「お前、馬鹿だろ?」
次に見た表情は、冷笑だった。
これまで一度たりとて見たことのない、ラグナの冷笑……。
初めて見たそれは、酷い恐怖をスコールにもたらした。
「……お前に関係あるのか?」
強く意志を保っていたいと望むスコールは、しかし既に深みにはまりかけている。
体内に押し込まれた催淫剤は、じわじわと熱を持ってスコールを苛んでいるのだ。
「俺に関係ねぇ……」
取り出されたのは、レーダー。
エスタを中心に円形に広がる電波範囲に、不確定な信号が二つ。
「お前、救難信号出したんだろ? このエスタで?」
「……俺の勝手だ」
「まぁ、勝手だがな……俺の許しもなしにこうゆうことをされると、やっぱり面白くないわけよ」
ガチャン。無情に音を立て、部屋のドアがしまる――ラグナをこちら側に残して。
「他に何を隠し持ってる? どうせその信号は届いてないから、助けは来ない。素直に白状した方が良いんじゃないのか?」
そしてラグナが取り出したのは――注射器。
「……それは……?」
「なんだろうねぇ? で? 他に何を持ってる? それとも何も持てないように、全裸で過ごすか? それでも俺はかまねぇけど」
「っ!」
スコールは激しい動揺を刷いてラグナを凝視する。
体内にくすぶる熱に潤んだ瞳は、ラグナの興味を引いたようで、ずっと冷えた眼差しだったそれが、一瞬だけ緩んだ。
「強情張らないで、俺の女になれ。悪いようにはしない」
「それで……あんたは俺を、母の代わりにでもするつもりか?」
「代わりになれると思ってるのか? その体で? 柔らかい胸も、男を受け入れる器官もなく?」
それでも、ラグナはスコールに「女」を望む。
「じゃ、俺に何をさせたいんだ!」
さげすむ程にスコールの体に異を唱えるなら、「女」を求めることは無意味だ。
スコールにあるラグナにとっての価値といったら、世界中の戦力を一手に引き受けた軍事力と、母レインに似た整った顔立ちだけ。
他には、両親の記憶一つすら持っていない。
「何をさせたい……か? 身代わりなんて要らないんだよ。俺はお前が欲しい。その体と心で、俺を愛せ」
「……なに……言って……」
「女のように俺に向かって足と心を開き、泣いて縋って愛されてりゃ良い」
ラグナは言うが早いか、スコールの両手を戒めているものを引いた。
「うっ……」
俯けにくず折れるスコールの背に乗り上げ、背中から――今度は上半身の衣類を切り裂いていく。
上着に入れていた通信機などが全て床にぶちまけられ、それを一つずつラグナは踏み潰した。
助けはもう、呼べない。
総責任者だから――と持たされていた、小さな通信機。唯一残されたそれを、ラグナは持ち上げた。
「どうする? スコール?」
「……何を……」
「俺の女になると、この場で約束するなら、この通信機だけは返してやるよ。けど、拒否するなら……」
「拒否するなら……?」
ぐい、と腰を持ち上げられる。
「何!?」
驚くスコールが身を捩る間もなく、ラグナの意図は知らされた。
硬く小さなものが、信じられない場所に押し込まれることによって。
「良い加減俺の言うことを聞かないと、もっと酷いことになると思うけどなぁ」
楽しげなラグナの声。
「初めてだろ? 優しくしてやりたいと思うのは、きっと俺だけだ。牢にでも放りこみゃ、お前なんて直ぐに獣共の餌食だ。それも、一人や二人じゃきかない」
同じ男だといえ、スコールの容姿は愛でるに余る整い方をしている。しかも元々戦士であるからには、具合も良い。
誰が最初とは言わず、男達の慰みものになるだろう。
しかも、ラグナなら、スコールのみに拘束をつけて放り込むだろう。
「……どうとでもすれば良い……」
スコールは陥落するしかなかった。
別に強姦されようがなんだろうが構わなかったが……惹かれて。
――足と心を開いて、泣いて縋って愛されてりゃ良い。
その言葉に。
父親の愛情を、スコールは一度だって得たことがなかった。
ラグナの求めているものがそれではないと、そう判っているのに、なのに……。
ラグナに愛されるのは、どんな感じなのだろう?
そう思ってしまったのだ。
「あんたの……女になるよ……」
見上げたラグナは、嬉しそうに笑っていた。
得たと同時に犯された。
部屋を移動もせずに、硬い床の上で、通信機を飲み込んだその上から、硬い肉欲がもぐりこんできたのだ。
背後からのしかかられ、ぐいぐいと腰を押し付けられ――前すら乱暴にこすられる。
それでも、催淫剤に犯された体は喜び、ラグナを強く締め付けていた。
荒い呼吸を繰り返し、獣のようにただ交わるだけ。
それでも、それが愛なら受け取ろう。
スコールの、いっそ狂気に近い気持ちが、ラグナを増徴させる。
「声を、上げろよ……」
「や……だ…………っ」
繰り返される行為と言葉。
最後の瞬間、内にぶちまけられる熱をどこか遠くで感じながら、スコールは絶望の呼び声を聞いた。
「レイン……」
小さく呟かれる名は、どう聞いても己のものとは違う……。
奈落は直ぐそこに――目に見える場所に……迫っていた。