うそつき太陽 中編 |
「で、なんなの?」 なかば無理矢理あいつの家に連れてこられた俺はムッとしているのを隠さずに言った。 やつは答えずに玄関をあけ、俺を中へうながす。 仕方なく部屋に入った俺は目の前に広がる光景に唖然とした。 「な・・・んだよ、これ」 部屋の中は俺がいた頃とは比べ物にならないくらい汚かった。 別に俺も綺麗好きって訳じゃないけど、掃除が嫌いなほうでもないし。 「お前が出て行ってから1ヶ月、誰も掃除をするやつがいないんだから何を驚く必要がある」 なんでこいつはこんなに偉そうなんだ? そうだ、こいつってほんっとに自分では何にもしないやつだった。 そーいうところに惚れちゃったんだよね、自分でもバカだとは思うけど。 俺がいてやらないと、みたいな? こんな所で話をするのは勘弁だけど、突っ立てるのも落ち着かないので、その辺のものをぎゅぎゅっと端に寄せて座った。 やつは立ったまま俺の目の前で、俺を見下ろしている。 ただでさえでかい奴なのに、これじゃあ、すげぇ威圧感。 なんなんだよ、全く。 「で、用件は?」 「なにがだ」 「だから、話があるって俺を連れてきたんだろっ」 「ああ。」 やつは頷き俺の目の前にしゃがみこむ。 「掃除」 「は?」 「この汚い部屋にもう我慢できん。片付けろ」 ねぇ、俺ってばどうも耳が悪いみたい。 だって今、「片付けろ」って聞こえたもん。 耳だから、耳鼻科か。 近所にいい耳鼻科あったっけ? 「それと、洗濯。もう着る服がない」 ほら。絶対、俺の耳おかしいって。 「掃除と洗濯が終わったら、飯。コンビニ弁当は飽きた」 ぷっちーん 「なんで俺がお前の面倒みなきゃなんねぇんだよっ!!」 そうだよ、こいつはこういう奴だ。 わかってたけど、わかってたけどっ。 「お前以外に誰がやる」 俺以外にもこいつの世話焼きたがる人間なんて大勢居るんだ。 そーいやこいつ、一緒に暮らしたりすんのは俺が初めてだったって言ってたっけ。 俺ってホントばか。 今のセリフで他の奴に優越感なんて感じちゃうんだから。 もしかして「よりを戻そう」みたいな話か?なんて期待なんてしてたなんてことはないけどっ。 こいつには何を言っても無駄だから、なんて自分を誤魔化して俺は部屋の掃除に取り掛かった。 思いのほか時間のかかった掃除に続き、洗濯も終わらせた。 気付けば外はもう真っ暗だ。 早く飯を作らなければ、帰るのが遅くなってしまう。 俺の住んでるとこは最終バスが10時過ぎだから、急がないと間に合わない。 冷蔵庫をあけると何もないだろうという俺の予想を裏切り、結構食材は入っていた。 賞味期限をみても大丈夫。まだ新しい。こいつが自分で買い物に行ったのだろうか?想像もつかない。 これだけそろっていれば何でも作れるだろう。 たまねぎに、ひきにく、・・・・。 こいつ確信犯だ。 置いてある食材は明らかにある一つのメニューを作れといっている。 はいはい作りますよ、作ればいいんでしょ。 「ほらよ」 俺が奴の目の前に料理の載った皿を置くと、 「ふん。ハンバーグか。」 やつは不満そうに言ったが。 俺は見逃さなかったからな。奴の目が喜びに輝いたのを。 こいつはこんな図体で子供で子供が食べたがるようなものが好きだ。 ハンバーグの他にはオムライスとか、カレーとか。 作るの楽だから別にいいけど。 奴が食べ始めたのを見て、俺はコートを羽織った。 すると奴が慌てて席を立つ。 「どこに行く気だ」 「は?帰るんだよ」 何を言ってるんだ、こいつは。 もしかして引き止めたりしちゃってるわけ? 「食い終わった皿は誰が洗うんだ」 ああ、そーいうことですか。はいはい。 あんたが食い終わるまでここで待ってて、あんたが食い終わったらその食器の後片付けもして、 バスがなくなった頃に歩いて帰れと。そういうわけね? はいはい、そーしますよ、させていただきます。 二度とこいつに期待なんかしない。 俺は今、誓ったぞ。 結局俺が奴の食べ終わった食器を片付け、風呂まで沸かしてやった時にはもう、10時なんかとっくに過ぎていた。はぁ、こっから歩いてくとなるとどんだけかかるんだ? タクシーなんて金はないし。 こいつが車を出してくれるとは到底思えないし。 仕方ない。この寒空の下歩くのはうんざりするが。 コートを羽織った俺を見てまた奴が慌てて立った。 「あ、もう無理だからな。もう遅いし。」 先に言ってやるとやつは不機嫌になる。 やっぱり何かをさせようと思ってたんだな。 「泊まっていけばいいだろ。」 あらら、やっぱり俺の耳おかしいわ。 こいつがこんな気のきいたこと言うなんて、あるわけないもんな。うん、ないない。 「泊まっていけよ」 俺が「は?」って顔してると奴がもう一回言った。 どうやら聞き間違いとか、幻聴ではないっぽい。 でもこの部屋に客用の布団なんてないはずだし。 もしかしてこの冷え込む時期にソファーで寝ろとか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あり得る。 それならやっぱり歩いてでも家に帰ったほうがましだな。 「いや、帰るよ」 言って玄関に歩き出そうとしたら、やつが目の前に立ちはだかった。 「なんでだ」 「こんな寒い時にソファーでなんか寝たくないからっ」 「何言ってるんだ、お前は。ベッドで寝ればいいだろ」 え? 今ちょっと自分の耳を疑ったぞ。 もしかして俺にベッド譲ってくれるんだろうか? 自分はソファに寝て? こいつがそんなに優しいことを言い出すなんて天変地異の前触れか? 「でも、お前はどうするんだよ。ソファでなんか寝たら風邪ひくぞ」 もう心はほとんど泊まっていこうと決めてしまってるくせに、照れくさくて聞いてしまう。 「俺もベッドで寝るに決まってるだろ」 ・・・・・・・・・・・・・・はい? 「一緒に寝ればいい」 はいいいぃぃぃぃぃ〜!? あり得ない思いで奴の顔を見上げると、奴は当然といった顔で俺を見下ろしている。 なんかイライラしてきたぞ。 よくよく考えれば俺がこの部屋をでたのは、 こいつが、 あのベッドで、 俺の元親友と、 真っ最中だったからで。 それなのにそのベッドにこいつと一緒に寝ろと? ありえねぇ。ありえねぇよ、こいつ。 無神経もここまで来るといっそ関心しちゃうね、まったく。 「誰があんなベッドで寝るかよ!!ソファーもごめんだからなっ」 いきなり猛烈に怒り始めた俺に、奴は不思議そうな顔をした。 なんで俺がそんな珍獣でも見るような目つきで見られなきゃなんねーの!? 「とにかく俺は帰るからなっ。もう二度と俺の前にそのツラ見せんなっ!!」 バタン!! 勢いよく玄関のドアを閉めて、家までの道のりはすごく寒くて。 家についた頃には怒りも冷めてしまってた。 あんなのを好きになった俺が間違いだったよ、うん。 |