不器用な男 −1−



一枚の写真。

ひらりと、定期入れの中から零れ落ちたそれは、樹の足下に落ちた。
「あっちゃん、写真落としたよ」
「え、あ・・・?あ・・・!!見るな、樹!!」
敦彦の叫びも虚しく、樹はその写真を見てしまった。
定期入れに写真なんて、もしかして好きな子の写真?と少し不安に陥りながら恐る恐るのぞいた写真には・・・・・。

樹の友人、邑井の笑顔が写っていた・・・・・・・・。







「だから、樹、違うんだ。」
困ったように言い募る敦彦に、しかし樹は耳を貸さない。
「隠さなくてもいいのに。」
敦彦に好きな子がいるのはショックだ。
でも、隠して欲しくなかった。
折角仲直りできたのに・・・と樹が涙ぐむと敦彦が更に慌てる。
「別に隠してなんか・・・・・・!!ていうか、誤解なんだ!!」

顔を真っ赤にして写真を樹の手から奪い返した敦彦の言葉に信憑性など一ミリもない。
樹は敦彦の声など無視して、考え込んだ。
よく考えれば思い当たる節はたくさんある。

あんなに男が男を好きだと言うことを嫌がっていた敦彦が最近になって急に理解を示した。
おかげで仲直りできたのは本当に嬉しいが、怪しいことにかわりはない。
それに樹と邑井の関係をしつこく疑っていた。
あれはこういうことだったのだ。もしかしてちょっとやきもち焼いてくれたのか、なんて期待したけど
やきもち焼かれていたのは樹のほうだったというわけだ。
だから邑井といたら絡んできたし、今だって、邑井と樹が一緒にいると不機嫌そうな顔をする。

全てはそういうことだったのだ。

「あっちゃん、俺・・・応援するよ?だから隠さないで?」
「樹・・・・・・・・。」
「それとも俺は信用できないって思ってるの?」
「そんなことはない!!絶対にそんなことはないぞ!!」
「ありがとう、あっちゃん。俺、ちゃんと協力するからね」

健気に笑って見せた樹の誤解をどう解けばいいのか、敦彦は困り果ててしまった。





「だからって俺に相談しにくるなよ」
事の次第を打ち明けた敦彦に邑井は心底嫌そうな顔をした。
「仕方ないだろ。樹は一度思い込むと、なかなか、誤解が解けないというか・・・。俺が何言っても聞かないんだから。」
どんなに誤解だと言い募っても「もう、わかってるって。心配しないで」と妙な使命感に駆られていた樹を思い出して敦彦は深く溜息をついた。
「そもそもなんでお前は俺の写真なんか持ち歩いてんだよ。」
至極当然の邑井の質問に敦彦は柄にもなく頬を染めた。
それを見た邑井は数歩後ずさった。
「なんだよ・・・。お前まさか本当は俺のこと・・・・・・・・!?」
「んなわけないだろっ!!」
「じゃあ、なんで俺の写真なんか持ち歩いてんだよ。お前がそんなことしなけりゃ、元宮が勘違いすることもねぇだろ。」
もっともな意見だが、敦彦は中々口を開こうとはしない。

イラっとした邑井が怒鳴ろうとした瞬間樹が教室に入ってくる。
「あっちゃん・・・・・・・?」
敦彦の姿を見つけた樹はほんの一瞬だけ不思議そうな顔をしたがはっと気付き、赤面した。
「あ、そう言えば俺、先生に呼ばれてたかもしれない気がするような・・・・・・・・」
あからさまにおかしい言い訳をすると樹は二人から慌てて離れた。
そして邑井にこっそりと耳打ちする。
「あっちゃんて本当にイイやつだからね。」
「はぁ?」
だが樹は一仕事終えたような顔でにこにこと教室から出て行った。

「おい。」
邑井が凄みのある声をだす。
「絶対元宮の誤解を解くぞ」
今さっきまで少し楽しめそうだ、などと思っていた気持など樹の態度でふっとんだ。
これから先もあんな態度を取られたらこっちがもたねぇよ、と邑井は考えを改めた。

しかし、敦彦は肝心の『なぜ邑井の写真を持ち歩いていたか』について話そうとしない。
「おい、ふざけんなよ。俺だってこんな誤解は迷惑なんだからな!!」
強い口調で責める邑井に敦彦は渋々口を開いた。

「笑うなよ?」
「あ?」
「絶対、笑うなよ、お前!!笑ったらぶん殴るからな!!」
あまりに必死な敦彦の表情に既に笑いたくなった邑井だが、どうにか笑いを押さえて神妙に頷いて見せた。





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