快楽のいばら街道 36


「いいだろ、別に。今更だろうが」
「そんなの‥アダルト俳優みたいじゃないか」
「少しくらいサービスしてもいいだろう。藤原だってやってたんだ。その後話題になりゃこっちのもんだ」
「だけど普通のAVならモザイクも入るし、モロ写ってることはないだろ。あんな姿を晒すなんて‥」
「聡はあの姿が一番エロくて可愛いいぞ。それに裏でしか輪姦シーンは見れないからな」
「どういうことだ」
「それは映画がアップしたら分かるがな。あそこで教授がいいって言わせるために、お前は犯されたんだよ。それは話の筋には入ってないから」
「ひっ人の身体をなんだと思ってるんだ」
 あんな姿を一般に晒すなんて。一番恥ずかしい所まで見られると言うことに激しく動揺するが、取り返しがつかないだろうことは嫌でも理解する。
「お前の身体は俺のものだ。それにやらせてやった奴らはみんなお前の熱狂的なファンだから。俺が繋ぎを取って集まってもらった。今後邪魔な奴がいたらお前のために殺人だって犯してくれる程には盲信してる。大事にしておけよ」
 磯谷と同じ穴の狢‥。
 俺には女性ファンと男性ファンとが4:1くらいの割合でいた。何故か昔から男にはもてたのだ。親衛隊も女性ばかりで固められていたが、それとは別に応援団なるものがあって、そっちは男ばかりがいたのだ。
「ほら、覚えているだろう」

 磯谷は背広のポケットから写真を取りだした。見れば5枚の写真に写ってるそれぞれの顔に見覚えがあった。だみ声で先頭切って応援してくれた人達だった。
 磯谷だけは集団を嫌がって一人でストーカーまがいのことをしていたし、また応援団に焼き入れられたりしてたはず。それがよく関わり合いになろうと思ったな。
「俺はお前のためになることなら何でもする」
 病的にこいつは俺に惚れているらしい。
 ため息をついたその時、ドアがノックされ返事をする間もなく藤原さんが顔を出した。
 俺は磯谷に脱がされていたローブだけサッと羽織るが、どうやらバレバレだったようだ。
「聡くんって元気だね。やっぱり歳が違うと体力に差が出るね。俺はまだ場面が残っているけど、明日はお休みなんだよ。だからデートしよう」
 あの‥渋いイメージがガラガラと崩れ去る。
 ただのナンパ師だ‥。

 でもまったく騙されるほど別人になっていたあの演技力はやっぱり凄い。だって藤原真路を作り、片桐征二郎を作っていたのだから。
 磯谷を見ればさっきは逃げてきたのに、今度は行けと目が言っている。やはりこういう人を落としておくのが磯谷のセオリーなんだろう。
 俺は了解の挨拶を返し、逆に今後もお願いしますと言っておいた。

 また何をされるか心配だったが、何故かごく普通のデートだった。映画を見に行ってご飯を食べて、買い物に行ったりお茶したり。けれど俺はそんなことをする前にデビューしてしまったので凄く新鮮で楽しかった。ただ、男同士と言うことは気になったが‥。
 それにサングラスを掛けて顔を隠した背の高い妙に目立つ男と、野球帽を目深に被りやはり顔を隠した男同士は注目度が大きかった。
 結果、週刊誌にすっぱ抜かれることになり、最大の話題をさらってしまったのだった。

 そしてそれは計算された行動だと言うことが後からようやく分かった。映画の宣伝に一役買ったのだ。相手役が発表されてないこともあり、色んな憶測が飛んだ。映画関係者の思うつぼと言う所だろう。

 藤原さんは相変わらず正体が掴めず、一緒にいると本当に恋し恋されてると勘違いしてしまいそうになる。キスは熱いしセックスは凄い。会うたびにときめいてしまうのも事実だった。
 しかし俺も本当の恋愛なんてしたことがなく、乗せられているだけなのかどうかの判断はつかなかった。
 磯谷に利用してるだけだと念を押されると、そうかなとも思う。
 俺はこの映画以外には大した仕事は入っておらず、藤原さんに合わせて行動してるうちに撮影終了、関係者試写会となった。
 初めてフィルムを見せられて、その場から逃げ出したくなった。俺は全てを見せて、全身で喘いでいた。どんな快感に浸っているか、これが本気以外の何者でもないと示していた。

 こんなの‥裏ビデオなんていらないくらいだ。こんな姿を世間に晒さなきゃいけないのだろうか。

 俺の演じるアキラは別れると言い続けて、なのにちゃんと教授に恋していた。でもこれは藤原さんが相手役だったから。それだけのことだ。
 教授もあれだけ意地悪してるだけに思えたのに、悩み苦しみ妻への想いが違っていたことに絶望し、そしてアキラを掴まえた喜びとがジーンと染みるように伝わってきた。
 藤原さんってやっぱり凄い人なんだ。それに比べて俺はただただ喘いでいるだけで。痴態を晒してることも、実力が伴わないことも、全部が恥ずかしくて世間から隠れたい衝動に駆られた。
 だけど見ているとあの時の感覚と感情が甦る。また‥あの教授に抱かれたいと思ってしまう。
 身体が忘れられないようにされたのはアキラじゃなくて聡だったのかもしれない。
 それなのに終了すると幸福感が心を占領していた。軽い訳じゃないけど最終的にはハッピーエンドで、心から教授によかったねと言いたくなった。

 これが藤原さんの実力。添え物の俺はなんと評価されるだろうか。
 脱げば誰でもよかったと言われるだろうか。本番が出来るからあいつがあの役だったんだと言われるだろうか。
 俺は身体の芯が疼くのを必死で抑えながらその試写会を後にしたのだった。

 それから封切りまではずっと報道関係者に追われることになった。メインは藤原さんとの関係だったが、映画のことも本当にしてるんじゃないかと質問攻めだった。
 あんな‥恥ずかしい姿を晒しているのにまだ俺を辱めようと言うのだろうか。週刊誌には「脱アイドル」なんて書かれて、「ここまでやるか」なんてサブタイトルが張り付いていた。
 封切り前から話題の作品だったので、派手なアクションやハッとする仕掛けなどない、どっちかと言えば恋愛だけの地味な映画なんだけど、その手の作品としては破格の興行となった。
 すなわちそれは俺をゲイだと宣伝し、なおかつヤられるのが好きな淫乱だと知らしめたようなものだった。

 変な男にストーカーされたり、どこへ行っても身体を触られたり、ますます磯谷が俺にベッタリになったのは言うまでもない。
 映画が終了すると同時に藤原さんも会いにはこなくなった。
 しかし一気に時の人となった俺には大量の仕事が舞い込んできた。雑誌のインタビューから、テレビの対談番組のゲストまで。レギュラーは取れないけど、単発で出演出来るもの全てにしたかもしれない。
 その度に映画のセックスシーンに話しが振られたけど、俺は平静を装いつつ演技だと言い張らなきゃならなかった。
 話題なうちに金儲けにするのがビジネスの鉄則。
 俺はようやく本来の歌手としての復帰が果たせることになった。
 夢にまで見たステージ。俺はここにもう一度立つことだけを夢見て戦ってきたのだ。
 作詞作曲は大御所と呼ばれるヒットメーカーが担当してくれて、今時のはやりに合わせてバンドを組んでの復帰というか再デビューだった。

 俺と一緒になるバンドは磯谷個人の手駒だったらしく、うちのプロダクションでデビューさせるかどうかまだ協議中だったようだが、俺が売れてきたので磯谷のごり押しが通ったのだ。だからメンバーはこういった派手な背景で世に出れることを喜んでいた。
 ただこの一曲が売れたら俺は用済みだと思っているらしかったが。
 高校中退してまでの音楽活動。デビューに掛ける意気込みは俺同様半端ではなかった。
 しかし‥4人いるメンバー全員16〜17歳。若さが際だつ中で俺は浮くだろう‥。しかもフロントだし。
 この若いメンバーと仲良くやっていくことが非常に困難だと思うのは俺の思い過ごしだろうか。
 だがここまでしてようやく掴んだチャンスなのだ。意地でもしがみついて絶対トップに返り咲いてみせる。
 バンド名は聡+α。シングルの発売は1ヶ月後に決まった。
 そこまで決定してからようやく練習に入ったのだった。

 初めてメンバー全員に会ったときは若いな、と言う印象しかなかったが、スタジオ入りしてじっくり眺めてみると華があった。
 既に芸能人オーラが出てると言うか、一般人とは違う輝きがあった。背は全員俺より高く、身体はどっちかと言えば逞しい系。顔は某男子アイドル事務所でも通りそうなイケてる感じ。
 それがどうして磯谷の手駒だったのか。演奏も上手けりゃ、ギターのボーカルも渋くてイイ声をしていた。
 ルックスさえ整っていれば多少歌が下手でも演奏が下手でも、ビジュアルバンドで売れる。ここまで全てが揃っていれば他の事務所がほっておかないだろう‥って思えるのに。
 どうしてごり押ししてまで俺のバックで通さなければいけないのか分からなかった。
「お前が一番年上なんだから、仲良くなれるよう努力しろよ」
 磯谷からはそう言われていたが、どうみてもメンバーは俺に不満を持っているようだった。


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