虎王君へ彼女志願 7


はどっちのタイプだ」
「え?」
「このまま一息過ごしたいか、すぐにでもシャワー浴びたいか」
 ええっ、そんな希望まで聞いてくれちゃうの。まるで高級ホストにでも接待してもらってるみたい。
 でも‥この虎王くんがホストなんてしたら、車の一台でもプレゼントしなきゃモノには出来ないだろうな。
 すぐにでもナンバーワンになって、女の激しい争いが起こりそう。あ、でも今でも一緒か。周りに群がってる女の子たちがケンカしてるのは時々見るし。でもそんなときはあの、身震いするような人を近づけないオーラが、漏れるように昇り立って、自然にその女の子達は大人しくなるんだよね。
 当然だけどそんな姿を虎王くんに見られちゃって恥ずかしいから、そそくさといなくなるんだけど。
 はぁ、この男ならどこにいても、何をしても生きていけるだろうなぁ。けど逆にどこにいても何をしても騒がれ続けると言うのはどんな気分なんだろう。普通の人間なら鬱陶しくて逃げ出したくなるけど、虎王くんには些細なことなのかもしれない。

 はっ、いけない。聞かれたらすぐに答えなきゃ。
 でもどっちかなんて勿体ないな。ずっとこのまま一緒にいたい。けど本音は身体を綺麗にしてからがいいんだけどな。
 チラッと目を見てからさっき言われたことを思い出す。そうだ、思ったことは言わないと損なんだ。
「えっと、シャワーは浴びたいけどその後もう少し‥あの‥抱き締め‥て‥、欲しい‥な‥って」
 図々しいって怒られるかと思ったけど、虎王くんはニヤッと口の片端をあげた。
「なんだ、それはもう一度やりたいってリクエストか」
「ちっ、違うっ。こうやって抱かれるのが気持ちいいって‥。えと抱かれるって言うのはセックスの意味じゃなくて、ただ抱き締めて欲しいって」
 ニヤニヤ笑いが顔面に広がる。綺麗に整った別世界の顔が少し崩れて、なんとか手の届く男の顔になる。
 やっやだ。もう。分かっていて言ってるんだ。どうしてこう意地悪なんだろう。

「おかしいな。リクエストされるくらいは頑張ったんだけどな」
 んん? って目の前で聞かれて、どっどう答えろって言うんだろうか。
 そりゃもう一度抱いてくれるなら、お願いしたいけど。それこそセックスが好きな淫乱女に思われそうで怖い。
 そんなの女の私からは言えないよ。でも、やっぱり言わなきゃ勿体ないのかな。もうやけくそだ。開き直っちゃう。
「しっ‥した‥い。したいですっ」
 恥ずかしくて顔を見られたくなくて、両手で覆って隠した。その両手の手首を掴まれて顔からムリヤリ外される。
「俺は素直なのが一番いいと思ってる。恥ずかしがる必要はない。ただ、素直と図々しいとをはき違えてる奴は相手にしないがな」
 私の顔をジッと眺めて、話し終わるとまた軽く口先を合わされた。

「ほら、シャワー浴びてこいよ。それとも俺と一緒に入るか」
「一人で入りますっ」
 浴室まで付いてこられそうで焦って断った。でも一人でシャワーを浴びていたら、一緒に入る所を想像しちゃってまたドキドキした。
 けっけど、あんな所まで洗われでもしたらうずくまって動けなくなりそう。
 女の部分はいくらシャワーを当てながら洗っても、中から出てくるものが尽きなくて困った。それほどまだ私は興奮していたのだ。
 備え付けのバスローブを羽織ると虎王くんの元へ戻る。彼は素っ裸のままでベッドに腰掛けて私を待っていた。

 私が出てきたのを見てすぐに立ち上がる。
 高い身長。均整のとれた身体。メリハリのついた筋肉。股間にぶら下がる武器の大きさ。
 なんかもうこの姿を見せてもらえただけでお腹一杯な気がする。さっきまで抱かれていたことが飛んでいって、ため息が出てしまった。
 その私を横目で見ながら浴室へ消える。ああ、お尻まで全部が引き締まっていて素敵。理想のプロポーションを手にしているってどんな気分だろう。劣等感なんて欠片も持ったことないんだろうな。
 非の打ち所がない男。そんな男がいること自体が奇跡のようで、そんな男とこうして関係を持ってることは夢のようだ。

 それから虎王くんは私を抱き締めて一緒に寝てくれた。
 朝から忙しかったのと、あまりにも緊張していたのとで疲れていた私は、虎王くんの逞しい腕がとても気持ちよくて本当に寝てしまったのだった。

 頬をピシャピシャと叩かれて目が覚めた。
「おい、いつまで寝ているつもりだ。俺は腹が減ったぞ」
 うっすらと開けた私の目に飛び込んできたのは、独裁の王子様。
「きゃっ‥」
‥、お前はいつでも人を化け物みたいに」
「ごっ、ご免なさい」
 だって、だって。こんなに綺麗な顔が間近にあったら誰だってビックリするでしょう。
「驚かれたことってないの?」
「あまりないな。ほとんどの女は嬉しそうに擦り寄ってくるぞ。ん? それともお姫様は王子のキスで目覚めたいか」

 虎王くんは上半身だけ起こした私の唇に軽くキスをする。
 ひゃあっ。ほんとにここまでしてもらったらどうすればいいのか分からない。
「目が覚めたか」
「はっはい」
「それじゃ飯を食いに行くぞ。早く着替えろ」
 そう言って紙箱を差し出された。

「えっと、なに?」
「着ていたワンピースは汚れてしまったし、シワにもなっていたからな。クリーニングへ出しておいた。夕飯が終わる頃には仕上がっているだろう。これはその代わりだ」
 開けてみれば綺麗なオレンジ色のワンピースと下着。最初に着ていたものとちょっと似てる気がしたけど、着てみれば胸元が大胆に開いてパーティドレスのような豪華さがあった。とっても高そう‥。
「え、あの、貸してくれるの?」
 それを着て虎王くんに聞いてみる。
 その途端、虎王くんは吹き出した。
「普通はな、さっさとありがとう、って言ってもらってくものだ」
「えっ、もらっていいの」
「いいに決まってるだろう。そもそも男が女に服を贈るのは脱がせるためと相場が決まっている」
 なんて場慣れしているんだろう。ねぇ、マジで19歳なの。本当は40歳くらいじゃないの? ううん、このお肌は十代の玉のお肌。だとすればこの身体にプレイボーイとしてならした人が入り込んでる‥?

「中々の見立てだろ」
 かっ可愛い‥。少し得意げに微笑まれてまた惚れ直す。こんな所はまだ少年だと思わせる可愛さを残してる。
「あ、ありがと。でも‥下着までよくサイズが分かったね」
「そこに置いてあったからな」
 ああ、そう言えば勝負下着が脱ぎっぱなしだった。サイズはバッチリ入ってる。それだけのものを買っても恥ずかしくないんだ。ホテルに入ってるブティックを思い浮かべて考える。こんな若い男の子が入っていったら、目立ってしょうがないのに。普段から人に注目されてるから、目立つことはなんでもないのかな。

 今頃気が付いたけど、虎王くんは綿ジャケットを羽織っていて少しカチッとした格好をしていた。それがまたなんとも格好いい。
 そうしてホテル中の羨望を浴びながら、最上階のレストランで食事をしたのだった。
 ああ、夢のような一日。もうこんな幸せがあるなんて知らなかった。きっと虎王くんに出会えなかったら一生知らずに過ごしていたんだろう。

 当初の目的はどこかへ飛んでいってしまって、月曜日は仕事にならなかった。
 虎王くんは私のリクエストをしっかり覚えていてくれて、火曜日と木曜日に会社までわざわざ迎えにきてくれた。
 そしてご飯を食べてラブホテルへ行く。こんなの本当の恋人と勘違いしちゃうよ。どうしよう‥。虎王くんがいなくなっても耐えられるのかな。

 史上最大の喜びと、大きな不安を抱えながら本来の目的の日曜日がやってきた。

 ついに‥来てしまったのね。
 出たくもない創立50年記念パーティ。
 エスコートして欲しいか? と聞かれたんだけど、最初から一緒だともの凄く緊張しそうだから、少し後から来て欲しいと答えていた。
 そしてそれは正解だった。
 だって、この一週間虎王くんの顔ばかり見ていたから余計かもしれないけど、会場にいる男がみんなイモに見える。
 そんな中に彼を放り込んだら‥。一気に女の子に取り囲まれて身動きとれなくなっちゃいそう‥。
 3時間も彼をガード出来る自信がなかったので、遅れてきてもらってほんとによかったと思った。

 社長その他の挨拶も済んで、立食パーティが始まった。ホテルで催されただけあってかなり豪華だった。会社のお付き合いもあるためか他の会社の上役も沢山来ていた。
 うちの会社と合わせて300人ほど出席していただろうか。
 配送の男の子と一緒にいたんだけど、とうとう企画のあの嫌みな女に見つかってしまった。

、こんにちは。ようやく会えたわね」
 あんたとなんて会わなければ会わないままでよかったのよ。
「出席してないかと思ったわ」
 したくなかったけど、ムリヤリ出なきゃいけなくしてくれたのはあんたでしょう。
「あら? 。紹介してくれると思って楽しみにしていたのに相手の方が見あたらないわね」
 まさしく勝ち誇った顔をして、自分の相手を紹介する。

 ついでに彼自慢が始まった。東京のどこの大学出身だの、会社はどこだの、どんなポジションについてるだの、着てるスーツはブランド物だの。時計はどこのだの、付けてる香水はどうだの。
 ああもうっ、うるさいんだよ。ブランドなんてほとんど知らないってば。そんなのばかりしか自慢できるところがないって人間としてどうなの?
 そんな格好良くもなんともない男。スーツに着られてるようで似合ってない。
 そりゃ自慢に来るだけあって、そこそこ容姿はいけてたけど。

「あなたの彼は?」
 同じ事を私にも質問してくる。ズラッと知ってることを答えると、バカにしたような台詞が返ってきた。
「へー、そうだったの。有名大学じゃないし、会社にも入ってないし、社会人じゃないなんて。経済的にも寂しいのね。あなたが貢いでるんじゃないの。時計もアクセも出来ないんだから、今度贈ってあげた方がいい感じ。年下なんてねぇ」
 あの虎王くんをバカにされてカチンと来た。
 時計やアクセなんて彼にはいらないのよ。見たら分かるんだから。
 時間は携帯で分かると言ってしてなかった。バレーしてるのが関係あるのかもしれない。
 香水なんて付けなくても虎王くんからはいい匂いがした。なんて言うのか若さの象徴、みたいな男の香り。いいの、これは抱き合うくらいに近寄らなければ分からないんだから。
 年下なんて思ったことないよ。あの凄さに直面したら絶対年下になんて思えない。
 ふんっ、彼を見てビビるなよ。
 鼻息を荒くしたその時だった。

 入口の方でざわめきが起こった。そしてそれは私の方へ近寄ってくる。
 うちの会社は圧倒的に女子が多い。そこへ起こったざわめきなんて一つしかないじゃない。
 振り向いてみれば、やっぱり虎王くん。
 けど、けど、彼は思いっ切り芸能人オーラ出まくりの、フェロモン出しまくりの、ムチャクチャに格好いいモデルそのものだった。

「よっ」

 私を見て気軽に声を掛けてくる。

 ああっ、そんな姿で話しかけられたら、恋人なんてなれなくて、スーパーアイドルに初めて会った一ファンになってしまう。

 キャーッて叫びたい心境を必死で耐えた。

 スーツで決めた彼は、いつもそのまんまの髪までキッチリ決めて、どこのファッション誌から抜け出して来たのかと思わせたのだ。

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