ゲームを征する者 1
「東方司令部大佐以下の全軍人は、夜9時に中央広場に集合せよ」 司令部中にこんな伝達が回っていた。 皆口々に噂をする… 『スカーの件があるのに一体なんで?』 『何でもマスタング大佐が何かやらかしたみたいだぞ?』 『処分されるって噂だぜ?』 『公開処刑でもする気か?』 『まさか!あの人はあれでも国家錬金術師で優秀な方だぞ?』 スカーがここ東地区に出没した事で、軍上層部は早々に中央に帰りたがっている。 大総統、ブラッドレイもすでに帰り支度をしていた。 そんな中、なんだってこんな命令が出回っているんだろう…? 皆、訳も分からず、とにかく命令だからと夜9時に中央広場へと続々と集まってきた。 地方の司令部とはいえ全員が揃うとかなりの数になる。 大勢の軍人の中に、ロイの直属の部下達も集まっていた。 「全く…なんだってこんな時間に集めるんすかね…?」 「なにやらどでかい事でもするんでしょうか…?」 「僕は早く帰りたいです…」 「あれ?ホークアイ中尉は?」 「あぁ、なんか急用ができて今回は来れないそうだ。ちゃんと上の人に断ってたよ?」 そういうことはしっかりしている人だから… ハボック少尉のように無断欠勤はしませんよ こんな穏やかな会話が交わされていた。 他の所でも似たような会話が聞こえてくる。 一体なんだって言うのか? さっさと終わらせてくれよ… 不安と不満が大きくなり、収拾がつかなくなってきた頃、壇上に1つの影が現れた。 「皆の者!集まったようだね!」 キング・ブラッドレイ大総統だ。 その姿を見ただけでそこにいたすべての者の口がさっと黙り込んだ。 この国の最高権力者。 その人がこんな田舎の地区で何をやろうとしているのか… 「こんな時間に集まってもらって恐縮だ。実は、あるゲームをしようと思ってね。」 ゲーム!? その言葉を聞いた途端、ざわざわと騒ぎ出し、皆不満の表情を見せていた。 たかがゲームをする為にこんな時間に全員を呼び出したのか?? 「ただのゲームではない。ちゃんと商品も用意しているよ。」 右手をさっと上げると、壇上にもう一つの影が現れた。 「な!?大佐!?」 ハボックが声を上げて驚く。 まさか!?噂は本当なのか? 結晶の錬金術師、マルコーの居場所を知ってて報告しなかったその処分を受けるって… 「商品はこの男だ。」 ブラッドレイがロイの顎をくいっと持ち上げた。 顔のラインを指でなぞっていく。 ロイはじっと耐えながらも苦悩の表情をちらつかせた。 その姿を見ただけで、広場にいた大勢の者達が喉を鳴らし、前を押さえる者までいた。 「今から夜が明けるまでの間、この男を好きにして良いぞ。」 「階級はその間ないものとする。階級のない下士官でもこやつを犯すチャンスだ。」 「ただし、殺したり、再起不能の怪我を負わせるような事をした者は裁判なしでその場で射殺する。」 ブラッドレイはロイの右手を掴み、空に高く掲げさせた。 その手には、ロイの象徴でもある発火布の手袋がはめられていた。 「大佐にはこの発火布をつけさせている。勿論、その焔で殺しても良いと許可している。」 「それぐらいのペナルティがあったほうが、ゲームは面白いからね。」 要するに… ロイを犯す絶好のチャンスだが、逆に殺されかねないと言う死のゲーム… ロイはそんな危険なゲームに参加する馬鹿がいるのかと高をくくっていた… だが、中央広場に集まった男達の目は、欲情に熟れていた。 絶対手の届かなかった高嶺の花が、今、手折る事が出来るかもしれない… 東方司令部に属する者なら、一度は描いた欲望… ロイ・マスタングを犯す… 今まさにその願いが叶おうとしているのだった… 「ゲームに参加するものは受付でこの首輪をつけなければならん。」 ブラッドレイはロイの顎を更に上に上げさせ、首にはめられている玉虫色に光る首輪を見せた。 「これは、紫外線に当たると溶けてしまう物質で出来ている。」 「夜が明けてその首輪が外れればゲームオーバーだ。また、夜中でも何らかで外れればその場で失格だ。」 「准将以上の者が絶えず巡回するので、失格者は速やかに東方司令部を出る事。よいな。」 「ハーイ!質問!!」 群衆の中から片手をあげてとぼけた声を発したのは、ロイの直属の部下、ハボック少尉だった。 ハボック…?お前まさか、ゲームに参加する気じゃ… 「何だね…?」 くすくす笑いながらハボックの声に耳を傾ける。 「何をしてもいいって事でしたが、傷は絶対負わせちゃいけないんすか??」 「ほぅ…例えばどんな傷かね?」 「拘束した時に出来る擦り傷とか、突っ込んだ時に出来る裂傷とか…」 ハボ… ロイの顔に絶望が浮かぶ… お前もそういう眼で私を見ていたのか… 「あぁ、そうだね…それは構わんよ。要するに深手を負わせなければいいという事だ。」 ブラッドレイのその言葉を聞くと、ハボックはにやりと笑い、舌で唇を舐め、ロイを欲望に溢れた眼で見返した。 待っててください!大佐!やっと俺の願いが叶いますよ… ハボックの目がそう語っているようにロイは思えた… 「大佐には今から1時間の逃走時間を与える。参加者はその間、手続きをするように。」 ブラッドレイはロイの方を見、薄笑いを浮かべていた。 「マスタング、この東方司令部から出る事は許さん。もし、一歩でも敷地内から出た時は…」 出たら何だって言うんだ… こんなくだらないゲームの商品にされるくらいなら… 「大佐の称号を剥奪し、一兵卒にするからそう思え…」 何だと!? ただの兵士に格下げるって事か!? どんな思いをしてこの地位に上り詰めたと言うんだ! それに…今、自分が無事でいるのは大佐と言う地位のお陰でもある。 階級が大勢の欲望に満ちた男どもから身を守っていたと言っても過言ではない。 それがなくなったら… 自分は毎日腰が立たなくなるまで犯されるかもしれない… 士官学校でのあの頃のように… 「…逃げません…いえ、逃げ切ってみせます…」 キッとブラッドレイを睨み返し、ロイは壇上から飛び降りた。 周りの兵士どもは欲望をバシバシロイにぶつけてくる。 舌なめずりをする者、侮蔑の言葉を浴びせる者… 今のロイにとって東方司令部すべてが敵… 逃げ切ってみせる!! ロイは右手を握り締めると、広大な敷地の東方司令部の中に消えて行った… To be continues.
アニメでスカーが東方司令部に現れた後の話になりますね!
「処分を」と言ったロイにブラッドレイが下した処分が…
今回は東方司令部全員が相手。
さぁ!ロイたん、逃げ切れるでしょうか!?
しばしのお付き合い、お願いいたします!!