休日の過ごし方11

 先輩の唇は狼帝のよりも少しだけ薄い。それが明るい顔立ちか、渋い顔立ちかを分けているようで。狼帝には貪るようにしかキスされたことがないけれど、先輩とは唇の感触が分かるよう軽く啄んでみたい気がする。

「でっでもやっぱり‥。なんか‥」
 柔らかいのは女の子の唇。柔らかいと感動するのは女の子としたときに言いたい。男の口でそんなことを思うのは自分がおかしくなったようでちょっと嫌だった。
「ふーん、拒否されるとムリヤリしたくなるな」
 先輩はニヤリとする。うわ、なんかヤバイ感じ。なので慌てて矛先を反らす。

「せっ先輩はどうなの? 俺とキスしたいの?」
「俺か? 俺もいつだって冬哉とキスしたいと思うぞ」
 ええっ、先輩もキスしたいなんて思うんだ。
「男同士なのに?」
「キスしたいと思う気持ちに男も女も関係ないだろう。それじゃ何故冬哉は俺とセックスするんだ?」

「え‥、そっそれは‥あの‥、気持ち‥いい、から」
「キスだって同じだろう」
「でっでも‥キスは快感をってよりは、お互いの想いを通じ合わせるって感じで、両想いじゃないとしちゃいけないような」
「俺は冬哉が好きだぞ。冬哉は俺のことをどう思ってるんだ」
「そっそりゃ俺だって虎王先輩のことは大好きだけど」
「それなら両想いだろう」
「そんなこと言ってたらみんなにキスして回らなきゃならないじゃん」
「誰かさんがそうなんだろ?」

 あ、そうか‥。だから省吾はみんなにキスしてるんだ。両想いって言うのはちょっと変だけど、好きだと言うことを思いっ切り相手にも伝えたいんだ。

「え、それじゃ狼帝も俺に好きを伝えたかったってこと?」
「そうだ、それだけ冬哉のことが好きだと言うことだ。確かに友達だと思えば表現はおかしいかもしれないが、誰かがそれをしていたら同じ事をしたくなるだろう。そう言うことだ」

 ああ、そう言うことだったんだ。虎王先輩に上手く導かれて、納得のいく答えが出てスッキリした。狼帝はそれだけ俺のことを思ってくれてるわけで。なんか嬉しくなっちゃった。

「さすが先輩。凄くよく分かったよ」
「それじゃ冬哉も俺にキスをしてくれるか」
 ニヤリとする先輩。
 なんかメッチャ恥ずかしいけど、先輩のそばによってほっぺたにキスをした。その俺を先輩は手で囲った。

「冬哉は本当に可愛いな。知ってるか? お前からキスしたのは2回目だぞ」
「ウソ!」
「ほんと。正月に酒に酔った勢いで、冬哉から抱き付いて今みたいに頬にキスだった。ついでにセックスもおねだりしてたがな。可愛かったぞ」

 ええ〜、俺ってそんな恥ずかしいコトしてたんだ。どんな顔してそんなことをねだったのだろう。考えたら顔が熱くなった。
 先輩の腕の中にいた俺はそのまま顔を胸に付けて隠す。駄目‥。なんかこういう雰囲気ってダメ。

 時々俺は先輩の恋人と勘違いをする。キスマークを付けられたときもそうだけど、ドキドキして先輩に抱かれたいと思ってしまう。
 でも‥先輩は俺に口付けはしてくれない。狼帝はあれだけ口にするキスに拘ったのに、先輩は唇以外にしかしてくれないのだ。そもそもその唇以外のキスだって凄く珍しい。

「先輩、さっき言ったのって本当?」
「何だ」
「俺にキスしたいって言ったの」
「ああ、何度も言っているが俺は嘘は付かない」
「分からせるためじゃなくて、いつも?」
「いつもだ」
 嘘だ。今までだってそんな雰囲気になったことがあったけど、一度も先輩は俺にマウスツーマウスのキスをしたことはない。

「先輩って嘘つき」
 さっきは拒否しておいて、出来ないとなると凄くしたくなる。狼帝の気持ちがまた分かっちゃった。
「俺のことはセックスするだけの相手と思ってるんでしょう」
 先輩に跨った俺の腰を抱く手が一つ離れる。

「そんなに俺とキスしたいのか」
「したい」
「さっきと言ってることが全然違うぞ」
「いいの、さっきはさっき。今は先輩とキスしたいの」
 まるで駄々っ子のように無茶を言う。俺は両手を先輩の首に回した。そして自分から先輩にキスしようとした。先輩の離れた手は俺の顎を掴んで止める。

「俺はお前に嘘は付かない。でも約束も破れない」
「約束って何?」
「冬哉とはキスしないと約束した」
「だっ誰と」
「それは教えられない」
「どうしてそんなこと約束するの」
「さあ、俺の唇が大事だったんだろ」
「先輩の唇を俺が狙うってこと?」
 クックと笑いをかみ殺す先輩。

「まあ、そう言うことになるか」
 そんな大胆なことをするわけないのに! と思ったけど今してるんだ。なんでこんなことが分かったんだろう。一体誰がそんな約束をしたんだろう。
「だから他の所へならいくらでもしてやるぞ」
 先輩はそう言いながら俺の耳を甘噛みする。

「ぁん‥」
 キスなのか舐められているだけなのか、判別の付かない先輩の唇と舌は執拗に耳だけを這う。
「ん‥、んん‥。せっ先‥輩。そんなこと‥してると‥、したく‥なっ‥ちゃう」
「二ヶ月ぶりだな」
 先輩はしゃべるときも耳から口を離さない。俺は凄く耳が弱いのだ。もちろん先輩だって百も承知なんだけど。

「きっ昨日‥した‥よ」
「2人でするのがだ」
「うっうん。続けて‥だけど‥、して」
「合宿中はする暇がなかったから溜まってる。今日は2回は頑張るか」

 これもきっと嘘。先輩は優しい嘘を沢山付く。結局監督にめっちゃ気にいられちゃった先輩が帰ってきたのは1ヶ月半後。その間抜かずになんていれるはずがない。先輩が自分で抜くなんて想像できないから、絶対誰かファンの女の子とでもしてたに違いない。
 でも俺は嘘を付いてくれた先輩の気持ちが嬉しい。

「や‥」
「したいとお前が言ったんだろう」
「だから‥3回‥して」
 先輩は俺の肩を掴んで身体を遠ざけると、俺の顔を見つめてから、爆笑した。
 散々笑ってから言った。
「冬哉のリクエストだからな。俺は身体に鞭打って頑張るか」
 もう‥そんなに笑わなくてもいいのに。
 でも先輩は普段はニヤリとしかしないから、こんなに笑ってる所はとても珍しい。その珍しい先輩が見れて幸せになる。

 先輩は俺の頭を思いっ切り撫で回すと、口だけを避けて顔のあちこちにキスをした。
「さて、俺は今から冬哉王子様に奉仕するため頑張らせて頂きます」
 おっ王子だなんて‥。
 先輩におどけて慇懃無礼にそんなことを言われて焦る。でもこの先輩にそんな台詞を言わせるのは、もしかしたら俺だけかもしれない。そう考えたらすごく嬉しい。
 先輩の手がパジャマのボタンを外し始めて俺の股間はすぐに熱くなる。
 こうして俺は自分からおねだりして、朝っぱらから先輩とエッチすることにしてしまった。

 俺は先輩に抱かれることが一番幸せなのかもしれない。
 でも‥昨日のあの興奮も忘れられない。どっちにしろ俺はこうして抱かれることが好きなんだ。だから今、この時一番気持ちのいいことに浸ろう。

 先輩はいつも俺の期待を裏切らないから。

 俺は今まで繰り返された快感を思い出して、よりいっそう期待と興奮が高まるのだった。


 3日の連休はあっと言う間に、楽しく刺激的に過ぎていった。もちろん、3日分の宿題も勉強も午後から頑張ったよ。って言うか、狼帝にやらされたんだけど。
 でも頑張るって決めたから、だからこれからは狼帝に言われて、じゃなくて自分で頑張ろうと思う。

 先輩、待っててね。絶対同じ大学へ行くから。

終わり

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