快楽のいばら街道 35


 教授は俺の頭に自分の頭を擦り寄せる。愛おしいものにするように。
「けれど卒業が近づいてくると段々おかしくなってくるのが自分でも分かった。自分でも分かるくらいだから彼女にももちろん分かってしまった。だから彼女から離婚を持ちかけられたよ」
 教授の身体が一瞬で強張って、その瞬間を思い出している。壊れそうなくらいショックだったんだろう。
「俺はあの子を守っていくと誓ったのに。一生悲しい想いをさせないと誓ったのに。だがやはり特別な相手として愛していないのに、そのような立場に身を置かすのは一番悲しませる行為だったのだと気が付いた。俺は傲慢だった。幸せにしてあげられると思ったのだ」
 教授の身体が震えている。泣いているのか‥泣きたくなるのを堪えているのか。
 そこで教授は黙ってしまった。いや、話せる状態ではなくなってしまったのか。

 しばらく待つとまた口を開いた。
「自分と同じ立場に立つ人を力づけたいとカウンセラーの資格を取ったんだ。就職も決まって自立することが出来るようになると、そこで離婚届を手渡された。そして君と幸せになってと言われた」
 そんな‥。そんな人を押し退けてまで俺は1人だけ幸せになっていいんだろうか。
 いや、だけど一時は奥さんさえ死んでくれたら、なんてことを思っていたのも事実なのだ。
 俺はこの男が欲しい。
 そしてこの男も俺が欲しい。
 その2人がまとまらないでどうするんだ。
 俺は決意を新たにする。欲しい物は手に入れる。ガッチリ掴んで離さない。

 棚からぼた餅が転がり落ちてきて幸せに溺れそうになる。
 けど待てよ。それなら何故俺はこんな目にあったんだろう。

「だけど、奥さんがそこまで言ってくれたなら、俺にこんな酷いことをする必要があったの?」

「私は君の愛情を確認したかった。君も私のことを好いてくれてるとは思っていたが、例え妻がいてもいいと言ってくれないと、何かが起こったときに彼女の元へ行くことが出来ない。それだけ納得して欲しかったし、そんなことがあっても私と一緒にいてくれると言わせたかった」
 教授は教授に戻ってまた我が侭を言う。
 なんだよ、そんなことのために俺は何日も監禁されて他の男に犯されたのか。大体惚れてる相手を他の人間に貸せるってのが信じられない。
 けど、まあいいや。俺もここまでされないときっと分からなかったから。
 心も身体も教授が一番だってことが。
「凄くよく分かったよ。俺にはあんたが一番だ」
「身体の相性も一番だろう。私以外には君をあそこまで悦ばせることは出来ないんだよ。君の身体にも覚え込ませたからね。もしも出て行くようなことがあっても、君はこの快感が忘れられなくてすぐに戻ってくるだろう」

 身体を離して教授を見れば、普段通りの自信過剰男に戻っていた。
 なんて奴。けど教授以外にはもう抱かれない。
「あんたの他には誰とも寝ない。寝てもつまらないから。その代わり一生気持ちよくしてくれよ」
「ああ、アキラ。私もそのつもりだよ」
 教授は再度俺にキスをすると、さっきから入ってるモノを動かした。
「して‥もっとして。狂うほどあんたが欲しいから」
 それから何度も失神するほどのセックスをして幕を閉じた。

 幕が閉じられて「カット〜」の声が掛かる。薄暗かった回りがパッと明るくなった。
 えっ、ええっ、なに? どうなっちゃったの。
 俺は本気でここがどこかが分からなくなって、裸で抱き合ったままの教授にしがみついた。
「聡、君は本当に可愛いね。もしかして本気で俺を誘惑するかい?」

 教授は俺のことを聡と呼んで、顎を取るとチュッと軽い音をさせてキスをした。
 聡は俺のことだ。それはすぐに認識出来た。けど‥この明るくにこやかに笑う人は誰だろう。教授じゃない‥。
 目眩がして教授を見つめていると、見慣れた男が飛んできた。
「藤原さん、お疲れ様でした。どうですか、聡は。お相手が務まりましたでしょうか」
 頭をガツンと殴られた気がして目が覚めた。
「ふっ、藤原さん‥」
 そう、藤原真路49歳。気難しい職人肌の舞台俳優‥のはず。
「ふふ、中々いいね。これからデートに誘ってもいいかな。本気で愛し合おうか」
 藤原さんは俺の体を抱いたままで、また口先だけのキスをする。それを見て磯貝が慌てて阻止する。
「いえ、聡はこの後の予定がありますから。ありがとうございました」
 素っ裸だった俺にバスローブを羽織らせると、軽々と抱き上げて控え室へと運んだ。
 俺はといえばセックスのし過ぎで腰が立たない。

 控え室へ運ばれながらまだしっかり働いてはいない頭を使って考える。
 朦朧としていたおかげですっかりアキラになっていたが、俺は聡であれは演技だったはずと思い出す。でも‥まてよ、藤原さんは俺に演技が出来ないよう邪魔しまくったくせに、指導すると監禁したのだ。
 カットの声が掛かったけど、撮影はしてなかったはず。
 だって、撮影なんてされたら俺は全部をさらけ出していて、もの凄く拙いだろう。
 おまけに詳細を思い出して青くなる。
 脚本とまったく違うことを言ってしまった。あれほどアキラになりきってないと怒られたのに。どうしよう‥。
 スタジオから少し離れた所にある控え室は一応準主役級と言うことで個室だった。そこへ入った途端に磯谷に喚いていた。
「どうしよう。俺、脚本と反対のこと言っちゃった。まだ‥やり直してもらえるかな」
 両腕を掴んで焦ってる俺に向かって磯谷は嫌な笑みを浮かべる。

「聡‥。お前はよくやったよ。と言ってもほとんど本気だったんだろう。この身体によく訊いてみないとな。まさかアイツに本気で惚れたんじゃないだろうな」
 ねっとりと絡み付くようにしゃべりながら、バスローブの中に手を入れてくる。
「やっ、止めろって。撮影に出れなくなる」
「ふっ、そんな必要はない。もう、お前の出番は終わったよ」
「ええっ、やっ‥やっぱり降ろされちゃったのか」
「そうじゃない。お前はきちんと自分の役を演じて終了したんだ。まあ、後から簡単な所は撮り直しもあるかもしれないがな」
 磯谷は話しながら俺を押し倒すと、バスローブも脱がしにかかる。
「どうして終わりなんだよ。最後の別れるシーンとか全然撮ってないじゃないか」
「そんなシーンはないんだ。この話しは最初からお前と藤原‥というか、アキラと片桐がまとまってハッピーエンドになる話しなんだよ」
「えっ、一体どういうことなんだよ」
「それは身体に訊いてから‥だ」

 さっきまで藤原さんに抱かれていた身体は、今度は磯谷に抱かれる。
 俺の身体は男を受け入れる為だけにあるみたいだ。こんなにされても芸能界に未練があるのだろうか。本当に俺は元のように頂点に立てるのだろうか。
 準備も無しに磯谷が入り込んできて、俺はまた喘いでいた。
 もう嫌だといくら言っても誰も聞いてはくれない。そして俺の身体は嫌だなんて一言も発してないのだ。いつでも大悦びで男を迎え入れる。射精さえさせてくれたら誰でも受け入れるかもしれない、そんな危ない身体なのだ。
 磯谷は俺が藤原さんに抱かれていたのがよほど気に入らなかったようで、何度もどっちがいいかと確認しながら俺を責め立てた。
 仕方ないから磯谷の方がいいと答えてはいたけれど、藤原さんのセックスは忘れられない。
 本当に教授が忘れられない身体にされてしまったみたいだ。
 あの‥深くて強い持久力抜群の突きが懐かしくなる。あそこまで俺を狂わせてくれるのだから相当なものだろう。

 けど磯谷はちゃんと俺をイかせてくれる。これが最大限満足するのだから、よく分かってる。
 取り敢えず一戦終えると、ようやく説明してくれた。

 俺が渡された脚本は、原作とは違ったラストになっている、俺だけのために書かれた話しだったのだ。
 それは俺があの藤原さんに対抗出来るほどの演技力がないから。それならもっと演技が出来る俳優を連れてくれば良かったのだが、監督も藤原さんも何故か俺を気に入ってくれていた。
 そこで実体験させて同じような状況に俺を置いて、それを勝手に撮ることにしたらしい。
 藤原さんは自分のテクニックで、別れると思い込んでる俺から別れないと言わせてみせると意気込んでいたそうだ。
 それが彼が珍しく映画に興味を持った理由でもあった。
 そして、藤原さんは職人肌の気難しい人ではなく、自らゲイだと認めているプレイボーイだったのだ。
 磯谷から監督から、みんなして俺を騙していたのだ。

 【ともに行く】と言う小説は、ゲイであった大学教授が妻と別れて、学生と結ばれる話しだったのである。
 そして話題だったのはそのセックスシーンで、過激なことで受けていたらしい。教授の激しい愛情が、肉親の情愛との狭間で揺れ動いている様が共感を呼んでいたのだ。
 それで俺には本を読むなと禁止していたのだな。テレビも雑誌も一切見せてくれなかったのはそう言う訳だったのだ。
 藤原さんがそんな教授をやるのだから、当然その相手役は話題に上る。しかもこんなハードなエッチシーンばかり。俺が出たと分かったら、また話題になるだろう。あの写真集のエロい顔でゲットしたのだと言われるだろう。

「そっ、それじゃ‥あの演技指導だと思っていたところも全部撮られてるってことなのか」
 台本に書いてあったマル秘シーンとはここのことだったのか。
「そうだ、全部フィルムに収まっている。ノーカット版として裏に出る手はずも整ってるからな。相当な荒稼ぎが出来ると社長も喜んでいたぞ」
「そっ、そんな話しは聞いてない」


前へ ◆  次へ

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル