駆引き   1








        脱獄した囚人をマスタングが焼き殺したと…





        ブラッドレイの執務室にその一報が入った時、ブラッドレイは眉をひそめ静かに眼を閉じ考えていた。





        その人物が人物だけあって、何かしらの意図を感じ取ったのだ。





        「ふっ…久々に何か仕掛けてきたか…マスタングよ。」

        にやりと笑いながら秘書にメモを渡し、マスタング大佐に渡すよう指示を出す。



        さて…あやつはどう出るか…いや、出ざるをえまい。







        さぁ…命がけの駆け引きの始まりだ…クククッ…













        セントラルの高級ホテルの最上階。



        ロイは拳を握り締め、意を決して一番奥の部屋へ続く廊下を進んでいく。

        その手には先程受け取ったメモが握られていた。





        『囚人焼死の一件について話を聞きたい。○○ホテルに23時』



        メモにはそう書かれており、ロイは受け取って即座にその意味を理解した。







        必ず何かしら動きがあると思ってはいたが…こんなに早く反応するとはな。

        だがもう後戻りは出来ない。何があっても先に進むだけ…





        上を目指すと心に決めたあの時から…







        「マスタング大佐です、閣下。」

        重厚なドアをノックし、相手の反応を伺う。



        「入れ。」



        短いが重みのある言葉にロイの身体に緊張が走る。

        何をいまさら…いつもの事じゃないか…



        いつもの様にあの方の気まぐれな遊びに付き合えばいいだけだ…

        命がけのあの遊びに…







        両手でドアを押し上げ、もしかしたら自分の部屋よりも広いスウィートルームへと入って行く。



        「お呼びと伺い、参上いたしました。」

        形だけの敬礼をかざし、心にもない社交辞令の挨拶を交わす。

        



        「よく来たな…マスタング大佐。」



        ワインを片手に夜景を愉しんでいたのだろうか、部屋の窓際にあるイスに座り

        こちらを見ようともせずに窓の外を見つめていた。





        人を呼びつけておいて…



        ロイはむっとしながらも平静さを保ち、ブラッドレイの次の言葉を待っていた。



        「…閣下…ご用件をおっしゃって下さい。」

        何も語らず窓の外を見続けるブラッドレイに、とうとうロイは我慢しきれず問いかける。



        「見たまえ…この夜景の美しい事…」

        「は…?」

        「この部屋から見る夜景は大好きでね。時間がある時はよくここに泊まって一晩中夜景を見るんだよ。」



        手にしたワイングラスをグイッと飲み干し、ゆっくりと椅子から立ち上がった。



        「今夜は…もっと早くこの部屋に来ればよかった…」

        「さぞかし美しい焔が見れたろうにね…」



        腕を後ろで組み、身体は窓に、だが少しだけ顔をロイに向ける。





        それだけなのに、ロイは背筋に悪寒が走り、その場に身動きできなくなってしまった。



        恐れるな…雰囲気に飲まれてしまっては負けだ…

 

        「囚人焼死の件…ですか。あれは軍の命令に従っただけです。」

        「射殺命令が出ていたそうだね。フム、成る程…」



        コツコツと軽く足音を立て、ゆるりとロイに近づいていく。

        右手に…愛用のサーベルを提げ…左手でその鞘を抜いていく。





        ロイがハッとなって逃げようとしたがブラッドレイがサーベルを向けるのが一瞬早く、

        その剣先が喉に突き刺さる一歩手前で止まっていた。



        ごくりと唾を飲み込むだけでチクリと痛みが走る。





        「閣下…何を…」

        「お前はこの私に平気で嘘をつく。そんな喉は掻っ切ってやろうかね…」



        冗談じゃない!掻っ切られてたまるものか!



        キッと睨みつけるその眼に、ブラッドレイは心底酔いしれていた。

        そう…その眼だ…ぞくぞくするよ、マスタング…



        他の者だったらこうして私がサーベルを向けるだけで恐怖に引きつり洗い浚い喋り捲る。





        そんな風に私を見るのはお前だけだ…





        にやりと笑いながら剣先をほんの少しだけ前に突き出す。

        プツッと僅かに喉を切り裂き、赤い糸がすっと流れ出した。



        ロイはぐっと拳を握り締め、その痛みと恐怖に耐えていた。



        「聞く所によると、男女の判別も出来ぬ程の焼死体だったそうじゃないか。」

        「ヒューズ准将の事もありましたから。感情が表に出て焔のコントロールが出来ませんでした。」





        シュッ!!



        ロイがそう答えると同時にブラッドレイのサーベルが空を切り、ロイの軍服を一文字に切り裂いた。

        その切り口には赤い筋が走り、白い肌をより美しく引き立たせていた。



        「つっ…」

        思わずその切り口を手で押さえ、顔をブラッドレイからそらせてしまった。



        すかさずブラッドレイはサーベルの剣先をロイの頬にあて、斬りつけない様巧みに操りながら

        ロイの顔を自分に向かわせた。







        「だが判別できぬ程焼く必要もあるまい。それとも…」



        ブラッドレイはサーベルを下げ、床に転がした。ロイは少し驚きながらそのサーベルに眼を向ける。

        ガシッとロイの顎を掴み、再び自分の方に目線を向かわせた。





        私から目線を外す事は許さん…

        まるでそう言っているかの様に…



        相手の吐息が感じられる程お互いの顔が近づいている。

        ロイは嫌悪感で顔を背けたかったがブラッドレイの腕ががっしり顎を掴んでいてそれも許されなかった。

        

        「それとも…?何でしょうか…?」

        必死の思いで冷静さを保ち、ブラッドレイの挑発に耐える。



        



        「判別出来ぬ様にしなければならない理由があったのかね?」







        ブラッドレイはそのままロイを抱き寄せて、その唇を強引に割った。



        「ふっ、んん…んん。」

        有無を言わさず舌を絡ませその口内を犯していく。

        何度も何度もしつこい位に唇を吸い、あまりにも濃厚なキスにロイの思考も痺れていく。





        ようやく開放された時、ロイの足腰は力なく砕け、ブラッドレイの腕にしがみ付いている状態だった。





        「どうした…つい先日地下室で楽しい宴を開いたばかりではないか。」

        「こんなキス如きで腰砕けになる程貴様は腑抜けになったのか?」



        潤んだ瞳でブラッドレイを見つめ返す。そう、明らかにロイは欲情していた。



        「あなたのキスは魔薬な様なものですから…」

        そう告げると、すっとブラッドレイの腕からすり抜け、大きなキングサイズのベッドへと向かう。





        「あの囚人は…私の焔で死にました。そう上に報告してよろしいですか…」





        ブラッドレイに背を向けながら淡々と語るロイに、ブラッドレイは苦笑し床に落としたサーベルを拾い上げた。





        駆け引き…だな。面白い。企みを黙認する代わりにその身体を私に開くか。

        いつもの様に…等価交換の原則…生きている証を示すため…









        いや、今回は違う。



        私の地位を奪うための第一歩…







        これを呑むか否かは危険な賭けだ…

        ふふっ、これもいつもの事だったな…



        マスタングとの情事は命がけだ…







        「よかろう。上にはそう報告するといい。」

        マスタングの背に緊張が僅かに解ける。ほっとしているのだ。





        ロイが徐に軍服を脱ごうとすると、ブラッドレイが一喝してそれを止めた。

        不思議そうに振り返ると、ブラッドレイがにっこり笑ってサーベルをかざしている。





        服を脱がせる楽しみを奪わないで欲しいものだ…



        そういいながらサーベルを振りかざしロイめがけて斬りつける。

        驚いたロイはとっさに右手で身体をかばい、その反動で右腕の袖と右手の発火布の手袋がはらりと切り裂かれた。



        「何をっ!」

        いきなり斬りつかれて流石のロイも怒りを隠せない。



        だがブラッドレイは笑みを絶やさず再びサーベルをかざしてくる。



        「動くな、マスタング。動けばその身も切り裂くぞ。」

        くすくす笑いながらサーベルを振り下ろす。

        動くなと言われても体が本能的に逃げてしまい、その度に細く赤い筋を白い肌に付けていった。



        サーベルが振り下ろされる度に軍服がはらりと床に落ちていく。





        すべての服が切り裂かれた時、ロイの身体には無数の切り傷が刻まれていた。







        それがまるで白い肌を縛り上げている赤い紐にも見えて、とても官能的だった。



        ロイは全身に走る鈍い痛みに耐えながらもブラッドレイから視線を外さず、終始その鋭い眼を向けている。







        面白い…どこまでその眼でいられるか…











        あの地下室での一件以来、以前のマスタングとは明らかに変わっている。

        エドとの絆がそうさせているのか…









        私がどれほど手荒な事をしても、以前のマスタングならただ耐えるだけだった。







        だが今は違う…



        愚かにも私に向かってくる…





        「エドワード」と言う光を手に入れたからか?それで私に対抗する力を得たと思っているのか?















        ならば来るがいい、マスタングよ。















        私は全身全霊でそれを迎え撃つだけだ。









        To be continues.





  
   


連載放っておいて始めてしまいました!

ブラロイ鬼畜熱が勃発!もううずうずしてきちゃい、書き下ろしのように
書きました!
ガンガン6月号を元に書いてます。
暫くのお付き合い、宜しくお願いします!



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