牙が赤く染まる時  1


        穏やかな日差しが差し込む午後の司令官室に、その男はやってきた。



        「ハボック…この方は…」
        「先日話した俺の友人です、大佐。」


        凛とした顔立ちで、一見紳士的な容姿をしている。
        すらりと高い身長は、ハボックと同じくらいだった。


        「どうも、アイザック・ボーグと申します、マスタング大佐。」

        右手を差し出し握手を求めてくる。
        だがロイは手を出さず、隣で控えているハボックに目配せをして部屋の隅に呼び寄せた。



        「…おい!どういうつもりだ!」
        「…どうもこうも、大佐が昨日興味を示していたから連れて来ただけですが?」
        「興味と言うのは仕事柄で!!」

        がっくりと肩を落とし、ロイはよろよろと机の椅子に座り込んだ。


        「…ボーグさん…悪い事は言わない。すぐにここから立ち去る様に。」
        今なら部下に免じて一度だけ見逃してやろう。


        だがアイザックはにっこり笑いながら紙切れを一枚取り出し、それを机にそっと置いた。


        「あなたの事はジャンから聞きました。私たちはいつでも迎える用意があります。」

        差し出された紙には数字が並べられ、その下には何やら名前らしきものが書かれていた。


        「我々のアジトへの連絡方法です。これは無線コード。その下は暗号名です。」
        「心よりお待ちしております。ロイ・マスタング大佐…」


        誇り高き、そして強い意思を持つ焔の錬金術師よ。


        アイザックはさっと敬礼をかざすと、ハボックに手を振り司令官室を後にした。


        バタンと扉が閉まると、ロイは烈火の如く怒ってはボックを怒鳴りつけた。


        「貴様!一体何を考えているんだ!ここを何処だと思っている!」
        「何をって…俺は大佐の為を思って連れて来たんすけどね。」

        「軍の司令官室にテロリストの幹部を連れてきてどうする!!!!」


        しかも東方司令部を管理する私の所に来て勧誘して行くなど!


        「だから、昨日バーで飲んでた時に将来の国のあり方について熱く語り合いましたよね。」
        「大佐は凄く憂いでいて、『もうクーデターしかないのかなぁ…』って言ってたじゃないですか。」

             
        だから俺の親友を紹介したんです。テロリストの幹部になったアイザック・ボーグを…


        ロイはキッとハボックを睨みつけ、机の上の紙をくしゃくしゃに握りつぶした。

        「まさか貴様、その親友に軍の情報を横流ししていたんじゃなかろうな…」
 
        ハボックはふっと馬鹿にしたように笑い、持ってたタバコに火をつける。


 
        「心外だなぁ…俺がそんな事をすると思ってたんですか…?」
        ふぅっと煙を吐きながらゆっくりと机に近づいていく。

        「俺はあんたの忠犬っすよ…?」
        バンと机を叩きながら、ロイの襟首をグッと掴んで引き寄せた。


        「あんたが困るような事する訳ないじゃないですか…」
      
        ぺろりと鼻先を舐め、そのまま唇に移動する。
        ギッと歯を食いしばるその歯列に舌を這わせ、無理やりこじ開けると抵抗するその舌を絡め取った。

        「ふっ…んん…」
        くちゅっと音を立てて弄ぶようなキスを楽しむと、ハボックはドンッとロイを突き飛ばした。


        「で、どうするんです?アイザックを通報するんすか?」

        ま、そうなったら俺も逮捕監禁、下手すりゃ銃殺ですけどね。


        ロイは乱れた襟を整え、グッと濡れた唇を拭うと、くしゃくしゃにした紙を広げてその中身に眼を通した。



        548yf45h880red

        これが無線コード…そして暗号名…



        「赤き血の湖に獅子の牙が触れる時歴史は変わる…どういう意味だ…?」
        「さぁ。そこまで俺も詳しくないんで。」 

        ふぅっと深い溜め息をつくと、ロイはその紙をビリビリに破り捨てた。

        「大佐…?」
        「今日は誰とも会わなかった。いいな、それで。」

        がたっと立ち上がってハボックの髪に手を添えると、その後頭部を掴んでぐっと自分の方に引き寄せる。


        「大事な部下を失う訳にはいかないからな。」


        ハボックがそのまま抱き締めようとする前にするりとかわし、ハボックの肩をポンと叩いて部屋を出て行った。



        屑かごに捨てられた紙切れの残骸を見ながらハボックは意味ありげに微笑んだ。





        「残念ですが…もう後戻りは出来ないんすよ…」



        落ちそうなタバコの灰を屑かごにぱらりと叩き落とし、ロイが座っていた椅子に座りタバコを噴かす。
        
        穏やかな午後の日差しが一人残されたハボックを照らし続けていた。




        そしてハボックはこの日を境に司令部に出勤して来なくなった…



        To be continues.




ハガレン新連載開始です。

これは裏絵に飾ってあります「ブラッドレイからの招待状」と「エドからの招待状」を基に書きました!
勿論イラストのような展開を思いっきり考えておりますので!(黒笑)
暫くのお付き合いお願い致します。



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