ゲームを征する者   2




       



               21:30…





       「しかし、結構残りましたね…」





       手続きをする為に長い列に並んでいるファルマンは、前で同じく順番を待っているハボックに語りかけた。





       「恐らく殆どのやつが残ったんじゃないのかな?」

       「なんてったって、あの大佐を好きに出来るんだからな。」





       「自らの命をかけて…ですがね…」





       核心を告げるフォルマンに誰も何も言わなかった。

     

       ロイを犯し、自分の欲望を達成できるかもしれないが、同時に殺されるかもしれない…

       果たして命をかけてするような事なのか…





       「俺はそれでもいいさ!こうでもしなきゃ、あの人を手に入れる事なんて出来やしない。」

       タバコをふかしながら、さらりと言い放つハボックに皆黙って頷いた。





       それ程…ロイの体は魅力なのだから…







       「ブレダもファルマンもそのつもりなんだろうけど…」

       列の後ろの方ですまなさそうに並んでいる一人の若者に目をやった。



       「まさかお前まで大佐を狙ってたとは知らなかったぜ?フェリー曹長。」



       「ま、まさか!!僕はそんな気は全然!!」

       「じゃなんでここに並んでいるんだ?ゲームに参加するんだろう?」





       フェリーは俯きながら顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。



       「…何か…一人で帰りづらくって…殆どの人が並んでいる中で…僕一人…」





       お前の小心には呆れるよ…

       周りの皆が笑い飛ばす。



       そこには穏やかな空気が流れ、まるで全員でピクニックでもするかのような雰囲気だった。





       これから始まるのは自らの命を懸けた死のゲームだと言うのに…









 

       22:00





       そろそろ1時間が経つ頃だ…





       ハボックのあの様子から察すると、恐らく殆どの連中がゲームに参加しているだろう…







       どうすればいい?どこに逃げればいいんだ…



       広大な敷地とはいえ、あの人数だ…





       必ず見つかり、私は好きにされてしまう…





       冗談じゃない!利用価値のある上官ならまだしも、自分より下の者なんかにいい様にされてたまるものか!







       自分のこの状況を、一番愉しんでいるのはあの方だろう… 

       結晶の錬金術師の件で「処分を」と言ってしまった自分をひどく後悔している…





       「表立って処分はしない。ただしゲームをしよう。勝ったらお咎めは無しだ。」





       この言葉を信じた自分も馬鹿だった…

       あの方の考える事はいつも途方もない事なのに…







       ワーーー





       遠くから歓声が聞こえてくる。ゲームが始まったのだ。



       ロイは右手に力を込め、迫り来る欲望に立ち向かうべく意識を奮い立たせていった。





       来るなら来い!焔で焼き尽くしてやる!

       私に触れたいのなら、それぐらいの覚悟がなければ到底無理だ!



       私はそれ程安くはないぞ!!





       絶望の感情から、闘争の感情へ…





       ロイもまた、ゲームに参加している側の一人でもあったのだ…





         







       「さて…大佐はどこかな…?」

       周りを行く者たちが走っているにもかかわらず、ハボックとブレダはゆっくりと歩いていた。



       大佐は当方司令部のどこかに必ずいる。



       だったら走り回って探す必要なんてない。

       誰かが見つけ、運がよければヤれる。運が悪ければ焔で焼かれる。





       その痕跡を辿っていけば、必ず追い詰める事が出来る。





       伊達に長い間あんたの後ろを見てきたんじゃないっすよ…





       ハボックには直属の部下と言う大きな強みがあった。



       「それにさ、走らせて疲れさせた方が捕まえ易いじゃん?なぁ、?」

       「ま、そうかもしれないけど…その前に誰かにやられてもいいのかよ?」

       「ああ、別に気にしてないよ。今更だしな。」



       ハボックはロイが出世の為に上官たちに体を張っている事を良く知っていた。





       と、言うより、ロイより立場の強いものが、ロイを放っておく筈が無いと言う事を理解していたのだ。





       「誰かにやられた後の方が突っ込みやすいかも知れねーしな…」



       やれやれと言う表情でハボックを見つめ、ブレダはひと時の相棒と共に司令部内の施設に足を踏み入れていった。









       「殆どの者が参加したようだな。」

       「はっ、ごく一部を除いては…」

       「はっはっは…大佐は皆に愛されておったのだね…人望の厚いことだ。」





       ブラッドレイはさも嬉しそうにこの状況を楽しんでいた。



       「君が錬成したこの首輪、大変役に立ったよ。」

       「そりゃどうも…」

       「それにしても、君が腕を失う前に創っておいてよかった。でなければゲームは出来なかったからね…」



       ブラッドレイの隣で、同じくコーヒーを飲みながら高みの見物をしている人物… 





       「ところで、君は参加しないのかね?鋼の錬金術師よ…」





       エドワード・エルリック…鋼の錬金術師…





       ゲームに参加するものがつけた首輪は、エドがブラッドレイの要望で昨日のうちに錬成した物だった。

       膨大な数になるはずだったが、並みの錬金術師ではないエドは、たった一回の錬成で司令部全員分の首輪を創り上げてしまった。







       「俺はこんなゲームに参加しなくても、大佐を犯れるから、別にいい。」

       ズッとコーヒーをすすりながら、時々聞こえてくる無線機の声を聞き、楽しんでいた。







       『いたぞ!こっちだ!』『挟み撃ちに…うわっ!!』『ボウッ…』





       「あーあ…焼かれたね…可哀相に…」

       「首輪は熱にも弱いから、ちょっとの焔でも外れちゃうよ…?」

       「では、この者達は失格だな。ハクロ将軍、巡回して失格者をつまみ出せ!」



       はっ!と敬礼し、ハクロは司令部内へと消えていった。





       広場の特設テント内にはブラッドレイとエドの二人だけになった。





       エドはコーヒーを置き、ブラッドレイの後ろから抱きかかえる様に首に腕を回す。

       「ねぇ…今の兵士達、死んだかな…?」



       スカーによって壊された右手…

       片手で抱きしめるのは大きな背中…



       ブラッドレイはエドの顔をグイッと引き寄せ、その唇を奪う。





       長いディープキスを終えると、エドはいつの間にかブラッドレイの膝の上に座っていた。





       「死にはしないさ。大佐は部下を殺すような事は出来ない男だ。」

       「せいぜい気絶…程度かな。その優しさが仇となるのを知らないでね…」



       あんたは充分知ってたくせに、ワザと大佐に手袋を渡し、殺人を許可したんだろ…?





       だが、そのほうが俄然面白いのは俺にもわかるよ…





       「さ、ゲームを楽しもうか…」



       無線機の音量を上げ、冷めかけたコーヒーを入れなおして、二人はまた、他人事のように微笑んでいた…











       To be continues.





  
   




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