参戦2

 耳からまたゾクゾクが伝わる。さっき興奮してたこともあって、それだけで身体中が敏感になる。何やらとんでもなく危険な気がする。
「やっやだ‥」
 鷹神から逃れようとして藻掻いてみるけど、シャツの上からでも分かるようになってる右胸の突起を摘まれたら力が出なくなる。
「ヤダ、じゃなくて、イイでしょう?」
 生徒手帳が入ってるポケットがあって、上からでは触れない左胸は右手がボタンを外して侵入してきた。ダッダメって、生で触られたら堪んないってば。
 ジタバタする俺の気持ちなんてちっとも考えてくれない鷹神は、女の子の見てる目の前で、とうとうシャツの中に手を入れて、気持ちと裏腹に触ってもらえるのを尖りきって待ってる左の乳首を摘んだ。
「ヒャッ‥んっ」
 生で触られるのはとんでもない刺激で、頭のてっぺんから声が突き抜けてしまう。見られてるのに、やなのに。どんなに我慢しようと思っても我慢できないのだ。
 俺の反応を見て女の子たちは声にならない悲鳴を上げている。隣の子や前の子の肩をしっかりと掴んで、ガクガクと揺すってる。

 あっ、ああっ‥、やっ、止めて。こんな姿‥晒したくない。
 鷹神の両腕に手をかけて、ブレザーとシャツから引き抜こうと頑張ってみる。だっだけどダメだ。こっちが力を入れるたびに、それに合わせて鷹神は乳首を締め上げるのだ。
「あっ、‥やっ、やめて。止めてってば」
 その度に身体は見事に反応し、ビクンッと震えて感じていることを俺以外の人間にも分からせる。

「どう? こんなもんで」
「きゃ〜、もうバッチリよ。鷹神ありがと。でもついでにもう一つだけお願い」
 女の子の集団の中心にいた子が近づいてきて鷹神に眼鏡を渡した。なに?
「優等生な生徒会長もお願い」
 鷹神は左手を離すとその眼鏡を受け取る。
「冬哉先輩、逃げないでね。今ね、彼女たちのために演技してることになってるから。ここで逃げたら本当だったって告白するようなもんだよ」
 えっ、演技? 今のが演技なんて一体誰が信じるというのだろうか。どう見たって乳首弄られて悶えていたようにしか見えないと思うけど。
 でも‥演技だと思ってくれるのなら、そういうことにしておいてもらった方がいいよね。こんな姿を他に人にも話されたら、どうにかなっちゃう。
 俺が逃げないと分かって生で摘んでいた方の乳首からも手が引く。

 すぐに後ろを振り返って鷹神を見れば、受け取った銀ブチ眼鏡をかけ、サラサラの髪を耳にかけて髪型をカッチリさせ、いつも緩んでるネクタイを締め直し、冬でもまくってる袖を伸ばしボタンを留める。おまけにブレザーのボタンまで嵌めて、見たことのない完璧な優等生が出来上がった。
「キャ〜! 鷹神格好いいー!」
 黄色い声援を受け、眼鏡を中指でちょいと押し上げる鷹神。
 うそ‥。格好いい‥かも。
「凄く頭が良さそうに見えるよ」
「冬哉先輩、見えるって酷いなぁ。良さそうじゃなくて実際にいいでしょう? いっとくけど俺、10番から落ちたことないぜ?」
 うっく、そうなんだよね。さすが都築一族。鷹神も成績優秀なんだよね。あれだけ女の子と遊んでるっぽいくせに、何か狡いよなぁ。
 腕組みして鷹神を睨んでいたら、女の子たちから「絡んで〜」と声が掛かった。
 ええっ? っと思った時には今度は真正面から鷹神に抱き締められていた。
 鷹神は思いきり耳のそばでこの状況の説明をし出した。

「あの子たちはね、漫画研究部の子なの。今度出す漫画の参考にしたいんだって。俺と冬哉先輩ならリアルでも絵になるでしょ」
「なっ何の漫画なの。男同士で抱き合って」
「ホモ漫画」
「ホッホモー?」
 と、叫んだつもりの言葉は発せられなかった。その代わりに女の子の悲鳴が響く。
 鷹神は俺にキスしたのだ。
「たっ、たっ、鷹神!」
「まあまあ、ホモなんてデカイ声で言わないの。彼女たちもそれなりにリスクを背負ってるんだから。それからキスしたことは狼ちゃんには内緒ね。バレたら俺、殺されるから。舌は入れてないから事故ってことにしておいて」

 銀ブチ眼鏡のいい男にニッコリと微笑まれて怒る気が失せる。いっつもこんな風にしていればいいのに。だらしない格好をしてるから、軽そうに見られちゃうんだよ。
 けっけど、俺ってばキスした相手って男ばっかり。どうして、一度も女の子としてないのに、男の数だけは増えていくの。これで5人だよ、ほんともう、ショック。
 なんてことをふろふろと考えている内に、俺のネクタイは解かれ、シャツのボタンは外されている真っ最中だった。
 片手で肩を抱きかかえて、もう片手での犯行。簡単には逃げられない。すると肩が露わになるようにシャツごと開くように引っ張られた。シャツとブレザーは俺の腕の折れ曲がった所に絡む。
「なっなにするの!」
 上半身をほとんど裸同然にすると鷹神は廊下の壁に俺を押し付け、片膝を付いて俺の胸に顔を埋めた。
「ヒャッ‥ヤッ‥」
 せっかく手ぐしで整えた髪を掴んで、引き剥がそうとしてみる。すると腕を押さえていた手が両方離れ、1つは腰を抱き、もう一つは余っている乳首を掴んだ。
「ヤッ、ヤダ。ダメッ」
 両方からの刺激が凄くて鷹神の頭を抱えるようにして悶えてしまう。
 そう‥まるで恋人のように。
 さっきまでキャアキャアとはしゃいでいた女の子たちは、ホゥ〜っとため息をついている。
 甘噛みされた先端をレロレロと舌で弄ばれて身体中がビクビクと震える。
「おっ、お願い‥やめて‥」
 そう懇願してようやく口が離れた。

「止めていい? それともそこで2人きりで続きする?」
 鷹神はあごで生徒会室を指す。制服を直しながら、もう俺は頷くしかなかった。
「はい、これでサービスは終了。俺は5時間目は保健室ね、ヨロシク」
 立ち上がり女の子たちに手を振ると、腰は抱えたままで質問してきた。
「冬哉先輩、立って歩ける?」
 生徒会室はすぐそこだけど、普通に歩ける状態ではない。しかもまだ女の子たちは見てるし。そうじゃなくても散々痴態を晒してしまって消え入りたい程恥ずかしかったのに。これ以上変な格好は晒せない。首を横に振ると、またどっちの方が恥ずかしいか分からないことを言った。
「仕方ないなぁ、ほら抱っこ」
 えっ、ええ〜っ!?
「だから抱っこしてあげるから」
 ほらほらと両腕を腰のそばに待機させ、重みに備える。俺はその場にいたたまれなかったので、究極の選択をして鷹神の首に両手を回して飛びついた。
 鷹神の今の身長は187センチ。狼帝を抜いて先輩に迫る。俺とは17センチ差。飛びついて抱きかかえられたら子供みたい。俺はしっかりしがみついて顔を伏せているしかない。
 鷹神は小さな子を抱くようにして生徒会室へ入った。後に残された女の子たちの「行ってらっしゃ〜い、頑張ってね〜」の声援を受けて。
 なっなにを頑張るか、知っているんだろうか。ほんとに恥ずかしいなぁ。


 生徒会室へ入ると、すぐに鍵をかけ、俺は中の会議机に下ろされる。俺はスキンシップ大好きなので、離れる時にちょっと寂しさを感じてしまう。なんて言うのか、抱き上げられている状態が結構好きなんだ。
「いっ、いいの? もうすぐ授業が始まるよ」

 俺の質問には返事をせずに、ただニヤリと笑って、禁止されてるけど一番無視されてる校則のナンバーワンになってしまっている携帯を取り出して電話する。
「あ、王ちゃん。今から冬哉先輩といいことするから、狼ちゃんには王ちゃんが冬哉先輩を連れて行ったってことにしておいてくれないかな。そうすれば狼ちゃんも捜しにこないと思うし」
「ふふふっ、俺は狼ちゃんと違ってやることは早いよ」
「うん、それじゃお願いね」

 虎王先輩と話したみたいで、これで大丈夫と言ってニッコリとした。
「よく先輩にオッケーもらったね」
 だって先輩が狼帝に嘘付くなんて有り得ない。
「当然でしょ。俺だって弟みたいなもんだし。それにこうでもしなきゃ、教室へ連れ戻されるよ、いいの?」
「うっ‥‥確かに、次は担任の授業だし、途中でも連れて帰るだろうなぁ」
「でしょ。だから冬哉先輩も合わせてね。でも狼ちゃん、今頃死ぬ程ヤキモキしてるだろうね。もう少し積極的になったらいいのに」
「何に積極的になるの?」
「ううん、いいの。こっちの話し。それじゃ1時間しかないから、さっさとやろうね」
「うっうん‥」
 やりたくてたまらない状態にされちゃったから、勢いで付いてきちゃったけど、よく考えたら学校でなんて! 一体いつからこんなに大胆になってしまったのだろう。

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