うそつき太陽
前編



  ドアが開いたその瞬間から、嫌な予感はしてた。
  開けるなって脳は命令してんのに、体は言うことなんか聞きやしない。
 
  玄関には見慣れたアイツの大きなスニーカーと、アイツには絶対はけないサイズのスニーカー。

  ああ。
  いやだな。
  このまま回れ右をしたい。

  思ってるのに体は勝手に靴を脱ぎ部屋に上がりこんでしまう。

  ほら、風呂に入ってるのかもしれないし?

  なのに風呂場なんか素通りしてしまう。

  もしかして寝坊してまだ寝てんのかも。
  それなら起こしたら悪いよね。

  なのに耳は嫌な音を聞き取ってしまった。
  悪あがきする脳に証拠を叩きつけてるみたいだ。

  仕方なく俺は奴のベッドルームの扉を開いた。

  ベッドの上にはアイツと、もう一人。
  何をしてるかは一目瞭然。

  まあ、分かってたけどね。
  アイツが俺との約束すっぽかすのなんかいつものことだし?
  こうやって誰かとの『真っ最中』見つけるのだって日常茶飯事ってやつだし?

  だけど相手の奴が驚いてこっちを見た瞬間、さすがに俺も言葉を失った。
 
  気まずそうに顔を背けた奴の相手は、俺の親友だった。








  「なんだよ、それ。」
  俺が愚痴ると裕(ユタカ)はそう言って憤慨した。
  「お前遊ばれてんじゃないのか!?」
  全くその通り。
  遊ばれちゃってんのよ、俺は。
  「一樹(カズキ)はそんなんでいいわけ?」
  いいわけない。
  いいわけないんだけど、どうしようもない。
  だってアイツは俺を黙らせてしまう、呪文を持ってるんだから。
  「言ってやれよ、浮気すんなって」
  浮気、浮気ね・・・。
  どれがアイツにとっての浮気なんだろう。
  先週俺との約束すっぽかして会ってたあのケバイ女だろうか。
  それとも3日前、うっかり見てしまった、あのキスの相手だろうか。
  それとも、俺、かな。
  そもそもアイツに『本気』なんてないと思うんだよね。
  強いて言うなら全部浮気だろ。

  「一樹!!お前が言えないんなら俺が言ってやるよ!!」
  「え、いいって。」
  「なんでだよ!?俺がそんなの我慢できないよ!!」
  「いいから、やめてくれって。」
  それでも裕は聞かなかった。
  裕は俺より華奢だし。
  ちょっと女顔だし。
  絶対アイツにあったら食われる。
  俺、親友と泥沼の三角関係とか、マジ勘弁。
  「何だよ、それ。俺がそんな奴に落ちると思ってんの?」
  分かってないな、裕は。
  俺だってアイツは最低だと思ってる。
  わかってるのに、スキなんだから。
  そういう男なんだ、アイツは。
  「あり得ないって。俺、そいつがどれだけ酷い奴かって、もう知ってるんだから。」
  俺に任せろと言って裕が胸を叩いて見せたのは昨日のことだ。





  そして今日にはもう奴の腕の中。
  男の友情だって、アイツの前では風の前の灯火ってやつなわけだ。
  気まずそうに顔を背けた裕とは対照的にアイツは俺を見てニヤッと笑っただけだった。
  そのまま俺を無視して再開。

  さすがに俺もさ、これには参った。
  もう絶対アイツのことで泣いたりしないって思ってたけど涙は勝手に溢れてきた。
  こんな状態なのにアイツのことがまだ好きなんだからバカだよ、俺って。
  俺から別れるなんて言い出せない。
  それでもこれ以上、一緒にいたいとは思わなかった。
  俺は元親友の喘ぎ声を聞きながら荷物をまとめて部屋を出た。




  運良く友達の住んでる学生マンションに空きが出て、そこに住むことになった。
  あいつと住んでたマンションとは比べ物にならない位小さいし汚いけど、これでもうアイツと誰かの
 『真っ最中』なんて目撃しないですむし使われたベッドで寝るなんていう惨めな思いもしないですむ。
  それを思えば快適だった。
  たまに見かけるゴキブリなんてかわいいもんだ。

  きのこのCMのメロディがケータイから流れ出す。
  あれからアイツから3回電話がかかってきた。
  これが4回目だ。
  こんな可愛いメロディが全く似合わない顔を思い出してしまった。
  ケータイを取ろうとしてしまう手を押さえつけて我慢した。
  
  どうせ、飯まだか。とか、
  早く洗濯しろよ。とか、
  部屋が散らかってきたから掃除しろ。とか、そういうことに決まってる。

  俺はお前の母親でも家政婦でもないんだよっ!!

  鳴り続けるケータイを睨み付けて心の中で叫んでみた。
  アイツに面と向かってそう言えない自分に虚しさが増しただけだ。

  ケータイはしばらく鳴り続けていたけど、ふいに切れた。
  ようやく諦めたらしい。

  5分くらいして今度はインターホンがなった。
  どきりとしたが、そんなわけないと頭を振る。
  アイツはここを知らないし、知っててもわざわざやって来たりはしないだろう。

  インターホンを取って「ハイ」と言うと、「山本だけど」と返事がある。
  このマンションに住んでるここを紹介してくれた友達だ。
  俺は今開ける、と返事をしてすぐに玄関の鍵を外し、扉を開いた。

  「どうし・・・」
  たの、山本。
  言おうとした言葉は最後まで言えず途切れてしまった。
  目の前に立っていたのはアイツだった。
  戸惑って視線を彷徨わせると、アイツの後ろで山本がごめんのポーズをしているのが見えた。

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