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中嶋×啓太編6


痴漢に遭遇

助けて、中嶋さん。俺、今、絶対絶命のピンチです。

本日は久しぶりに放課後の生徒会が休みの日。
本当なら休みなんてありはしないのだが、丹羽の不在に加えて仕事が大量に舞い込む毎日の中、女性体になった為に体力的が低下してしまった啓太がついにダウン。
更に中嶋が、とうとう忍耐力を使い切り切り、今後は一人ずつでも交代で休みを入れることにしたのだ。
その、本日が啓太の休みの日。
最低でも週に三日。それだけで良いから、仕事に出て来い! と悪鬼のような表情で(この時ばかりは)啓太も脅したので、丹羽は渋々頷き、今頃は中嶋と二人で書類と睨めっこを続けているだろう。
「頑張れ、王様!」
啓太は笑いながらバス停に向って歩く。
今日はこれから、街に出る予定なのだ。
何故か……というと、駅にて中嶋家から来た人物と会う為。
エステの経営をしているという中嶋家の母に、啓太の下着他、体型を誤魔化す為の服を頼んでいるのである。
当然、男子校に女体化した啓太が通っているから――という理由は伏せているが。
一応、女性体だとばれても問題がないように私服に着替え、啓太はほけほけとバス停までの道を歩く――と。
「伊藤啓太君?」
物陰から声をかけられた。
「はい?」
「ちょっと……話があるんだけど、良いかな?」
「あ、はい。少しなら、これから待ち合わせなので……」
「そんなに時間はとらせないよ」
物陰から出てきたのは、どこかで見たような生徒。タイが青なので、三年生だろう。
生徒は啓太を誘導するように前を歩き、啓太が来たこともない建物の前に立つと――。
「ごめん、あまり人に聞かれたくない話なんだ……」
と笑った。
その笑いが――なんだかあまり、良くないもののように見えて……。
「えっと、どういう話ですか?」
啓太は尋ねる。
逃げた方が良い。
啓太の――あまり良くはない勘が、そう告げている。
「君と、中嶋のことについて……ね」
生徒は言うが早いか、逃げようと反転しようとした啓太の腕を掴む。
建物のドアを開き、同時に啓太の腕を強く引いて――突き飛ばした。
「なっ!」
背中に衝撃が走り、体がどこだかの壁にぶつかったことが判る。だが室内は最低限に光量が抑えられて、どこに何があり、自分がどこに立っているのかは判らなかった。
周囲から複数の人間の気配。
「ようこそ、伊藤啓太君」
どこからか響く声。
「俺に、何の用だ!」
鋭く叫ぶ啓太の声も、かすかに反響する。
「何の用……ね。こんな薄暗い場所に連れ込まれて、複数の男に囲まれる。これの意図するところは一つじゃないかな?」
コツコツコツ。足音が近付いてきて、それによって相手の顔が――見えない!?
彼らは一様に、覆面をして啓太を囲んでいた。
顔が判ったのは、最初に啓太をこの場所に連れてきた彼だけだ。
「確かお前は、中嶋と良い仲なんだよな?」
「……なんだよ、それ?」
「夜な夜な声が響くって有名だぜ? お前の部屋、もしくは中嶋の部屋。 なぁ、ここはBL学園で、それ相応に立派な施設に囲まれている。寮もまたしかり。防音もしっかりしているからプライベートも守られる。だがな、この学園には突出した特技の人間が山程いるんだぜ? 中に、盗聴マニアがいたっておかしくはないってことさ」
「!?」
ということは、要するに――。
「お前が学園MVPになってからか? 最初はお前の部屋はノーマークだったが、横からMVPを掻っ攫われて怒り狂った盗聴マニアもいたってことさ。そいつらは有益な情報を手に入れた。お前が中嶋とそういう仲で、しかも……」
生徒の手が伸び、啓太の服に。
「何を!」
慌てて避けようとした啓太は、しかし周囲からの複数の手によって動きを封じられ、更には服を引き裂かれてしまった。
外に出る予定だった。学園にいる時と違い、女とばれても問題はないから、だから気を抜いていた。
服一枚の下は下着のみ。
生徒達の目の前に、啓太の下着――男ならつけるべきものではないブラジャーが露になる。
「成る程……本当に女になってたんだな?」
「しかも中嶋が、こいつを合法的に妻にすべく、薬を作らせたって話じゃないか?」
「余程……良いんだろうぜ?」
下卑た男達の笑いが響く。
「やだ……」
啓太は震える声そう呟き。
しかし。
「残念だけど、諦めな。お前には、中嶋への復讐の道具になってもらう」
男の手が、啓太の下着に伸びる。
頼りない留め金一つを外せば、啓太の肉体が露になる。
男はぎらぎらと光目で、啓太の下着姿を眺めていた。
ぷちり。微かな衝撃が響き、下着の留め金が外れる。
「あ……」
見られてしまった……。
羞恥よりも何よりも、恐怖が啓太の胸に迫る。
このままでは……。
「た……助けて……」
「無駄だって言ったろ? ここは生徒会も知らない、工事途中で放置された施設の残骸なんだ。知る奴しか知らない、穴場中の穴場ってやつだ」
獣のように呼吸を荒くした男の手が、啓太の乳房に伸びる。
「や……やだっ……!」
抵抗しようと思っても、女の身で男の拘束を外せるわけもなく。
「うるさいから、口も塞がせてもらおうか?」
男の言葉一つで、啓太の口も、封じられてしまった。

「成る程。ということは、通信部とかいう、かつての部費泥棒の親玉が、今回の首謀者か……殺るか……」
手紙を眺めながら中嶋。隣に眠そうな丹羽と、正面に不機嫌そうな西園寺と七条を並べて、言い切る。
「殺るなら、啓太を救出した後にしろ。啓太が姿を消してから既に10分は経過している」
「その短時間で、情報を持ってくるお前らの方が、余程どうかと思うが……助かった」
中嶋は直ぐに携帯を取り出すと、操作を始める。
「それは?」
「啓太には発信機つきの下着をつけさせている。居場所なら、これで直ぐに判る」
さらりと言い放つ中嶋に、呆れた西園寺。
「お前……啓太を何だと思ってる?」
その問いに、何を今更、と中嶋。
「この世でただ一人、愛する人間だが?」
これには丹羽の眠気も吹っ飛んだ。
「ひ、ヒデ……それ、マジか?」
「ああ。何度も聞くな。鬱陶しい」
片手で携帯電話を、片手で学内の地図を取り出した中嶋は、それを広げて一点を示す。
「ここだな……」
名称の記入されていない建物が記されている。
「ここは……文化部第二棟の予定地だったところじゃねーか?」
と、丹羽。
前生徒会時代、さしたる調査も審査もせずに文化部が増殖する時代に、部室が足りなくなったから、と増設される予定だった文化部棟になるはずだった建物だ。
工事も半ば以上進み、後は内装工事だけ――という段階になった時、丹羽が前生徒会をリコールして自身が生徒会長となった。
その際に余分な文化部を全て廃部、もしくは同好会に格下げし、第二文化部棟は必要なくなったのだ。
「そういえば……廃部に追い込んだ部の中に、通信部があったな? そういえば」
小首を傾げて丹羽。
記憶に朧にしか覚がないということは、本当にどうでも良いような活動内容の部活だったのだろう。
「通信部か。放送部と活動内容が同じ上、放送部のような学園に対しての活動アピールがなかった上、寮の各部屋に盗聴器をしかけるという愚考を犯していた」
反して中嶋の方は良く覚えていた。
通信部の活動内容の殆どは、この盗聴と、盗聴からもたらされる情報からの生徒個人への脅迫。
いわば通信部はBL学園内部の犯罪者集団であり、その脅迫は理事会の役員にまで及んでいた。
容易に廃部を言い渡せない部。それが通信部。
それを、丹羽と中嶋は廃部に追い込んだ、それも、中嶋が暗躍したことによって。
「成る程な……」
ニヤリ、と中嶋は笑うと、丹羽には、直ぐにこの第二文化部棟予定地に向うように言い、自分は書類棚へ。
「なにをするつもりだ?」
西園寺が尋ねれば。
「この学園から犯罪者が出れば、鈴菱にとっては打撃だろうな?」
「……だろうが……まさか……」
「学内の犯罪を暴くのも、楽しいじゃないか」
「中嶋……それはやめておけ」
「何故?」
「理事長に多大なる損害がいけば、この学園そのものが崩壊する可能性がある」
「それがどうした?」
中嶋にとっては、BL学園があろうがなかろうが、さしたる問題はない。
「啓太と共に学園生活を営めなくなるのだぞ?」
ぴたり。中嶋の動きが止まる。
「……それはいかにもまずいか……」
ころりと態度が激変。
呆気にとられる西園寺と七条。
「…………………………」
「ならば学園は安泰の方向で、奴らだけを排除する方向で行こう。どうせ余罪ならたっぷりあるからな」
探し出したファイルを開いて、今度は生徒会に設置されている放送機械の方へ。
スイッチを入れると、中嶋は淀みない声で、こう言い始めた。

「元通信部部長のぴー君。直ぐに生徒会室に出頭すること。10分以内に来なければ、昨年クリスマスに君がおかした失態の数々を全校生徒に発表する」
ピシリ!
啓太の上に圧し掛かって、その乳房を吸っていた男が硬直する。
「ぶ、部長?」
訝しげに周囲の生徒達。
成る程、覆面をしていて顔は判らないが、これでは名前は直ぐに割れてしまう。
予定外の放送に、慌てて生徒達は右往左往し始める。
しかしながら、啓太を拘束する手だけは緩まず、逃げられるまでには至らない。
「ちょ、ちょっと生徒会室に行ってくる。お前達は、しっかりそいつを犯っておいてくれ。写真も忘れるなよ」
「はい!」
――やっぱりピンチには変わりないのか!
心で叫んだ啓太は、ついにショーツにかかる手に怯える。
そこを剥かれたら、もう終わりな気が……するのに……。
ぺろり、ショーツが引き下ろされ、男達の視線の前、啓太の下半身が露になる。
ゴクリ……どこかで生唾を飲む音を聞きながら、啓太はぎゅっと目を閉じた。
と……。
「おいおい、そこまでにしてくれないと、痛い目見るぜ?」
丹羽の声が聞こえたと思った一瞬後、誰かの呻く声。
「投げ飛ばしてから、言うな!」
一気に混乱状態に陥った室内の中、啓太の拘束の手も緩んだ。
チャンスとばかりに生徒たちから逃げ出し、取り上げられた服を、何でも良いから着込んだ。
とにかく、もう既に知っている奴らはどうでも良いとして、丹羽にだけは知られてはならない。勿論、啓太が女性体になっているという事実を……だ。
薄暗がりの中、水を得た魚のように生き生きと生徒達を投げ飛ばす丹羽に「後は任せた!」と叫び、啓太は一目散に寮の自室へと駆け込むのだった。

数日後――。
啓太は中嶋から、数人の「下僕に使え」と数人の生徒を紹介された。
それは、数日前に啓太を強姦しょうとした一団らしく……。
「お、奥様、よろしくお願いします!」
がばり、と土下座した彼らを、啓太はぽかんと見やり、次に中嶋を睨む。
「なんですか、奥様って!」
「将来の予行演習だ」
「みんなにばれちゃうでしょ!」
「その点は大丈夫だ、こいつらも心得ている。なぁ?」
「は! 奥様の呼び名は、人目のないところでのみ、となっており、他におきましては「啓太様」とお呼びします」
「啓太……様……」
「勿論、奥様の秘密は他の誰にも口外いたしません。忘れ物の所有権も、自分が主張しました。変態の烙印を押されはしましたが……」
口ごもって――たぶん、部長――が、制服の懐から取り出したのは……。
「あ!」
うやうやしく両手で捧げ持たれているそれを、啓太は慌てて奪い去った。
「この、変態!」
脱がされた下着の上下が、彼の手の上には、乗っていたのだった。

2007.05.01
女体化10のお題

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