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永遠の太陽、不滅の月1




ある兄弟がいた。
どちらも神である。
兄は黒く美しいキョウ、弟は白い異形のイオリ。
2人の他にも兄弟はいたが、彼ら2人の関係は、そう、特別だった。
彼らは地位をめぐって、もう幾年月も争い続けたのだった。
夜と戦士を守護し、生と死を与え、正義を執行する気高いキョウは、最初に世界を創り、最初に太陽として輝いた。強い者のみを住人として認めたキョウは、巨人を住まわせた。
強さを好むキョウは、さらにジャガーや豹も放った。
それらはキョウの眷属で、彼が世界を守る限り巨人達を襲うこともなく、誇り高く大地を闊歩する。ときにはキョウも黒いジャガーに変じて彼らを率いて野を駆け、遊び回った。
その姿は自信で満たされ、神の名に相応しい。
一方で、神としての義務も中途半端に、のんびり遊興の日々を過ごしているようにも見受けられる。
大地だけを与えて、自分は安穏と至高神の座で供物を貪るだけのキョウを、白い蛇は見ていた。美しい青年の姿をしたキョウと違い、イオリは翼をはやした蛇であったが、このころはまだ兄といくらかでも似ていると信じていた。そして、美しい兄を誇りに思ってもいた。
「イオリは俺のことが好きか?」
「ああ。大きい兄も弟も」
「俺はカッコいいか?」
「とても。俺の兄は美しい太陽だと自慢できる」
「そう言わない奴は、この槍で落としてやるさ」
愛用の投槍機と槍でイオリを狙う仕種をすると、まだキョウに対抗できるほど十分に成長していないイオリは、寒気を覚えた。
しかしキョウはまったく仕事をしそうになく、怠惰な兄と比べられるのは、イオリにとって次第に苦行になりつつあった。
そもそも、世界を創ることを主張したのはイオリであった。神々のうちでも最も強い4者でそれをなすべきだと。だが、意見はすぐにわかれ、赤い兄と青い弟はあまり積極的でなく、黒いキョウは自分一人でやりたがった。
世界に太陽を創ることになったときも、キョウは半ばもぎとるように、その仕事をとった。
彼にはそれが楽にできるだけの能力があり、ゆえにイオリは力に裏打ちされる強引さにも惹かれていた。
イオリが積極的だった世界の創造をとりあげられたうえに、「あの世界はキョウのおもちゃ箱だ」などと言われるのを黙っていられるイオリではない。
兄を好きであるからこそ、恐ろしく、彼の行状に我慢できない。
蛇の身体をくねらせて、キョウを祀る神殿へと行き、ついに諌言する。
「キョウ、巨人達に知恵を与えないと、彼らは畑で耕すこともしないぞ」
「いーじゃん。食い物なんか、俺がいくらでも与えてやるさ。命とひきかえにな」
「わざと、神に祈らせているのではなかろうな?」
「いけないか? あいつらを創ったのは俺だ」
たりないものはまだまだあるけどな、と皮肉に笑う彼の別名は、イツトリ…黒曜石のナイフ。生け贄の儀式のためのナイフは、彼が最も愛する黒曜石だった。
生け贄欲しさに巨人を飼っているときいて、彼の傲慢さにカッと頭に血がのぼる。
「キョウ! おまえはこの世界の創造主であり太陽なんだぞ!
神には弱者を救う使命があるはずではないのか」
「巨人達はみんな勇気ある狩人だし戦士だぜ。
だから、戦士の守神である俺に祈るのは間違っちゃいねーよ。
イオリこそ、俺がなんの神だか忘れたんじゃないだろうな」
黒い瞳に宿る狩る者の光。
底光りする色に、だがまだ若く経験の浅いイオリはなにも気づかなかった。
業をにやしたイオリは、白い獣に姿を変え、キョウの喉笛に噛みつく。
あたたかい生命の波動が、キョウの身体から去っていく。
キョウは笑っていた。
「イオリ…」
消える間際、イオリの鱗をあたたかいものが撫でていく。
喉を絞めるような。
無論、2人に死はない。
急激に波動を弱めたキョウは、これから数百年の眠りにつくが、いずれはまた目覚める。
だが、太陽が陰ったことで、大地には混乱が訪れた。
それまでは強い太陽を怖れて細々と暮らしていた豹達が、巨人を餌にしはじめたのだ。
武器とよべるものもなく、身を守る知恵もない彼らは、あっというまに飢えた豹達の餌食となり、キョウの創造したものすべては滅びていった。
イオリはそれを望んでいたわけではない。
むしろ彼らを救うつもりでいたのに。
「………なんてことだ」
その結末に、イオリは身を堅くして見入っているしかない。
太陽たるキョウが消えれば、遅かれ早かれ世界は滅亡するのだ。そのことが、イオリにもわかった。イオリの心からも、太陽が消えてしまったように寒い…
否、兄はもう慕う対象でないのだから、自分が悲しむべきはこの終末にたいしてだと、イオリは自分に言い聞かせた。
後味の悪さに自分を苛む。
このことを忘れないために、身に刻んでおくのがいい。
イツトリの残したナイフの鋭い切っ先を耳に当て、突き通す。
痛みに、目から涙が落ちた。




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WRITTEN BY 姉崎桂馬






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