理想家族





「えっと…こんにちわ…」


唯一の自分の持ち物である緑色の鞄を抱え、少年は二人の男性の前に連れてこられた。


一人は細目の、華奢ですらっとしていて、でもとても綺麗な男の人。
もう一人はつんつん頭で黒ブチ眼鏡をかけた、これもすらっとして長身の男…



「ほぅ…中々端整な顔立ちをしているね。貞治好みだ。」
「写真を見て一目ぼれさ。蓮二だって一発で気に入っただろ?」

お互い眼を合わせてにっこりと笑い、目の前できょとんとしている少年に手を差し伸べた。


「これから宜しく。俺は柳蓮二。こっちは乾貞治。一応夫婦なんだけどね。」
「でも苗字が…」
「貞治がどうしても俺の籍に入るのは嫌だと。だから夫婦別姓。」
「俺の籍に入るからって約束だったんだぞ!」


だから結婚してやったのに!
憮然として怒る乾を尻目に、柳は少年の目線に合わせる様身体を屈ませた。


「怖がらなくていいよ。これからは俺達は家族だ。仲良くしようね。えっと、名前は…」
「海堂…薫です…」
「ン、海堂君。いや、家族なんだから名前で呼ぼう。薫君。荷物はこれだけ?」
「はい…ここではこれで充分でしたから…」


海堂は鞄をギュッと抱きかかえた。
事故で死んだ両親が残してくれたたった一つの形見…
裕福だった海堂の両親が事故死した後、その遺産は親戚に食い潰され、海堂は無一文で孤児院に放り込まれたのだ。
その際、この緑の鞄だけが手元に残ったのだった。


その時、海堂は12歳。弟の葉末は6歳。
年齢が低いほど貰い手が早く見つかり、葉末は裕福な家庭に貰われていった。
だが海堂は12歳と年齢も高く、人なれしない性格もネックになり中々里親が見つからなかった。


そうして3年が過ぎ…やっとの事で海堂を引き取ってくれる里親が見つかったのだ。



この孤児院では3年過ぎても里親が見つからない場合、その子が15歳以上なら働きに出される。
それ以下なら施設内で使用人代わりにこき使われるのだ。


「引き取り手が決まった」と聞かされた時、海堂は心からほっとした。
それが男同士の夫婦と聞かされても、ここに残るよりはまし、と承諾したのだ。


そう…海堂は知っていたのだ…
この施設から外に働きに出される者は皆、風俗業に行かされている事を…


「ではすぐに手続きを。」
「薫君は貞治と一緒に車に行っててくれないか?」

はい、と言い、もう一人の眼鏡の男の後ろについていく。
歩きながら乾はこれから向う家の事を話し始めた。


海の近くできっと気に入るよ、部屋の家具は皆そろえてあるからね、足りない物は言ってくれよ…
鞄を抱え俯くだけの少年の心を何とか和ませようと一生懸命話しかける。

「そうだ!俺の事はお父さんと呼んでいいよ!」
「お父さん?」
「一応養子として引き取ったわけだし。書面上では俺は君のお父さんな訳だし。」


お父さん…?俺にまたお父さんが出来るのか…?

「何言ってる。実質的に『お父さん』なのは俺だろうが…」


背後から叱責するように柳が割り込んできた。

「いや、見た目は大事だぞ?蓮二。どう見てもお前はお母さんの雰囲気だ。」
な、そう見えるだろ?と海堂の肩を抱き自分の味方に引き込もうとする。


「…そういうものか?薫君。俺と貞治、どちらがお父さんでお母さんかな。」



難しい質問だ…大体男同士じゃないか…そんなのに父親母親なんてあるのか…?


「…乾さんの言うとおりかと思います…」
「ほら!やっぱり!これで決まりだな!俺がお父さん、お前がお母さんだ!」
「…不に落ちないな…俺の方が稼ぎはいい筈だが?」

柳と乾の二人に挟まれて、海堂は車の中へと吸い込まれていく…


あぁ、やっとここから出られるんだ…
そう思うと自然に笑みがこぼれてくる。
ほっとする様に笑った海堂を見て、柳と乾も顔を見合わせにっこり笑い、お互い近づきそっとキスを交わす。
そして乾が運転席へ、柳が海堂の隣に座り、新しい家へ向って出発した。



この日から柳、乾、海堂の理想家族への日々が始まったのだ…






「あーあ…行っちゃいましたね…結構上玉だったのにな。勿体無い。」
「まぁそう言うな。外で働いて貰う100倍の金を寄付して貰ったんだ。」

孤児院のスタッフ…明らかに闇の世界で働いていそうな人相の悪い男達が走り去る車を見送っていた…


「でも海堂は知ってんすか?あの二人が何故子供を欲しがったのか…」
「知るわけないだろ。ククッ…可哀相になぁ…」


兄貴分らしき男は手に持った一枚の紙切れをしげしげと見つめ満足そうに笑う。
その紙には1億近い金額が書き込まれていた…


ポンとこんな金額を寄付してしまうなんて…流石柳財閥の当主だけあるな。



日本の経済を動かしているといっても過言じゃない、若き実力者。
その右腕として柳を支える乾貞治。この二人が組んだら誰も太刀打ちできないだろう…



海堂も豪い人に気に入られたわけだ…



少し哀れむような表情でかなり遠くになってしまった車を再び見る。





フッと笑いながら男達は施設の中へと消えて言った…



To be continues.






テニプリ柳乾海で連載始めました〜

とある方のお仕事お手伝いして生まれた妄想!
「あぁ!これSSにしたい!」と思い立ってほぼ書き下ろし。

うふふ!これから薫ちゃんの躾が始まります〜

暫くのお付き合い、お願いしますね〜


あ、乾は柳に対して受けです。お気をつけ下さい。



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