐息は甘くかすれ、恐らくラグナを誘っているのだろう。
だが、心は違った。
高潔な精神はあくまでラグナを拒絶する。
母を、裏切った男。
そしてきっと、いつか自分をも裏切る、男。
喘ぎを消そうと、スコールは思い切り己の唇を噛んだ。
「う……」
痛みに意識が遠のきそうになる。
切れた唇から血が口内に流れこみ、口いっぱいに鉄臭さが広がった。
「ふぅん……」
抵抗を重ねるスコールの流す血に、ラグナは目を細め、残虐に似た笑みを浮かべる。
「どこまでも抵抗するんだ? なら、それで良い」
言うが早いかラグナはドアの角に引っ掛けたスコールの腕をはずし、そのまま別の部屋へと連れ込む。
窓のない部屋。その中に、半裸のスコールを押し込むと、ドアを閉める。
「少し待ってろ。お前に、死んだ方がマシ――と思える程の仕打ちをしてやるよ」
部屋の外から聞こえる声。冷気をはらんだそれに、スコールは怯える。
それでも、疼く体を持て余しながらでも、逃げる算段を立てなければならない。
スコールは唯一残された己の上着に入った小型通信機を取り出すと、そのスイッチを入れ、信号を送った。