■永遠のはじまり■― 4 ― |
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この心の奥深くに何時の間にか生まれていた感情を、明文化する言葉をもたないと気付いたのは何時の日の事だっただろうか。 言葉にしてしまえば、「愛している」そのただ一言で事足りてしまうであろう心。 ……愛している。 言えば言うほど真実から遠ざかり、薄れていくようなありきたりの言葉。 けれどその感情を認めたその日から、もう迷うことを止めた。 ただ求めていた。その存在のすべてを。 狂おしいまでに、強く。 だからどんな卑怯なまねも、愚かしいと思う事ですら怖れない自分がいる。 一人の人間を争って守護聖同士が争うなど、愚の骨頂と以前の自分なら笑い飛ばしていただろうに。 けれど、譲れない思いが此処にたしかにあるから……。 ジュリアスは遠く夜空を見上げる。 聖地は今ごろ夜中だろうか。 会いたいと思う、強く。 いますぐにでも会ってこの思いを伝えたいと。 会ったところで思うままの言葉が告げられるとは到底思えなかったが。 こんな時期にさえ彼の傍にいられない自分を少し蔑んで知らず苦笑が零れる。 何をしているだろう……そなたは。 溜息を一つ吐き出して主星に戻るシャトルに乗り込む。 ……明日には会える。 聖地に戻ったら真直ぐにクラヴィスに会いに行こうと心に決めて、ジュリアスは深くシートにもたれ、目を閉じた。 翌朝、クラヴィスは、いつものように少し遅れて執務室へと入る。 机に無造作に置かれた書類を手に取り眺めていたが、ふと顔を上げた。 そう言えば…いつもならば小言なり戯れ言なりを言いに来るジュリアスが、昨日は姿を見せなかった。 何かあったのか…それとも……このような馬鹿げた事に興味を失ったか? それならば…それでもよいが……あのジュリアスがあっさりやめてしまうとも考えられぬな。 来たら来たで鬱陶しい思いをするが、姿を見せないのも気に掛かるものとは…我ながら奇妙なものだ。 クラヴィスは、苦笑を浮かべると雑念を追い払うように、再び書類へ視線を戻す。 「クラヴィス、……いるか?」 返事を待たずにジュリアスは扉を押し開ける。 そのまま部屋を横切るとクラヴィスに近づき、手にしていた書類を差し出す。 「昨日現地視察に行ったときのデータなのだが、そなたの意見が聞きたい」 あんなにも心に在った、会いたかったという気持ちを伝える前に、つい自然に執務のことが口に上る自分。 我ながら素直じゃないと思いながらもクラヴィスの瞳を覗きこみ、返事を待つ。 返答次第では、またその惑星に戻らなくてはならない。 ふと、好敵手であるオスカーの顔が思いうかぶ。 心を言葉にして伝えるのを怖れない、羨ましいほどに潔く自分の心に正直で情熱的な男。 そしてもっとも信頼する部下で友人でもある存在。 真直ぐに自分に挑んでくるオスカーの瞳。 だからこそ、負けられないと思う。 不要な気遣いなど、私達には無用なのだから。 彼のように自在に言葉を告げることが出来ないとしても、今出来るかぎりのことをしたいと願うけれど、これでは傍にいて思いを伝えるどころか、顔を見にくるのでさえ難しい。 ついさっきまで考えていたジュリアスの姿に、クラヴィスは思わず息を呑む。 「…視察?…それでか…」 ジュリアスが来なかった理由と姿を見せた事に少なからず安堵を覚えた。 それにしても…来た早々に執務か。ジュリアスらしい言えばそれまでだが、他に言う事はないのか。 他に言う事?……そう考えた自分に唖然とする。私は、ジュリアスに何を期待していたのか… 昨日のオスカーの毒気にでも当てられたやも知れぬな。 クラヴィスは、心の中で自嘲の笑みを洩らし、渡された書類を読み始めた。 見つめていた視線の先でクラヴィスの瞳が、少しだけ揺らいだように見えたのは気のせいだろうか。 ジュリアスは書類の字を追う少し俯いたクラヴィスの横顔を見つめる。 もう何の感情も窺い知れない完璧な無表情。 ……視察に出ていた事を驚いていたようだったが、すこしは私が昨日訪れなかったことを心配してくれたということなのだろうか。 そなたの事だ。会議にも出席していなかった故、私の視察を忘れていたのであろうな……。 「視察に行くと言っていなかったか?そなたの答え次第では、またすぐにもどらねばならぬのだが」 常に怠慢だ、怠惰だと小言を言うのは、クラヴィスの能力を知っているから。 仕事の面でも、最終的な判断に迷った時にはいつもクラヴィスに相談していた。 自分と同じだけの力を秘めているくせに、それを生かそうとしないのがいつも歯がゆくてつい口うるさくなる自分。 苛立ちだと思っていたものが、どうしても伝わらない思いのもどかしさ故と焦燥感だと気がついた時の驚き。 どうして、こんなにも求めているのだろう。……そなたという存在を。 |
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