大総統府地下深く… 恐らくこの国の誰一人知らない空間で赤い光が輝いていた。 大きな石が砕けて小さな破片となり、それを両手で救い上げると傍にいた隻眼の男の前に持って行った。 「はい!ラースの分!今回いっぱい死んじゃったからね。少し多めだよ。」 ブラッドレイはその石を受け取ると、一粒だけ口に含み、残りは鍵のついた箱に仕舞い込んだ。 「?何か浮かない顔だね。折角良質の赤い石が出来たのに…」 「…これを作ったのは…?」 「勿論、あんたの戦友さ。中々優秀な錬金術師だったよ。研究熱心だったし。」 僅かに目を細め、目の前の黒髪の少年見つめる。 そしてその部屋の真ん中に描かれている錬成陣に眼を向け、その中央で赤く光り続ける無数の石を 無表情で見つめていた。 「ユノーもあの中に…?」 「ううん、奴はまだ。もう暫く生かして利用してそれから石に使うってさ。」 そうか、と呟きながらブラッドレイは奥の暗闇へと消えていく。 エンヴィーはそんなブラッドレイを鼻で笑いながら赤い石を口にした。 暗闇の奥の奥…通常の人なら全く見えないだろうその一室に妖艶な女が立っていた。 「ラスト…」 「あら、ラース。エンヴィーから石は受け取ったの?」 答えずその先の石牢へと足を運ぶ。 暗闇の中に蠢く無数のキメラ達。 すべては賢者の石の製造の為の研究材料… ブラッドレイは左目の眼帯を外し、更に奥の牢へと向った。 ウロボロスの眼では、この暗闇も昼間のように明るく見える。 牢の一番奥にうなだれて壁に寄りかかる一人の男がその気配を感じ、ゆっくりと顔を上げた。 「…ユノー……」 やつれきったその顔にもはや正気の色は無い… 「焔のボウヤを始め多くの将校達を人形の様に弄んだ悪魔の様な男でも、人の命を材料に錬成するのには 流石に精神が耐えられなかったようね。」 ラストが背後から近寄り、かつての軍NO.2の成れの果てを見下ろして囁いた。 「一ヶ月間色んな本を読ませ研究させたんだけど…すべての実験錬成に成功させる素晴らしい技術を持っていたわ。」 「おかしなものね。殺されると解っていながらも目の前に興味ある研究材料があると没頭してしまう…」 「錬金術師の性かしら。結構楽しんで実験していたわ。」 この一室の周りのキメラ達は皆ユノーが作り出したものだった。 その出来栄えは素晴らしく、ユノーの錬金術の腕の良さを知らしめる物でもあった。 「あなたが育てた腐った林檎はよく熟してくれたようね。あなたへの憎しみで技術を必死で磨いていたようよ。」 「すべては大総統、キング・ブラッドレイを倒す為に…」 ブラッドレイは何も言わず、ただ黙ってラストの話を聞いていた。 そして牢の鍵を開けると中のユノーの傍まで近寄り傍らに跪いた。 虚ろな瞳は目の前の憎き相手が解らないのか… ブラッドレイはそっとユノーの頬に手を添えた。 そのまま顎をあげ、静かに唇を合わせる… 「前大総統にいいように弄ばれていたお前を…私は打算抜きで救いたかった…」 「下賎の私に抱かれた事が…許せなかったのか…」 貴族のプライドを…踏みにじったからなのか… クーデターへの火種として生かしておいたのもあったが、私はお前が傍にいて欲しかったのだ… だから粛清はせず…NO.2として私の傍らに位置づけさせた。 お前が私を憎んでいたとしても…いずれ戦うとしても… 二人で語らうひと時は楽しいものだったのだよ… 「……そうではない…レイ…」 ポツリと呟いたその言葉に、ブラッドレイが眼を見張る。 ユノーは目を細め小さく微笑んだ。 ブラッドレイを見るその眼は確かにはっきりと輝いている。 「私はお前にすべてを語ったのに…」 「お前は…私にすべてをさらけ出さなかったからだ…」 その眼の奥に何を秘めていたのか…結局私には語ってくれなかったな… ユノーの右手がすっと上がり、ブラッドレイの左目に触れた。 「だが今なら…分かる…何を秘めて何を目指しているのか…」 「私の術が少しでもお前の役に立ったのならそれは本望だ…」 それが人の道に外れる行為だとしても… 私の命でお前の命を繋ぎとめていられるなら… 「私のただ一人の友の為に…」 ブラッドレイはその手を掴み、そっとキスをする。 「お前は私の生涯ただ一人の友だ…ジョゼフ・ユノー…」 ブラッドレイは腰のサーベルを抜き取ると、ユノーの心臓に一気に突き刺した。 一瞬ユノーの目がカッと見開き、そのまま静かに眼を閉じていった。 苦しむ事も無く…安らかな顔で息絶えた。 「ラース!!なんて事をするの!この人間は人柱として使うとお父様が!」 サーベルの血を払い落とし、鞘にしまうと、何も言わずにラストの横を通り過ぎた。 「ラース!何てお父様に言い訳するつもり!」 ラストが叫びながらブラッドレイの腕を取る。 ブラッドレイはその腕を振り解き、静かに答えた。 「息子の…たった一度の反抗だ。」 「そんな理由で許されると思っているの!?」 「ではそれに対しての制裁を甘んじて受けよう。そう伝えておくがいい。」 あの方の中に…生まれた場所に戻るとしても…後悔はしない… 唖然と立ち尽くすラストを後に、ブラッドレイはエンヴィーのいる広場に戻ってきた。 「お帰り!あの人間、どうだった?まだ正気でいた?」 「ユノーは私が殺した。私の可愛い玩具と子羊への罪を償わせた。」 淡々と語るブラッドレイに絡みつく様に笑いかける。 「ふ〜ん。一思いに殺してあげたんだ。優しいね。ラースは。」 馬鹿にしたように鼻で笑い、赤い石をかじる。 「ところでさ、あの焔の大佐はどうするの?このままにしておくつもり?」 「あれは次の「腐った林檎」として木箱にしまいこむ。」 次なる内紛の火種として… そしてそれはそう遠くない未来になるだろう… 「いいのかな…?あの大佐、ラースの左眼絶対見てるよ?」 「本人は覚えてないと言っていた。」 「信じるつもり?お父様も危惧していたよ?ラースは少し感情が入りすぎるって。」 ブラッドレイは仕舞っておいた眼帯を取り出し、左目にかける。 それはラースからキングブラッドレイに変わる合図。 「…人間の世界で人間として暮らせば…お前たちよりは感情が備わるのは仕方のない事だ。」 「何にせよ、マスタングは今後の核として必要な人間だ。今どうこうする必要はない。」 それに…あやつなら…私を救ってくれるかもしれない… 私に課せられたこの宿命から…解き放ってくれるかもしれない… 「焔の大佐、中央行きを断ったんだってね。」 「ああ。中々用心深い奴だ。今中央に来るのは不利と判断したらしい。」 もう少し実力をつけ…もう少し地盤を固め… 時期が熟したら私の所に牙を研ぎながらやってくるだろう。 それまでの間、また以前と同じ様に弄んでやるとするか… 屈辱に沈むあの漆黒の瞳をまた見たくなったな。 「ラース…?」 「いや、何でもない。また以前と同じ日々に戻っただけだ…」 だが今度の「腐った林檎」は木箱の奥深く…そう、一番奥の最も大事な林檎のすぐ真横。 取り除くのが先か、私が腐敗するのが先か… 今は誰にも分からない… End
長い間本当にお付き合いありがとうございました!
最初はこんなに長く続くはずなかったんですが…
書いている内にどんどんネタが浮かび、ついには44話まで続いてしまいました…
一番楽しかったのはロイたんを薬漬けにして苛めるところ??(笑)
アニメの設定と原作の設定が語ちゃになってます。いい所だけを採用して…(あはは)
色々突っ込み所もあると思いますが、受け流してやってくださいませ…