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焔火変




それから数日は裏の口入れもなく、有能な妹が切り回してくれたおかげで、表稼業も滞らなかった。
江戸時代の両国というのは両国橋の東西はむろん、回向院から柳橋、東日本橋周辺に及ぶ広範囲を指していた。
もとは湿地だったが、振袖火事で吉原が消失した際に、堀を切り出したときの土とゴミを集めて埋め立てられたのだ。蠅や蚊が飛び交う土地に両国橋がかけられ、道は広く整備され、武家屋敷が移動してきて、現在では華やぎをみせるに至っている。
雑多な人々が行き交い、武士も町人も坊主も、茶店や大道芸などに足を止める。
多様な店が並ぶその場所に、もちろん口入れ屋はなくてはならない。
「手内職で簡単なもの、ありません?」
「読み書きできるんで、そいつで稼ぎたいんですが」
稼ぎのいい商売の口入れが入った時にはてんやわんやになり、あっというまに終わって土煙だけが残るなんていうこともある。江戸の人間もアルバイトに忙しいのだ。
そんなごたごたした日常のなか、体調の回復した八神庵宛に文が届いた。
差出人の名は書かれていない。届けた子も「しらないおじちゃん」としか記憶していない。
文には簡潔な文章だけが書かれていた。

『明日、八神庵殿に直に口入れを願いたく候
一夜を忘れた男』

忘れようにも記憶に鮮明すぎる。
こんなことをしてくるのはあの男、草薙京しかいない。
武士らしい文章はともかく、破落戸みたいな真似をしてくるとはふざけている。
「あんな男が律儀に約束を守るわけもないとは思ったがな…」
正面から脅しをかけてくるような考えなしとは予測しなかっただけだ。
ここは八神屋。暗殺斡旋稼業を営むからには相応の腕利きが揃っている。
その中にあって名目だけでなく、実力でも彼等のトップは八神庵。
脅迫者を生かして帰すつもりなど、毛頭なかった。



翌日。
客人が到着した知らせを受けた庵は、客間に通すようにことづけた。
妹が茶を持っていくのを見て「茶を出す必要はない」といいかけたが、夜目にも京の顔だちは凛々しかったのを考えると、年頃の娘がはしゃぐのも無理はないと思われた。
からりと障子を開けると、自分が座るべき上座には、もう客人がのさばっていた。傍らには風呂敷包みがある。
「おう、座れよ」
「…貴様に許しを貰わずとも座るに決まっている。ここは俺の店だ」
「いいのかよ、そんなこと言って」
「?」
落ち着いた縹色と折り目の整った紺袴姿で正座し、背筋もぴしりと通っている。
立った襟が清潔そうな印象を強く残す、年齢に関係なく女性が好みそうな甘やかな笑顔。意思の強そうな太い眉と、まっすぐに相手を見る黒い瞳。
昨日の文の筆運びを思わせる京の姿は、先日会った放蕩男と見間違えようのない顔と声をしているのに、印象がずいぶん違う。いかにも働き盛りの侍、というべきだろう。
武士の作法にのっとって、二本の刀はおとなしく鞘に収まって右側に抜き置かれていた。
やはり冗談ではなく、正真正銘の武士なのだ。
気勢を殺がれたようで居心地悪いが、庵は下座に座り、どういうつもりだと問う。
「土下座で詫びをいれにきたわけでもあるまい」
そのつもりなら、京は最初から下座に座るはずだ。
「なんで俺がおまえに頭下げんの。俺、なんかしたっけ?」
「白々しくよく言う…!」
庵が怒りを覚える様に、心底おかしそうな笑みを顔に出して、そんな京を見て庵はさらに腹をたてる。
罵倒を続ける前に、縹に入れられた日輪紋が目に入った。
その意匠は珍しいものだったので、庵もどこかに記憶していたのだ。
「旗本草薙家一千石の日輪紋…旗本!?」
両国界隈にも武士は往来しているとはいえ、旗本は武家屋敷から出る事も少なければ、一人歩きすることも稀だ。なにせ彼等は武士の中でも将軍に直接謁見できる、特権階級の区切りみたいなものである。よもやまさか、草薙京が特権階級の人間とは、幕府の威信も地に落ちたと考えるべきだろうか。
例外はあるが、家禄が二百石未満が御家人、二百石以上一万石未満が旗本、一万石以上が大名というのが目安だ。
旗本や御家人がいきすぎた真似をしないように目を光らせるのが目付役だが、これも賄賂で言いくるめられるような世の中だ。
したい放題な旗本を前に、ただの口入れ屋が口答えを許されるはずもなく、庵はしおらしく頭を下げた。そういえば、妹が直接茶を運んできたのは京が美男だからかと思っていたが、身分ある者への礼とすれば当然のことだ。
歯がきしむほど悔しかったが、商売柄、忍耐は身についている。
「その…お旗本草薙様が夜釣りなど、していていいのですか」
「なにをいまさら敬語使ってんだ。頭上げて普通に話せよ。
でも思い出していいのか? おまえは随分高いもの払ったんじゃなかったのか」
くすくす。
京がからかっているのは一目瞭然だ。
京を睨む目に、さらに強い感情が乗せられる。
「すべてを忘れたなら、この八神屋へ足を運ぶ理由はないはずでしょう」
「はは。それもそうだな。フリなんて器用な真似はするもんじゃないなあ。
両国八神屋へは一度来てみたかったのは本当だが」
庵は咳払いして、話を改める。
声だけは平静だが、眉間に深く刻んだ皺は消えない。
「今日の御用件をお伺いしましょう」
「敬語はやめろって」
「……、何の用で店に来た」
「なにってここは口入れ屋だろ。仕事世話してほしいんだ」
至極当然、といった感じで京は返した。
新手のひやかしではないかと勘ぐる。
「悪いが、旗本がするような仕事は扱っていない」
「八神屋の側小姓ってのはどうだ?
昼の疲れを夜やさし〜く癒す、俺向きだと思うぜ」
「女衒のほうが向いてるだろう」
庵の嫌味にも京はまったく顔色を変えない。
なるほど、このくらいふてぶてしくないと、武士社会では生き残れないのかと、皮肉をまじえて妙な感心の仕方をする庵だった。
京が、脇に置いていた風呂敷包みを膝に載せた。
菓子折りのはずはないやんわりした包みの内側を、庵は大体予想済みだ。
「話の前に、こいつを返しておく」
「…………」
「洗濯して、染み抜きもしてもらったんだけど、どうしても落ちなくてさ」
庵の流した血痕が、薄くはあるものの裏地に点々としている。
緋に混じって目立ちこそしなかったが、それを着て再び闇夜を歩く気分にはなれなかった。
「…で、誰に洗濯してもらったって?」
「近所の洗濯ババア」
「〜〜〜〜!」
わざとやってるだろうと言いたくなる京の言い方に、庵のこめかみには青筋がぴくつく。
だがこれはどうにかこらえた。洗濯した者がよからぬ噂を流したとしても、それは京のことであって、京が口外していなければ庵の名前が出ることはないだろう。
「小袖の一枚くらい、俺が仕立てて返すから、こいつ、俺にくれない?」
「何を考えてる」
「だって、庵のあそこの血と、俺のが混ざった着物だぜ。記念にとっておきたい」
「捨てる! いますぐ燃やす!!」
さすがに今度は自制できなかった。全身の産毛が逆立ったのが、自分でもわかる。
本当にやりかねない勢いの庵に、京は慌てて押し止め、妥協した。
「待て! じゃあ、そいつは燃やさない変わりに庵がしまっておく。燃やすっていうなら俺がもらうからな」
「俺の着物を、焼こうがどうしようが俺の勝手だろう」
「だったらこいつの中身ごと屋敷に持ち帰るぞ」
あの晩に庵が着ていた、黒い打掛が肩からかけられる。
京の腕に、打掛ごと庵は身体を抱きとめられた。
耳元に、低く熱い男の声が、秘密めかして寄せられる。
「このまま嫁に来るかよ。三三九度の盃もないけど、おまえとこの世で結ばれるなら、どんなことでもしてやれるぜ」
一瞬で、庵の全身が架空の劫火に焙られた。
庵を抱く腕に、溶け落ちそうだ。
また、からかっているのだろうか。女と間違えて口説いているのか。
庵の理性はそう考えているのに、脳の奥の一部が心地よく痺れて、唇がかすかにふるえて。
喉が熱くて、なにも言えない。
疑心と陶酔とが互いを激しく打ち消し合い、また高まり、混乱のあまりに言葉がみつからない。 しばし黙りこんだ庵をどう思ったか、京は、顔をずらし、腕をはずした。
「八神屋が女だったら、絶対にそう言ってたのにな。男じゃ嫁は無理だな」
ははは、と笑った。
離れたぬくもりを心のどこかで惜しみ、庵はそんな自分を否定した。深く息を吸い込んで、自分を落ち着かせるが、すぐに京の言葉に動揺した自分に腹を立てた。
肩に残された打掛をしゅらりと落とし、座に座り直す。
「八神屋には怨恨の相手がいるそうだな」
「…お上には届け出ていないが、先祖が敵としたものは一族すべての敵だ。見つかれば殺す」
「かたきについてはどれくらい知ってるんだ」
「言っても信じないだろうが、炎を使う。俺と同じようにな」
庵はその手に、藍の汁よりも青く澄んだ炎を呼び出した。
小心な者なら鬼の仕業と思い込みかねないその技を、容易く京の眼前に導く。
京は驚くでも怯えるでもなく、心底嬉しそうに、応えた。
己の紅蓮の炎で。
「同じじゃないだろ。こんな、落ち日よりも真っ赤な色のはずだぜ」
空中に並べられた二本の腕と、二色の炎。
互いに共鳴しあって、平素よりも華麗に燃え上がっている。
庵の瞳の奥にその色は焼きついた。
「草薙京………。
貴様が、八神の…俺の敵なのか!」
「そうだ。俺を殺すか?」
「殺さいでか!」
喧嘩腰ですっくと立ち上がる。
庵を襲った混乱はもう跡形もない。ここにいるのは、彼の、彼の一族の敵。
選ぶべき行動はひとつ。
爛々と京を睨む庵の双瞳に、京はなおも満足げな笑みを向けた。
「いいぜ。今、すぐにやるかい?」



八神屋の庭は広くない。
色づいた銀杏、葉を染めた梅。さらに青い紅葉(モミジ)、満点星(ドウダン)などの低木とニアミスを続けながら、色違いの炎が飛び交った。
存分に炎を繰り出すにはどうしても障害物が多いので、双方位置を入れ替えながらの手技が中心になる。
京の拳は、重さもスピードも十分にあり、流派にとらわれない変則的なものが多い。
徒手はすべて戦国期の古武術がベースとなっていて、早期に中国拳法を組み入れたのが空手、究極の徒手を目指した合気、古武術から柔術だけを洗練した柔道、という具合になる。
京は空手の掴みを一切使わず、琉球拳法のように打ち殴る。徒手の各流派が「力」を重視した技のバリエーションが少ないのに比べ、彼は自分に合った技を、作り出そうとしているのかもしれない。
旗本には似合わない喧嘩で鍛えたような堅く重い拳は、ほとんどの場合正拳や表拳で、裏手や抜手は滅多に来ない。そのかわり、蹴りはよく大振りと見せかけて、急に足下を狙ってきた。打撃に長じる空手技との共通点も多い。
一方の庵もまた、どこにも属さない流派だ。
中国拳法を思わせる鋭く打ち出す拳で、相手の攻撃どころか防御も突破しようとする、攻撃は最大の防御というのが庵の方針。指先から掌底への攻撃有効部位がもっとも広い熊掌手(くましょうで)を中心に、僅差な腕先のフェイントを効かせる。
殺人を禁忌としない庵は、常にもっとも効果のあるポイントをついて狙い、自分への衝撃力を弱める頭脳派でもあった。
切りつけるような鋭い手刀が飛び、京は不本意ながら身を引いて避けた。
距離が開いて間合いをとれたのを幸いに、その手に確かな熱をもった鬼火を呼び込んだ。
舞い上がる蒼炎が、京をロック・オン。
「死ねッ」
「甘ぇ!」
炎が放たれるのと同時に、京も紅蓮の炎を投げつけた。
空気を焦がすふたつの「色」は絡み合い、互いに食らいあおうとして対消滅する。
最後まで見届けずに、庵は次のモーションに入っていた。
リーチの長さをいかし、敵の懐にとびこんで打ち込む。
京は上体を振って避けるが、耳を掠める掌の衝撃波で鼓膜が破れないのが不思議なほどだ。
感心しながらも、小さな隙を一瞬で見抜く。
「重心、移動しきれてねえぞ!」
重心が人体正中線よりも、庵が踏み出した右足と一緒に前方へずれた須臾の間に、京は庵の目を狙って正拳を放つ。
人間は眼前への攻撃に、本能的に怯む。武道家はそれに対し、訓練で馴らして対処する。
「攻撃を先読みする」ということは、こうした避けきれない急所への攻撃を知りながら、ダメージを軽減させるのが最大の目的だ。どんな達人でも人間の反射神経には限度がある。
将棋と同じで、何手相手の先を読み、スムーズに詰ませられるかといった勝利の計算ができなければ、二人とも己の流派を背負ってなどいられない。
だがその目突き自体が囮であり、庵が間発入れず京の拳を払い落とすと同時に、ほとんど体重もかかっていない軽い踵が、庵の丹田(たんでん)に入っていた。
「くっ」
重心が前方にあって腰が落ちていたところを押されたため、庵は膝ごとバランスを崩し、京の追撃の一手で簡単に地面へ転がる。
庵ももちろんそのままではいない。
京の踵がくることを知った瞬間、その後の流れを予測し、蹴りや組み技にもちこまれないよう、くるりと後方一回転で間合いを遠ざけ、すぐに立ち上がる。
最初から技をかける気がなかった京は、庵の流れるような動作を眺めて言った。
「技出すときの重心位置にもっと気を配れよ。
おまえ、ただでさえ腰の位置高いんだから」
「人の事を心配するとは、大した余裕だな。
そのことを死んでから後悔するがいい!」
閨房の密事を想起させる掠れ声で言われて、青炎を孕ませた拳を、上段から振り下ろす。
半歩も退かずに、それこそわざと余裕を見せつけるように京は避けて見せた。湿って黒かったはずの彼の足下の地面が、火に焙られて白茶けている。
腕を戻すような無駄な時間を惜しんで、後方にあった足が弧を描いて飛ぶ。
膝には入らなかったが、爪先が掠めた衝撃波に、京はち、と舌打ちした。
当たっていないのに、痺れを匂わす攻撃。
直撃していたら当分立ち上がれなかったろう。
庵は薙ぐような動作で京の頭へと打ちこむ。
舞と見間違えるほど軽やかに、しかし空気を裂く勢いで。
利き足が後方に下がるのを忌避して右へ身を躱すことを読み、半身になりかけた背めがけて、小回りの中段蹴りを放った。
間一髪京のガードは間に合ったものの、蹴りによる重心点への攻撃が身体をよろめかせ、あっさり後退して構えに戻った。
追撃がこないだけの距離を肌で測るのは、身についた習性だ。
「俺の番だな…。覚悟はいいな、庵?」
黒い瞳が、まっすぐ庵の目をとらえ、楽しそうに細められた。
庵がすぐに体勢を整えたのを見計らって、今度は京が攻め立てる。
庵が裾を帯に手挟んで露になった脚に目線をはりつけていた時とは人が変わったような猛攻だ。
くりだす拳を受けただけで、庵の腕に痺れが走る。筋を傷めることはなかったが、同じ箇所に拳を受けないよう、慎重になった。
襲い来る津波のごときラッシュで庵は防戦一方になり、彼が蹴りに変えようとした一瞬に肘で鎖骨を狙ったものの、身を沈めて躱されてしまう。
京の拳が鮮やかな赤い炎を纏って正面から腹を狙ってきた。
指摘された重心を水平移動させ、後方へ下がると見せかけて、右側へ避けるフェイント。
だが京もすぐに腕を引き戻し、シャープなローキックへと切り替える。
庵の意識が僅かに下半身へ移る事を計った戦略だ。
「あぐっ!」
筋肉に鎧われたはずの庵の胸に、鋭い一撃が埋め込まれた。
乳房の腋下よりの部分、雁下(がんか)の急所を京は見事に突いていた。
殺法の急所のなかでも即死に繋がる危険なものだ。呼吸器官の筋肉神経と肋骨神経がダメージを受けて麻痺し、心筋梗塞に似た状態を引き起こす。さらにそれに繋がる上腕部の神経も同様、腕も麻痺するので戦闘中では致命的だ。
胸の内部からの圧迫感に庵は膝を折った。
健康な心臓は停止しなかったものの不自由さを訴え、一気に冷汗となって吹き出した。
「おまえも雁下のツボくらい知ってるだろ。
そこを打たれた時点でおまえは死んだも同然だ」
「…ウ…ッ…」
身動きできないことを指摘される。
それでも庵は襲いくる恐怖にも似た胸の苦しみに耐え、京を睨む。
自由な左手を爪がくいこむほど握りしめ、額を汗が伝うにまかせて、震える膝で立ち上がろうとした。
「無理すんな! 休んでりゃおさまるんだから」
ふらつく庵を支えようと、京が手をのばす。
そのまま庵は彼の腕のなかへ倒れこみ…、腕におさまる手前で、抱き合う形に手をさしのばした。ふいをつかれてか、京はしなやかにのばされる手を振り落としもしない。
京の肩に鋭く落とされた手刀の小指が、肩の急所に打ち込まれる。
「あ?」
手刀が地面に対して垂直に向くように捻りを加えると、瞬間的に左右の肺圧バランスが崩れて、不随意な生体反応によって京はあっけなく地面に尻餅をついていた。その上に庵が倒れかかる。
相手の力を利用する合気のなかでは珍しい、みずから技をかけるものだ。
ツボ自体は難しい位置でもないが、かけ方にコツがある。
先刻自分が言ったばかりのことをツバメのように鮮やかに返された小気味よさに、京は肩を震わせて負けを認めた。いや、すすんで認めたい気分になった。
「…合気も使えるとはな…
今日は、油断した俺の負けだな」
明日などあるもんかと言い返してやりたいのだが、まともに口のきける状態ではない。それを見越した京がツボをいくつか押してきたが、すぐに回復するわけでもない。
苦しさに京から身体を引きはがせない庵を腕にして、彼は庵だけに聞こえるよう、耳元で切な気に囁いた。
「おまえとこの世で結ばれるなら…」
苦しさを圧して京の表情を探ろうとしたが、闘いに乱れた髪に隠れて垣間見ることは不可能だった。

脂汗で身体を濡らした庵を支えて八神屋の縁側に上がり、人を呼んで布団を敷くように指示し、京は勝手知ったる他家の畳を踏んでその場所まで連れていった。
一時的な症状はかなり落ち着いていたが、まだぐたりとして力が入りきらない。
かけつけた庵の妹が、心配そうに水差しを枕元に置く。彼女はまだ京が一族の宿敵と知らない。
だがいずれは知れ渡る。
「草薙様には愚兄が御迷惑をおかけしまして…」
「八神屋に迷惑をかけたのは俺だ。謝ることはない。
しばらくおとなしく寝ていれば治るから、医者の必要はないからな」
かしこまる彼女に庵は眉をしかめたが、なにも言わなかった。
居続けて兄の様子をみるそぶりの彼女が、無言で「他人はもう帰れ」と言っていたが、京は庵の頭髪に手をからめて、やさしく梳きながら小声で話した。
「口入れのことだけど、もし口利きしてくれるなら両国四ツ目屋に来てくれ。昼ならいるから」
「一千石なら、働かずとも食っていけるだろう…」
「ジジイ連中の機嫌伺いするのと庵を眺めてるのじゃあ、秤は庵に傾きっぱなしだぜ、傾城め」
「口説いてるつもりか、馬鹿が」
「待ってるぜ」
言い置いて、京は帰宅することを告げた。
二本の刀は先程の部屋に不用心にも無造作に置かれたきりなので、一度取りに戻るのだろう。
両国の店には通じている庵だが、四ツ目屋なんて聞いた覚えがない。
口入れ屋としては少し気になる。
動けるようになったら調べてみようか…と考えていた。




NEXT・‥…→四ツ目変



旗本…そういえば大名や旗本は、表向き吉原通いは禁止されてますが、無視されてます。旗本には領地を持っている者もいますが、いつでも江戸城へかけつけられるように旗本屋敷で暮らします。武士の給料は米ですが金がものいう世の中なので、米両替専門である札差で金にかえてもらいます。このへんで米問屋と札差が賄賂で仲良くなるのはお約束です(笑)
徒手…つまり素手。武器なしで闘うことです。現代の京・庵とは技も動きも違ってるはず(と誤魔化す)ということで、いろんな流派をミックスしてみました…?
雁下…とっても危険な急所なので、真似したらイケマセン。丹田もです。
合気…書いてる本人もよくわかってませんが、転倒死角というそうです。
傾城 …美女のことですが、江戸時代には美人で床上手な娼妓のこともいいます。




WRITTEN BY 姉崎桂馬
さみしかったのでバトル(笑)
武術は常に、新しく創造されたり他流派を吸収したり途絶したりするものなので、おそらくKOFの彼らとは違う動きである…という無理矢理こじつけデシタ。
クンフーというと歴史ありそうに見えますが、現在の形になったのは割と最近(といっても100年前くらい?)のようです。人間は進化を怠らない生き物なんですね。






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