理想家族






2





車は大分走り、家に着いた時は既に辺りは暗くなっていた。







「さ、着いたよ。かなり遅くなっちゃたね。」
運転席の乾が優しく笑いかけてきた。
海堂の隣でずっと話をしていた柳もにっこり笑う。



怯えて震える様に鞄を抱きしめているままの海堂も、このドライブの間で大分心が解れてきた。


車を降りると、波の音が聞こえてきた。すでに夜になっていたので真っ暗で見えないが。
あぁ、そうだった。海の傍だって言ってたっけ。 
波の音のほうへ近づこうとすると、いきなり腕を掴まれ、柳の方へと抱き寄せられた。



「わっ…何するんですか!」
「気をつけなさい。薫君。この先は崖だ。」
「え…?」
「フェンスあるけど、知らないと危険だからね。海を見たいのなら朝にした方がいいよ。」


驚く海堂の頭を乾が優しくなでる。抱き寄せた柳もそのままぎゅっと抱きしめていた。

「…あ、あの…すみません、離して下さい…」
「どうして?家族なんだから抱きしめてもいいじゃないか?」
「で、でも…」


あんたは男な訳だし、家族ったってほんの数時間前までは赤の他人だった訳だし…


でも抱きしめられるその温もりが暖かくて…
撫でられる手の感触が気持ちよくて…
思わずその胸の中に身を寄せてしまう…

「さ、家に入ろう。薫君の部屋を見せあげるよ。」

両脇から手を差し伸べられて、海堂は鞄をぎゅっと抱きしめる。
鞄を手から放す気がない事を察すると、優しく笑って海堂の肩を二人が抱き寄せた。


挟まれる様に家に入ると、そこは洒落た家具があり、すっきりとしていて、だがすべてに高級感が溢れていた。
一目で…この二人が相当裕福なんだと海堂は感じていた。


「ようこそ。我がSWEET HOMEへ!そしてようこそ!我らの家族へ…」


柳と乾が同時にそう言い、さっと乾が海堂の傍に近寄った。

「さ、おいで。2階の薫君の部屋に案内しよう。」
「あ、蓮二、お茶入れといて。俺は2階に案内してるから。」
「何で俺が…」
「お願いな。お母さん!」


クスクス笑いながら海堂の肩を抱き寄せそのまま2階に上がっていった。


2階には部屋が3つ。一つは恐らく二人の寝室だろう。もう一つは…書斎かな…
海堂がきょろきょろしていると、乾は肩をポンと叩いて注意をそちらに向けさせた。


「ここだよ。薫君の部屋。さ、ドアを開けてみて。」

そう言われて恐る恐るドアを開ける。


「…これ…」

部屋を見渡し、海堂は驚きを隠せなかった…
ベッドや机は勿論の事、TV、オーディオ、その他年頃の男の子が欲しがる様な家具や機器がずらりと並べられていた。
クローゼットを開けてみると、そこには海堂が好みそうな服がぎっしり詰まっている。

「凄い…これ本当に全部…」
「君の為に俺と蓮二で揃えたんだ。気に入って貰えたかな。」
「足りない物があったらなんでも言ってくれ。」
「足りない物なんて…ないです…」

緑色の鞄を抱きしめ俯きながら首を横に振る。
乾は海堂の肩にそっと手を添えた。


「心配する事ないんだよ…薫君…君はもう俺の家族なんだから。」
「さ、その鞄を置いて下に戻ろう…蓮二が美味しいお茶を入れてくれているよ。」
「でも…俺…」
「ここには誰もその鞄を取る者はいないよ。安心して…」

乾は海堂の額にそっと唇を落とす…
まるで父親が不安げな子供に優しくキスをする様に…


海堂は何故だかフッと緊張が解け、安心したのか恐る恐る鞄を手放した。



「どうだ…薫君の様子は。」
「ん、安心して眠ってる。余程疲れてたのかな…」


夕飯も済ませ、海堂は新しい環境への緊張と、疲れていたせいもあって早々に部屋で休む事になり、
今、乾が部屋まで送っていったのだ。


蓮二の入れてくれたお茶をずずっとすすり、ほっと一息入れる。



蓮二は乾の隣に座り、そっと頬にキスを落とす…
手に持った湯飲みをテーブルに置かせ、そのまま深い口付けへと変わっていく。



「で、どう…?薫君は俺達の理想家族になりそうかな…」
「させるさ…お前もそのつもりだろう?蓮二は躾が上手いからな。」
「ここに最高の傑作がいるからね。」


首筋に唇を落とし、柳は乾をソファに押し倒す。


「んっ…蓮二…今日はまずいんじゃないか…?」
「薫君がもし起きて来たら…って心配してる…?それこそ一石二鳥だよ。」

俺達が薫を引き取った訳を教えてあげよう…



シャツをたくし上げ胸を弄り、愛撫に反応して膨らんでいる胸の突起を舌で転がしていく。

「ン、ふぅ…んん…駄目…だって…」
「…最近NGが多いぞ。前は一日何度でも、どこでもOKだったじゃないか。」
「昔と今を比べるな。やるんならベッドに行け。」

グッと柳を押しのけて、乾はたくし上げられたシャツを直しすくっと立ち上がる。
ずれた眼鏡を掛け直すかと思ったら、すっと外し、テーブルの上に置いた。


「貞治…?」


思わず声をかける柳に乾が艶っぽく振り向いた。



来いよ…隣の薫に聞こえるくらい乱れてやるから…


妖しく誘う乾のその言葉に柳も全身からフェロモンをかもし出す…




「早速躾開始か…?」
「環境認識。自分の置かれている立場を認識させないとね。」



早く…俺達の理想の家族の一員となるように…




乾の背後にぴったり寄り添うように二人は二階の寝室へと上がっていく…
すぐ隣は今日家族になったばかりの海堂がいる…



その部屋で海堂はあまりの環境の変化で中々寝付けず、ベッドの布団の中で天井を見上げていた…



To be continues.











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