降っても晴れても 後編
土曜日。
空は約束どおり真樹を迎えに真樹の家までやってきた。
満面の笑みで。
頭上に広がる真っ青な空と一緒でまさに快晴といった顔だった。
「晴れてる・・・」
真樹がぼそりとつぶやくと空の笑顔がいっそう輝く。
「すごくいい天気だよ!で、でーと日和だねっ。なんて。へへ」
ちらちらと真樹の反応をみつつ浮かれる空。
だが真樹の耳には全く入っていなかった。
今は晴れているけれど、この後のことはわからない。
真樹は空との初めての"デート"に緊張しはじめていた。
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「今日は楽しかったねー」
大きな体をくねらせて空が頬を染めながら言った。
複雑な心境で真樹は空を見つめた。
確かに楽しかった。
映画も期待以上におもしろかったし、空は約束どおり全ておごってくれた。
しゃべるとおっとりしているというかのんびりしている空だが黙ってればかなりの男前で真樹と二人で歩いていると女の子が騒いでるのだって気分がよかった。
そして何より今日は一日晴れていた。
夜ご飯まで一緒に食べての帰り道。
もう時刻は夜の10時をすぎようとしているのに空には星が光り、雲ひとつないのだ。
これから天気が崩れそうな気配など全くない。
「空・・・」
真樹はまだ悩んでいたが、確かめなければならないと思った。
もし空が・・・。
「なあに?」
空は相変わらず幸せそうに頬をそめながら微笑んでいる。
「俺まだ帰りたくない。」
「へ?」
「今日お前のとこ泊めて。明日日曜だしいいだろ?」
いつになく真剣な表情の真樹に空はとまどいつつ答えた。
「もちろんいいけど・・・。」
「じゃあ早速かえろうぜ。」
「う、うん」
真樹からお泊りのお誘いなんて・・・と喜びながらもなんとなく落ち着かない気分になった空だった。
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「ほんとなんだな、空」
真樹が深刻な顔で言った。
「う、うん。嘘じゃないよ」
こんなに真剣な顔をされるような話だっただろうかと空は戸惑っていた。
だがその直後にさらに困惑する事態になるとは流石に思わなかった。
なぜなら真樹が、
「わかった。じゃあこれから俺と一生一緒にいてくれないか。」
と爆弾を投げつけてきたのだ。
「な、なに言ってるの、真樹。冗談は・・・」
何!?プロポーズ!?混乱する空にかまわず真樹は空に詰め寄った。
「冗談なんかじゃない頼むよ。大切にするから・・・。俺にはお前が必要なんだ・・・」
せつなそうな真樹の顔。
胸がきゅっと締め付けられる。
まさかこんなことになるなんて。
空はほんとうに戸惑っていた。
こんな展開を狙って今日誘ったわけでないのだ。
真樹に構って欲しくてまわりをうろついたり、今日のことをデートだなんていったりしていたものの空は別にそういう意味で真樹を好きなわけではないと思っていた。
ただ真樹のキレイな顔がものすごく好みで。
サバサバした性格も憎めない。
そっけないところがまた追いかけたくなる不思議な魅力がある。その魅力にもうメロメロだ。
だけど空はゲイではない。
ただ真樹の親友になりたかっただけだ。一番の存在に。
だから急な告白にとまどってしまうのも仕方がなかった。
「ま、真樹。」
断らなければ。
そう思うのにせつなそうに自分を見つめてくる真樹をつき放つことなんて空にはできなかった。
真樹と恋人になれるだろうか。空はそうなった時のことを考えてみる。
真樹のことは好きだ。
だけど真樹のいうような関係になれるだろうか?
一生一緒に・・・。伴侶として・・・。
恋人になったら友達と何がかわるだろう。
(一緒に学校にいって一緒に帰るとか・・・)
全然OKだ。むしろそうしたい。
(次はデートだよな・・・・)
今日もとても楽しかった。真樹のためならバイトもがんばる。
真樹に楽しんで欲しいし、楽しい時の真樹の笑顔がみたい。
これもクリア。
(そ、そうなると次のステップは・・・、キ、キスーーーー!?)
できるだろうか。
ちらっと真樹の様子をうかがう。
うるうるとした瞳でこちらを見ている。
ぷっくりとしたかわいい唇をかみ締めながら。
(ああ、真樹は唇もかわいいっ!あんなにかみ締めたら跡がついちゃうじゃないか〜〜)
今すぐ自分の唇で甘く真樹の唇をほぐして・・・
(って僕は何を考えてるんだ!?でも、キスくらいなら・・・)
全然できちゃう。もうウェルカム。
(真樹のあのかわいい唇にキスするでしょ・・・)
その後はどうなるだろう?
空ものほほんとしてはいるが健康な男子高生。
(キスだけでおわらないよねっ!?)
妄想はもうとまらなくなってきている。
体育の時にこっそり目に焼き付けた真樹の裸を思い出す。
(真樹はやせてるけどガリガリっていうんじゃなくてなんかこう抱きしめたくなる体なんだよねっ)
あの体を押し倒して・・・
「ダメだ!ダメだよ、真樹。ぼく達男同士じゃないかっ」
「いいだろ、空。」
真樹が妖しく微笑みながら空の首に手を回して自分の方に引き寄せる。
「こんな体じゃ嫌?俺のこと欲しくない・・・?」
耳元で囁かれたら空の理性なんて吹っ飛んでしまう。
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「欲しいーーーーーーーーー!!!!」
「うわっ」
急に叫びながら抱きついてきた空を思わずよけながら真樹が唖然としている。
「あ、あれ・・・?」
妖しく空を誘惑したはずの真樹はいぶかしげに空をみている。
(ちょ、ちょっと想像しすぎちゃった)
想像というより妄想だったが。
だが、想像の結果、空はわかってしまった。
問:男同士だけど真樹と恋人になれますか?
答:ノープロブレム!!!
「大丈夫か?」
真樹がひきながら空を心配している。
だけどもう心配はご無用だ。
「大丈夫だよ。真樹一生一緒にいよう。」
珍しく男らしく空が答える。
「ほんとか!?空サンキューな!」
真樹のこぼれおちんばかりの笑顔。
晴れて恋人同士。
今日は真樹はお泊りしていく。
しかも明日は日曜日。
ちょっとくらい体に負担のあることをしたって大丈夫。
恋人が一つの部屋で夜を明かすのだ。することはひとつ。
「真樹ーーーーーーーーーー!!」
空は真樹にとびかかっていった。
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チュンチュン。
すずめが元気に鳴いている。
今日も快晴の広がるいい天気だ。
横にはキレイな少年の姿。
こんなに素晴らしい日曜の朝があるだろうか?
「まきぃ・・・」
だが空は恨めしげに真樹の寝顔をみつめた。
空は結局一睡もできずに朝を迎えてしまった。
「真樹が雨男だったんなんて・・・。俺が晴男だからなんて・・・」
寝顔も愛らしい真樹だが、ヘビの生殺しでしかなかった。
昨日飛び掛った真樹からまさかの右ストレートの反撃。
そして言われた内容というのが・・・。
「恋人なんて言ってない。お前も俺も男だろうが。きもちわりいー。」
「一生友達でいいから」
とのつめたい言葉。
真樹は生まれたときからの雨男。
生まれたその日はもちろんのこと幼稚園小学校中学校。
全てのイベント毎に雨はふった。
中学生の時に親に連れて行ってもらったカリフォルニア。
遊園地めぐりを楽しみしていた。
今までは真樹がでかけると雨ばかりでジェットコースターなどは止まってしまい生まれてから一度もそういう乗り物に乗れたことがなかった。
だからとても楽しみにしていたのだ。
だが無情にも雨はふった。
「この時期に雨が降るなんてほんとに珍しいんですよー」
ガイドの言葉に怒りさえわいた。
だから決心したのだ。この呪われた体質を克服するのだと。
そして運命の高校入学式。
雨が降らなかった。
自分の呪いの雨男パワーを凌駕するほどの晴女がいる。
その子をみつけて結婚しようと思った。
バカげているが真樹は本気だった。
だから毎週毎週女の子とでかけては当日晴れるかはもちろん今までの晴女歴を調査したのだ。
だが、ほとんど雨は降ったし、偶然晴れても今までずっと晴女というような子はいなかったのだ。
そこへ現れたのが生まれたときからの晴男、花菱 空だった。
もちろん生まれた時からずーっとイベントのときは晴れていた。
真樹の雨男パワーをこえる晴男、空。
真樹にとっては空はその為に一緒にいてほしいだけの存在だった。
「あんな紛らわしい言い方して・・・。それに・・・」
それに。
一度妄想して覚悟をきめてしまったこの心はどうすればいいのだろう?
もう心も体もウェルカム状態なのに。
ウェルカムどころかこっちからお邪魔します!状態なのに。
「まきぃぃぃぃ」
恨めしげな空の声など聞こえてもいない真樹はそれはそれは可愛い顔でお昼過ぎまで寝つづけた。