うそつき太陽 後編 |
もう絶対アイツには関わらない。 そう心に決めた翌日に俺はまたやつの部屋の玄関にいる。 目の前でアイツが鍵をガチャリとあける。 俺がついてくと信じてるんだろうな。 後ろを振り返ることなくドアの向こうに消えていく大きな背中。 もうほんとに俺は何をしてるんだろう。 昨日の夜2時間かけて家まで走って、今度こそ何があろうとアイツのいうことなんか聞かないって決めたはずなのに。 昼にアイツがまた俺の部屋に来た時はドアをあけたりしなかった。 それなのにあいつが2時間も3時間も部屋の前で粘るもんだから、ついつい開けちゃったんだよな。 そんなことを考えながらじーっと目の前のドアを見つめているうちにチャンスは今だという気がしてきた。 逃げちゃえ。 くるりと踵をかえし、3歩進んだ所で上着の首元を後ろからひっぱられた。 「どこに行く」 振り返るとやつが不機嫌そうに見下ろしている。 逃亡失敗。 仕方ないと諦め部屋にあがりこむ。 昨日俺が何時間もかかって掃除しただけあって、とても片付いている。 ということはは料理さえ作ればすぐに帰れるということだ。 黙って台所にたった俺に満足したのか、やつはソファにもたれ、プレステをしはじめた。 冷蔵庫の中身を確認。 どうやら今日はオムライスが食べたいらしい。 オムライスはほんとにつくるのが簡単だからあっというまにできてしまった。 我ながらおいしそうなふっくらオムライスだ。 まずはじめに白身だけといてあとから卵黄をまぜて焼くと、かなりふっくらになるんだよな。 うーん、俺っていい奥さんになりそう。 もらってくれるやつがいないんだけどさ。 簡単な野菜サラダと一緒にテーブルに出すとやつがいそいそと椅子に座る。 家政婦させられるならこいつに食費をださせてしまえ、と俺の分も作ってある。 こいつと一緒に食事ってのも久しぶりだなーと考えながらオムライスを食べていると、 横から手がのびてきて俺のオムライスが奪われた。 みるとやつはもう自分の分をたいらげ、俺から奪って食べようとしてるらしい。 いつものことだったので取り返すのもめんどくさく、仕方なくサラダを食べた。 全て食べ終わったやつは満足げにソファで寝転がっている。 食べてすぐ横になったら牛になるんだからな。 牛になったやつを想像することで鬱憤をはらしつつ洗い物を終わらせた。 うーん。 このままだと毎日こうしてつれてこられては食事を作らされるんだろうな・・・。 冷蔵庫の中身を確認して、作りだめすることにきめた。 グラタンでも作っておけば冷凍できるし。 また台所でごそごそしはじめたのを不審に思ったのかアイツがのそりと起き上がりこっちをみた。 「また何か作るのか?」 デザートでも期待してるのか少し嬉しそうな顔。 俺の分まで食っててまだ足りないのかよ・・・。 「明日のぶんを作ってるんだよ」 そしたら明日はこないですむし。 デザートでないことにむっとしたのか途端にやつが不機嫌になった。 「明日の分は明日作ればいい。それより風呂。」 はいはい。 こいつはほんとに・・・。 風呂なんかスイッチをおせば勝手に沸いてくれるってのに。 しかし、だ。 手際のいいこの俺。 もうお風呂は沸いてるんだなー。 「もう沸いてるから入ってくれば?」 言うとうなずいたアイツは何故か俺の両うでを後ろから掴み、風呂場に連れて行かれた。 なんだなんだ。 ちゃんと掃除もしてあるぞ! ってわ、ちょ、ちょっと・・・! 風呂場につくなり服を脱がされ、抵抗空しく俺は全裸だ。 「なんだよ、なんなんだよ!」 大事なところを手で隠しつつ怒鳴るけど、かなり間抜けだ。 「勝手に帰らないように一緒に入る。」 もうほんとにこいつ訳わかんねー・・・。 結局一緒に風呂にはいり、髪まで洗わされ、腰にタオル一枚だけの格好でドライヤーまでかけてやった頃には、10時なんか過ぎていて。 またバスがない。 2時間走るって結構しんどいんだからな! しかも湯上りなのに湯冷めして風邪ひいたらどうしてくれるんだ。 心の中だけでブツブツ文句をいいながら服を着込もうとするとまた邪魔をされた。 「今度はなんだよ」 「もう寝るんだから服は着なくていいだろう」 はいはい、アンタは着なくていいでしょうよ。 でも俺はこれから寒空の下、2時間も走らないとダメなんだよ! 無視して服を着ようとすると両脇に手をいれられ、抱え上げられた。 「泊まればいいだろ」 なんでほんとこいつはこんなに偉そうなのよ? 連れて行かれる先は寝室らしい。 泊まれってことか・・・。 あのベッドで? あんなベッドもう見たくもない。 「離せよ!」 暴れれば暴れるほどきつく拘束され、結局寝室の前まで連れてこられた。 「ほんとやめてくれよ・・・」 お前が他のやつとやってたのとか思い出しちゃうんだよ。 俺じゃないやつにお前がさわって・・・。 ああ、やばい。 ほら、目から汗がでてきただろっ 目からでた汗がやつの腕におちた。 「泣いてるのか。」 少しうろたえた声が背中越しに響く。 誰が泣いてるんだよ。 暴れたから汗かいたんだよ! 俺は目からだって汗でるんだよ! 俺がこんななのにやつは容赦なく寝室のドアを開ける。 ・・・? 汗で目が滲んでいるからだろうか。 なんとなく違和感がある。 「あのベッドが気に入らなかったんだろ。これはどうだ?」 これ・・・・? ってベッドが新しくなってるじゃねえか・・・。 「泊まるな?」 なんだろ。 もしかして俺があんなベッドで寝たくないとか言ったから? だから新しいの買ったのか? こいつが? もしそうなら・・・。 そうなら嬉しい。 ほんとに馬鹿だよなーって思うけど。 泊まるな?と念をおしてきたアイツに俺はうなずいてしまった。 そして翌朝。 「他に気に入らないものは?」 目がさめるなり聞かれてもなんのことかさっぱりだ。 「ベッドの他に」 ああ、なるほど・・・。 俺が言えば買い換えるのだろうか。 前他のやつが座ってたあのソファも気に入らないのでこの際いってみるか。 「ソファ」 「わかった。捨てる。他には?」 捨てるって、そんな簡単に・・・。 他には別にないような、まだいっぱいあるような。 「ないかなー・・・?」 曖昧に答えるとやつがのしかかってきた。 「じゃあもういいな?」 なにがだ? ポカンとした顔をしてしまったのだろう。 「だから、もうお前の部屋はいらないな?」 いうなり熱烈なキスがふってきた。 やっぱりこいつのすることは訳がわからない。 俺の部屋はいらない筈がない。 「あとで荷物はとってきてやるからな。手続きもやっといてやる。」 キスの合間に言われてようやくわかった。 帰って来いって言ってるわけね・・・。 嫌だね。 そう言おうとした口はまた塞がれてしまった。 俺はどこまで流されるんだよ・・・。 そうは思うんだけど。 惚れた弱みってやつなんだろうな。 結局俺はその日からまたアイツと一緒に暮らし始めた。 横で眠っている恋人の顔をじっとみながら男は毒吐いた。 「一樹に色目を使うやつが悪い。」 そんなやつはこの愛しい恋人に嫌われてしまえばいいのだ。 だが。 そのために家を出て行かれたのでは意味がない。 男は恋人を抱き寄せてまだ残っている、恋人に色目を使う不届き者の顔を思い浮かべて思案する。 今度からは他の方法を考えなければ、と。 |