朝日が瀬人の眠るベッドへと優しく注がれる。 ふっと眼を開け隣を見ると、既にそこにはペガサスの姿はなかった。 「ペガサス…?」 気だるい身体を起こしてガウンを羽織り、部屋を見回した。 ベッドルームの隣には豪華な家具が設置されているリビングルームがある。 その大理石の机の上にペガサスが用意したビック5との契約書と、瀬人が持ってきた遊戯との契約書が無常さに置かれている。 その上に一枚の手書きの紙が置いてあった。 「Please return the key to the front.(鍵をフロントに返しておいて下さい)」 瀬人はそのメモを手に取ると、それをくしゃくしゃに切り裂いて契約書を払い落とした。 「ペガサス…ずるいぞ…何も言わずに帰るなんて…」 瀬人は落とした契約書を拾い上げ、ぎゅっと胸に抱きしめる。 俺の願いはただ一つ。 お前にもう一度会いたい… 共に朝を迎えたい…それだけ… 瀬人は大きな窓から朝日を見つめ、小さく溜め息をつくと契約書を鞄にしまい衣服を整え部屋を出る。 モクバが心配しているだろうな… ホテルを出た後、瀬人は家には帰らずそのまま学校へと向かう。 その日は何故だか会社には行きたくなかった。 仕事を忘れ、ただの高校生として学校で過ごしたかった。 遊戯や城之内が色々話しかけてきても、瀬人は何も反応せず、ただ空ばかりを眺めていた。 今頃あの空の上を飛んでいるのだろうか… 今度はいつ来る…? いつ会える…? 瀬人は思いがけない自分の思いに苦笑した。 馬鹿な…あいつの事ばかり考えているなんて… だが眼を閉じれば昨日のことが鮮明に蘇ってくる。 唇に残る甘い吐息。肌に触れれば思い出される甘美な感触。 「くそっ!!」 ちっと舌打ちして瀬人は席を立ち、そのまま学校を早退してしまった。 今日は何もやる気がしない… 仕事も…学校も…何もかもが上の空。 「素直に家に帰ろう。一晩過ぎれば全て忘れる。」 忘れられるだろうか… ペガサス城でのあの晩の事ですらいまだ忘れられずにいると言うのに… リムジンが玄関まで到着すると、使用人たちが出迎える。 その奥からモクバが自分の名前を叫びながら駆け寄ってきた。 「兄さま!!兄さま!!何処行ってたんだよ!!」 「モクバ…すまなかった。心配かけたな。」 「それどころじゃないよ!早く来て!!」 モクバの血相ぶりに何事かあったのかと、瀬人も早足でモクバの後についていく。 リビングに向かうと、高級ソファに座った一人の青年が、紅茶をすすりながらTVのアニメを見て高らかに笑っていた。 「お帰りなサーイ!セト!何処に行ってたんですか??会社に行かなかったんですか??」 白銀の髪をさらりと流しながら、昨日愛し合った愛しい恋人に手を振る。 「き…さま!!何でこの家にいる!!」 「今朝からずっとここにいるんだ…俺、兄さまに何かあったのかと学校も休んであいつを見張ってたんだぞ!」 ペガサスはカップをテーブルに置き、鞄から書類を取り出し瀬人に差し出した。 「私が来日した最大の理由は、海馬コーポレーションとの事業提携を結ぶ為デース。」 ポンと瀬人の手にその書類を渡し、きっと睨みつけるモクバににっこりと微笑んだ。 「今朝会社にその件で行ったら、社長がいないから駄目だの一点張り。あなたの秘所さんは頑固でいけませんね。」 「仕方がないからその足でこちらに来て、あなたが帰ってくるのを待っていたと言うわけです。」 パチンとウィンクをして、またソファへと座ってしまった。 「だ、だからって何でそこでくつろぐ!資料を受け取ったんだ、さっさと出て行け!」 「それは出来ませーん!」 その一言に瀬人もモクバも驚いて、資料をテーブルに叩きつけて向かい合わせに座った。 「貴様!今度は何を考えている!」 「何も?あなたとビジネスをするなら、常に傍にいた方がいい。あなたは多忙を極める人ですからね。」 寝食を共にすれば、忙しいあなたでも5分ぐらいは私に時間をくれるでしょう。 「時には一晩中議論してもいいですしね。セト。」 ニコニコ笑いながらセトにその視線を向けてくる。 言葉の意味を正確に理解した瀬人は、顔を赤らめながらも強い口調で異議を唱えた。 「冗談じゃないぞ!何で貴様と同居しなきゃいけないんだ!」 「あなたにもメリットがありマース!私と常に行動を共にすれば、私が水面下でビック5と画策することは出来なくなりマース!」 確かに…ビック5たちはいまだ虎視眈々と会社乗っ取りを企んでいる。 最大の敵をこちらに引き込めば、それは最強の味方となる。 野に放つよりは自分の傍に置かせて見張る方が断然有利。 最も…それはただの口実に過ぎない。 解っている…本当は傍にいて欲しいんだと言う事を。 だがそんな事は口が避けても言えるはずがない。俺のプライドが許さない。 だからあえてこう言おう… 「勝手にしろ…変な真似をしたら容赦なく追い出すからな。例の契約書は俺が持っているんだからな!」 「兄さま!?いいの?」 「ありがとうございます!セト!宜しくです!モクバBOY!」 では早速資料に眼を通して下さい。今から説明しましょうか。 セトは小さく溜め息をつくと、テーブルの上の資料を手に取り眼を通す。 ペガサスは紅茶のお代わりと、セトとモクバの紅茶も用意させた。 願いは叶うのだろうか… 俺が望むたった一つの願い… 俺はこのまま幸せになってもいいのだろうか… 「ペガサス…」 「はい??」 「いや、何でもない。」 資料に眼を通しながら瀬人は一瞬微笑んだ。 今は何も考えずにこのひと時を受け入れよう。 愛しい者達といるこの空間を楽しもう。 願わくば…それが永遠に続くように… 俺の…ただ一つの願い。
「願い」完結です!
ずっと温めてきたペガ海なので形に出来てほっとしております!
この後の話が本として出しております、よかったら見てやって下さいませ。(ぺこり)
まだ2〜3個のネタがあるのでこれは続きます〜
暫くのお付き合い、ありがとうございました!!
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