少し前に白坂会長から電話があった。俺に電話なんて滅多にないんだけど、凄く真剣な口調で心配になっちゃった。 すぐに会いに行くと、全然心配することじゃなくて。 そう、今日は虎王先輩の誕生日。その誕生日プレゼントに俺が付き合ってあげて欲しい、ってお願いされちゃった。でも俺なんかより、白坂会長が一緒の方が嬉しいんじゃないかなぁ。なんて思っていたら、狼帝を誘ってとのこと。なるほど。虎王先輩を喜ばせようと思ったら、狼帝じゃないとダメなんだね。納得したよ。 白坂会長も毎年、あれやこれやとプレゼントしてきたらしい。けど本当に喜んでるかどうかは未だに分からないんだって。会長が言うには、本人も嬉しいのかどうなのかはよく分かってないかも、ってことだったけど。 そんなことないよね、あの虎王先輩に限ってさ。 でも先輩、物は要らないし、食べ物だって拘りがない感じ。やっぱり狼帝しかないよね。 狼帝、先輩の前では突っ張ってるけど、俺の言うことなら聞いてくれると思うから。 そして今日は4月4日。実は先輩はここにはいない。 朝日鋼鉄に入社が決まった先輩は、サンライズの練習に参加しているのだ。だから俺が狼帝と一緒に向こうまで出掛けていった。 専用の体育館にいる時間を狙って、練習を見学に行く。どこにいても目立つ先輩が普通でビックリ! みんな大きいなぁ。先輩はセッターだからそこまで身長はなくてもいいんだけど、やっぱりどこにいても目立っていて欲しい。でもそれは杞憂に終わった。先輩はどこにいても先輩で、あのカリスマのオーラが漲っていた。それは大好きなバレーをしているからなのか、いつもより後光のようにギラギラと輝いていて、そのうち‥練習であっても先輩しか目に入らなくなった。 Vリーグが始まったらそのうちテレビでも先輩が見れるようになるんだよね。そう思ったら誇らしいような寂しいような複雑な気分。 でも、応援してるからね。 白坂会長の手はず通り、練習が終了したらホテルで待ち合わせした。先輩は春先のジャケットを羽織って登場し、みんなの視線を集めている。俺たちに気が付くと目配せされる。ここでは相当な有名人になってしまった先輩は、隠れるように部屋へ入った。どうやら既に追っかけがいるようで、気軽に出歩けないと言うことだった。 高校や大学の頃はちゃんと親衛隊が守ってたから。違う地域ではしょうがないよね。この調子でテレビに出たらどうなるんだろう‥。 「先輩、誕生日おめでとう。俺からのプレゼントは狼帝だよ」 そう言って狼帝を差し出す。狼帝はブツブツ言いながらも、プレゼントを出す。 「俺からはこれだ」 狼帝はぶっきらぼうにそう言うと、重たそうな箱の入った紙袋を渡した。何だろうと思ったら、先輩は箱を見ただけで分かったようで、狼帝の頭をグリグリと撫でた。 「なっ、なんだよ。子供扱いするな」 狼帝はもう、照れくさくて仕方ないようで、わざとむげに手を払う。見ていたら笑えて来ちゃう。 「冬哉、いい誕生日プレゼントだった。ありがとうな」 「うん、先輩って狼帝のことが一番だもんね。元気な顔が見たかったでしょう? でも俺も久し振りで凄く嬉しいよ」 「ほら、冬哉。来い」 先輩はベッドへ腰掛けると俺を呼ぶ。 「えっ、でも‥なに?」 先輩からそう言ってくれるのは凄く珍しいので、逆に戸惑ってしまう。 「なんだ、やりたくて来たんじゃないのか」 「そっ、それは‥そうだけど‥。でも今日は先輩の誕生日だから‥プレゼントを」 「俺の誕生日だから、俺の言うことは何でも聞いてくれるんだろう? なら冬哉からおねだりってのが一番だな」 「えっ、そう‥なの? じゃあ、あの‥して? 先輩がいなくなっちゃって寂しいから」 凄く恥ずかしくて顔が熱くなるのが分かる。その俺の手を先輩は引っ張り、そしてそのまま抱き締められた。 「冬哉は本当に可愛いな。このままここに止めておきたくなる」 先輩は普段は絶対言わないことを言って、俺の耳を甘噛みした。それだけで俺の下半身は興奮し、狂い出す。 「やっ、だめ。ほんとは凄く凄く寂しかった。先輩がいなくなったらヤダ」 ちゃんと笑って送り出したはずなのに、また泣けそうになる。先輩はずっと前に俺のことを信頼してると言ってくれたのに。 先輩はヨシヨシと言って頭を撫で、俺をそのまま抱き上げた。 「せっかく狼帝が持ってきてくれたからな。風呂でたっぷり可愛がってやる」 先輩が取った部屋は新婚さんが泊まるようなスイートで、お風呂はとっても広かった。狼帝が持ってきたのはボディーソープ。先輩のお気に入りで、おばさんが送るつもりだったのを持ってきたのだ。 ボディーソープと言っても、海外製の液状泥石けん。パックも出来ちゃうくらいの美容品らしくて、もの凄くきめ細かい泥を塗れば、ツルツルのヌルヌルで撫でられるだけで死にそうになる。 先輩と狼帝の2人にヌルヌルされて、なんだかよく分からなくなっちゃった。誰の誕生日だったんだろう‥‥、なんて。 どうして先輩の会社でバレー部を作らないんだろう。そうしたらまだ一緒にいれるのにな。 そんなことを思いながら、先輩と別れたのだった。 23歳誕生日、終わり
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ちょっとひとことに書いた虎王先輩の23歳誕生日です。次の年も書いたのでこちらに改めてアップしました。 |