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隷属 3

オベル最後の王は、非道とそしられ処刑されたのだと聞く。
群島解放戦争の本来の英雄を、その人格を無視するかのように従わせていた王。しかしながら、後のオベルの汚名を避ける為、真実は群島の者の心の中にしまわれたのだとも聞いた。
また、群島解放の英雄本人が、好き勝手改竄されていた歴史書の訂正を求めなかったことから、歴史は曲げられたまま伝えれることとなった。

そんな噂が赤月で消え始めた頃――。

「お久し振りです。以前は中途で責任を放棄し、大変申し訳ありませんでした」

赤月のキリルを尋ねてきたのは、意外な人物だった。オベルにて将軍職にあったミレイである。
当時がまだ若かった為、殆ど変わらない容姿の彼女は、お願いがって尋ねてきたのだ、とキリルに言う。

「事情、お聞きしました。お辛いでしょうが……」
「……そう、面と向かって言われる方が、余計に辛いね」
「そうですね……申し訳ありません」
「いいよ。で、お願いって?」
「はい、実は……」

ミレイは少し言い淀んだ末「お預かり頂きたいものが、あるのです」と言った。

「僕が?」
「はい……。私としては不本意なのですが……お恥かしながら、私、次の議会の長に選ばれまして……」
「そうなんだ。おめでとう」
「いえ。おめでたくなどは……。よって国を長く離れることが叶わなくなります故。それに、どうあっても私には役不足だったようで……」

余程不本意なのだろう。屈辱を耐えるような顔をした彼女は、そう言うと、数通の手紙をキリルに差し出した。

「これは?」
「ラズリル騎士団のケネス団長からです」
「ケネスさんから?」
「はい。私がここに来るまでの経緯と、ユウ先生の診断書もあります」

え? とキリルはミレイを見やる。

「リハビリに、数年を要しました。洗脳というのは、深ければ深い程に解くのが難しいものですね」
「……どこに?」
「今は街を見て回っておいでです。赤月は初めてなので、何もかもが珍しいと」

ミレイは深く頭を下げると「ラズロ様を、どうか、お願いします」と真摯に告げる。

「あの方も、不老という宿命の下にあり、私たちと共に過ごすことがお辛くなっているようなのです。ですから……」
「ラズロも……不老?」
「はい。真の紋章を宿しておいでです。不老はその呪いの一環だとか」

ですから、どうか――と必死に頭を下げるミレイに、キリルは頷いた。断ることなど、出来ないではないか。

「僕に何が出来るのかは判らないけど……」
「いえ。同じ時間を同じに過ごせるだけで、人は安心するものです」

にっこりと笑ったミレイの目尻には、涙の光があった。





「キリル様

 お久し振りです。
 群島にとっても脅威ともいえる紋章砲の破壊を、押し付けるような形になったこと、深くお詫びします。しかしながらキリル様もご存知の通り、我々にとってはあの状態は良い機会でもあったのです。
 群島解放戦争の折り、我々はラズロが普通ではない状態であることを知りながら、それをどうすることも出来ませんでした。巧妙に隠されてはいましたが、我々には常に監視の目があり、とてもではありませんがラズロの身に何が起こったのか、知りうることは出来なかったのです。
 群島解放戦争を終えラズリルがガイエンから独立した折、騎士団がガイエン海上騎士団からラズリル騎士団に変わった後で副団長に任命された時、私はラズロに洗脳と呼ばれる術が施されていることを知りました。オベル王だけではありませんでした。ラズロは、ガイエン海上騎士団の副団長からも、その洗脳を受けていたのです。
 重複した洗脳は、ラズロの基本的な人格を曲げ、本人の意志とは無関係のところで、他者の言うことだけを実行するといった状態を、不思議にも思わせず受け入れさせていました。
 解くのに、一年。その後、人間らしい感情を引き出すのに更に数年かかりましたが、努力は報われたようです。
 しかしながら、ラズロには罰の紋章と呼ばれるこの世に27存在すると言われる真の紋章が宿り、その所為か我々と共に年齢を重ねることが不可能だということが判りました。本人も、周囲に置いてきぼりにされているようで、辛そうに見えます。
 協力を途中放棄しておきながら虫の良い話でしょうが……同じ宿命にあるキリル様ならば、ラズロと共に生きるのに不都合はないのではないかと――一方的ながら、お願い申し上げます。

ラズリル海上騎士団団長・ケネス」

愛されてるな、とキリルは思った。
夕日が照らす街中を、ラズロを探して歩きながら、案外ラズロは幸福なのかもしれないと。

「赤月帝国はどう?」

見つけた姿にそう問えば。
「うん。綺麗だね」と微笑みが返る。変わったようには見えなかったが、変わったのだろう何かが。

「海が見えなくて、寂しくはない?」
「あまり気にならないかな? クールークも陸だったし、群島は殆ど海だけど、流石に生活するのは陸だから」
「それもそうか……」

ラズロは街中のベンチに腰掛け、街に落ちる時間の流れを見ていた。
隣に腰掛けたキリルはそんなラズロを眺め、吐息する。

「……抱えたものを捨てていくことは、許されることだと思う?」
「それは、アンダルクさんやセネカさんのこと?」
「あと、コルセリア」
「一緒にいるんだ?」
「いや。今は手紙のやり取りをしているだけだね。時々シメオンさんと一緒に遊びに来るけど」
「そうなんだ……」

ラズロは頷いて――「……僕は捨ててきたけどね」と答えた。

「ケネスさんとか?」
「いいや。群島と自分の過去。ユウ先生が頑張って、記憶の一部を消してくれた。辛い記憶はない方が良いって」
「……できるんだ」
「物凄く頑張ってくれたから。悪いこと、しちゃったね」
「いや……あれは、ユウ先生の意地だと思うよ」

己の診療所を捨ててまで選んだ道なのだ。そりゃ徹底的にやるだろう、ユウとしては。
誰もが結局、最終的には自分の選んだ道を歩んでいくのだろう。ならば、キリルも選ばなくてはならないのかもしれない。

「……一緒に、赤月帝国の端から端まで回ってみる?」
「面白そうだね。アンダルクさん達も?」
「いや。二人だけで」

言えば、何故かラズロはとても嬉しそうに笑った。





何ヶ月かに一度、ケネス達の下に届く手紙には、差出人はない。だが、中に一枚だけ入っているスケッチから、誰がどこにいるのかは想像がついた。

「元気にやってるな……」

言葉はない。だが、そのスケッチには何時だって、二人分の影が刻まれている。

「……ねぇねぇ、定期連絡がきたんだって?」

再びナ・ナルを飛び出し、結局ユウの診療所で働き始めたジュエルが飛び込んでくる。

「ああ、これだ」
「元気そうじゃん」
「そうだな」
「これ、もうタルに見せた?」
「いいや」
「じゃ、タルに見せてからポーラに送るからっ!」
「あ、おいっ!」

もう少しじっくり見たかったのだが……。
だが、早く見たい仲間達の気持ちも判る。
まだまだ無邪気に振舞う仲間達も、もう皆既婚者となった。あて先が判れば、この前子供が生まれたことを報告したいのだが……とは、皆して思っていることである。
だが、既に知っているかもしれない、とも思う。神出鬼没な旅人と化している二人は、きっと群島にも訪れているだろうから。

かつて救ってやりたいと思っていた友を、群島そのものを敵に回す覚悟で救えたことを、誇りに思う。それに協力してくれた海賊達も……。






※最終的に意味が判らなく……あれ?

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