交代後、眠るジュリアスにクラヴィスは、そっとサクリアを送る。
指揮官としての責任と重圧に、張り詰めた神経が休まらないであろう恋人の力に少しでも役立ちたい。
その一心で戦いが始まってから、自分が疲労の限界にいようとも毎日送りつづけていた。
ジュリアスに気付かれぬ程度の些細な量だが、これだけでも回復には十分である。
私がサクリアを送っていることを知れば、おまえは、烈火の如く怒るであろうな。
無駄な力を使うな…と。
だが、私にとって無駄ではないのだ。
いつもおまえに守られていた私にできる唯一のことだから。
おまえの眠りは、私が守ろう。安らかな休息をおまえのために…
「敵だ! 起きろ!!」
「朝っぱらから元気な野朗どもだぜ!」
「荷物をまとめろ!」
眠りを破る早朝の奇襲。
準備もままならぬ状態で戦闘へと突入する。
悲鳴と怒号が交差する中、ジュリアスの冷静な指示が飛ぶ。
「落ち着け! 散らばるな!」
ジュリアスは、陣形を整えようとするが、後手に回った抗戦では、劣勢を否めない。
長引く激戦に仲間の疲労と焦燥を悟ったジュリアスは、オスカーに退却の合図を送る。
「オスカー! 一旦、退くぞ! 子供達の援護を!」
「了解しました!」
オスカーやヴィクトール達が年少者の援護に回るが、戦いながらの退却は困難を極めた。
全体の状況を把握しながらジュリアスは、すぐ傍で呪文を唱えるクラヴィスを常に捕らえている。
クラヴィスの繰り出す魔法は、強力な分体力を消耗する為、長時間の戦いには不利であった。
蒼褪め、肩で息を吐く姿が限界を知らせる。
このままでは、倒れかねぬ!
ジュリアスが危惧したと同時に、クラヴィスの身体は、グラリとよろめき片膝を付き、力が尽きたように大地へと倒れ伏す。
「クラヴィス!!」
気をとられたその瞬間、無防備になったジュリアスを背後に現れた敵が襲う。
「させぬ!」
咄嗟に剣で防御するジュリアス。
ジュリアスは、反撃の隙を与えられず、次々に襲い掛かる敵の攻撃をかわすのが精一杯だった。だが、
交戦の中、意識を失っているクラヴィスを襲う敵がいないことを確認し、安堵していた。
「ジュリアス様!」
他の守護聖がジュリアスを救おうと駆け寄るが、もう一歩の所で敵の攻撃に遮られる。
「しまった!」
何度目かの防御でジュリアスの剣が弾かれ、身体が地面に叩きつけられた。
「ジュリアス様!」「ジュリアス!」
仲間の悲鳴が上がる。
その悲鳴にか、恋人の危機を感じたのかクラヴィスは、意識を取り戻す。
…そして…
ここまでか!?
咄嗟に覚悟を決めたジュリアスだったが、敵の攻撃は訪れない。
目の前に立ちはだかるのは、見慣れた黒衣の衣装。
「…無事……か?」
クラヴィスは、安堵の笑みを浮かべて振り返った。
更に何かを紡ごうとした口元から吐き出されたのは、大量の血流。
「クラヴィス? …クラヴィス!!」
そのまま崩れ落ちる肢体を抱きとめたジュリアスの白い衣装が、瞬く間に鮮血に彩られた。
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