セントラルの中央司令部のある一室…
「将軍」と呼ばれる面々が集まり、なにやら会議を開いていた。
だが、この会議は非公式に行われている。
ごく一部の者しか、この会議の存在も知られていない。
「さて、今度の特別会議の件だが…」
「誰か推挙する者はいるかね?」
椅子に座った初老の将軍が、一枚の写真を取り出し机の上にすべるように置いた。
「今度はこの黒猫はどうかね…?中々優秀なネコだそうだよ。」
「ほう…これはこれは…」
残りの将軍達が、皆意味ありげな笑みを浮かべ、その写真を見つめていた。
が、ある一人がその写真を手に取り、少し顔を曇らせた。
「これはただのネコじゃないですぞ?恐らく黒豹にもなりかねん。」
「充分に気をつけねばなりませんな。」
全員が頷き、緩んでいた顔を引き締まらせる。
「将軍」と呼ばれるだけあって、気持ちの切り替えが素早い。
「では今回はこの者を参加させると言う事で…」
「いや、もう一人いるのだが…」
さっと差し出された二枚の写真。
一枚には人物が二人、もう一枚にはその内の一人が大きく写っていた。
「おや、随分子供なんですね…」
「見かけはね。中身はしっかりとした大人ですよ。充分ね…」
さも意味ありげににやりと笑い、深々と椅子に座る「将軍」。
「だが、この者はあちこちに旅に出ていると聞きましたが?」
「その辺は大丈夫。しかるべき手は打ってあります。」
「ではこの少年は君に任せよう。」
「将軍」の一人がその写真を受け取り、胸のポケットにしまい込んだ。
「ではいつものように…」
全員が椅子から立ち上がり、会議室を後にする。
持っていた写真は破かれ、ゴミ箱へと捨てられた。
はらりと落ちた紙片に、吸い込まれそうな美しい漆黒の瞳が写っていた。
「大佐〜、大佐〜〜」
天気のいい昼下がりの午後、ホークアイ中尉がロイを探していた。
昼食を取ると言って食堂に行ったきり、昼休みもとっくに終わっていたが、一向に戻ってこない。
どうせまたどこかで昼寝でもしているのだろうと、仕方なく探しに出たのだ。
廊下を歩いていると、向こう方ハボック少尉が咥えタバコでやってきた。
「ハボック少尉!!」
「げっ、中尉!すみません、タバコすぐ消します。」
東方司令部内は禁煙だった。タバコを吸わないロイが、指定場所以外は全館禁煙にしたのだ。
だが守らないものは沢山いて…ハボックもまたその一人だ。
ホークアイ中尉は見つければすぐにタバコを取り上げるが、ロイは禁止した張本人だというのに、
ハボックが目の前でタバコを吸っても何も咎めはしなかった。
そんな事をいちいち咎めていたら、自分も色々ボロが出ると思っての事だろう…
「今は見逃してあげるから、一緒に大佐を探してくれない?昼休みが終わったって言うのに
執務室にいないのよ。」
「あ〜あ、いつもの癖が出たんっすね。いいっすよ。大体行きそうな所は分かりますから。」
じゃ、お願いね、と言って、ホークアイ中尉はハボックの横を通り過ぎていく。
ハボックは頭を掻きながら、ロイが隠れていそうな所を思い浮かべていた。
図書室…あそこはさっき掃除のおばちゃんがいたな…俺も昼寝したかったのに追い出された。
仮眠室…で寝てたら中尉に見つかるか…
色々考え、ある場所が浮かんできた。
司令部裏のちょっと小高い丘の上。
上まで行かないと向こう側が見えず、そのちょっと先に大きな木立があり、周りにも見つかりにくく、
昼寝にちょうどいい場所なのだ。
「やっぱりいた…」
木立の葉が日光をいい具合に遮り、その下で眠っているロイはさも気持ちよさそうだった
腕を頭の下に組み、あまり見せた事のない無防備な寝姿…
「全く…無防備にも程がありますって…」
体の奥から疼いてくる欲望を押さえ込み、靴の先でロイの横腹を軽く蹴り上げた。
「大佐!起きてくださいよ。昼休みはとっくに終わってますよ。」
「ん…んん…?」
大きく伸びをして、その眼を開ける。
美しい漆黒の瞳がハボックを映し出した。
吸い込まれそうな美しい瞳…
「何だ…お前か。よかった。もう少し寝かせろ。」
「駄目っすよ、中尉に言われて探しに来たんですから。」
ホークアイ中尉の名前を出されて、ロイは諦め、体を起こす。
大きな欠伸をして眼をこすり、ふと脇腹の痛みに気がついた。
「おい…」
「何すか…?」
「起こす時は私は上官だと言う事を念頭において起こせ。」
「そうでしたっけ…?」
くすくす笑いながら、ハボックが手を指し伸ばす。
その手を何の躊躇も無く取り、ロイはハボックに引き上げられるように立ち上がった。
そのまま自分のほうに引き寄せ、腰を掴み頭を押さえて唇を奪う。
「んっぐ、んんっ!!」
いきなりの事で焦りながらも、腕をばたつかせてハボックの腕から逃げようともがいている。
ハボックは気にせず歯を食いしばって抵抗しているロイの歯列を割って、口内に舌を割り込ませた。
逃げようとするロイの舌を追いかけ、絡め取ると貪るように吸い付いた。
長く深く…その行為は続いていく…
ようやく開放すると、ロイはいきなりハボックを殴りつけた。
「って〜!何すんですかっ!」
「それは私のセリフだ!何なんだいきなり!」
ハボックは殴られた頬をさすりながら、にっこり笑い、上官でもあるロイの頭をポンと叩いた。
「眼、覚めたでしょ?こうでもしなきゃあんたはまた寝ちゃいそうですからね。」
上司を上司とも思わないような言動を本来なら咎めなければいけないのだが、
ハボックの雰囲気がそうさせているのか、この生意気な部下を怒る気にはなれない。
むしろ親近感を覚え、ロイはこのハボックと言う男をかなり信頼していた。
「仕方ない…仕事に戻るか。中尉に怒られるだろうな…」
一目で嫌そうに見える表情から、ハボックはロイが相当書類を貯めているんだなぁと察していた。
ご愁傷様です…大佐…
今日は終わるまで帰してもらえないでしょうね…
丘を下っていくロイをみながら、このほのぼのとした空気をハボックは心から楽しんでいた。
大きな事件らしいものもここ最近は起きず、東方司令部全体が穏やかな雰囲気で包まれていた。
ある一通の手紙がロイの元に届くまでは…
To be continues.
今回は…いえ、今回もロイたん総受けです(笑)
魔の手が徐々に忍び寄るロイたん…
さぁ、逃げられるだろうか!?