闇の守護聖の執務室。
クラヴィスは、書面に走らせていたペンを止めると、壁に掛かる時計を見上げた。
「そろそろ来るか…」
待ち人を想うと、微かな笑みが浮かぶ。
今夜は、クラヴィスの誕生日を祝い、例年通り守護聖全員でパーティが開かれることになっていた。会場までのエスコート役として、迎えに来るのも例年通り光の守護聖ジュリアス。
ジュリアスとクラヴィス。互いの誕生パーティーでエスコートしあう二人の恋人関係は、表向き隠されているが周知の事実である。
しかし、彼らがプライベートを一切見せず語らない為、執務上対立が多く相容れない二人が恋人同士だと、はっきりと認識できるのは、それぞれの誕生日パーティーぐらいであった。
普段の険悪さが影を潜め、当然のように寄り添い談笑する様子は、好奇心旺盛な守護聖達の密かな楽しみになっている。
クラヴィスが書類の整理を終えた頃、不意に扉が静かに開かれた。
振り返ると扉の前には、予想通りジュリアスが立っている。
だが、二人でいる時の恋人の優しい顔でも、執務のように厳しい顔でもなく、落胆したような暗く沈んだ印象に、クラヴィスは、首を傾げざる終えなかった。ふと、一抹の不安が過ぎる。
「…何かあったのか?」
「今夜のパーティの事なのだが、急な執務が入った故、出席できぬ」
クラヴィスは、やはりとため息を洩らした。
「…そうか。執務ならば仕方なかろう…それで、何時までかかりそうなのだ?」
パーティーの後に、二人だけでもう一度祝う毎年の約束。
その時間だけでも過ごせればよいか…
クラヴィスは、気を取り直すと柔らかな笑みを向けたが、ジュリアスは、申し訳なさそうに視線を俯かせた。
「すまぬが…そなたの元にも行けそうにない」
「……そうか…」
ジュリアスの言葉にクラヴィスの表情が明らかに陰り、落胆を隠せない。
「せっかくの誕生日にすまぬ。先にこれを渡しておこう」
ジュリアスは、シンプルな包装に包まれた小箱を取り出し手渡した。
「ありがとう…ジュリアス」
「本当にすまない」
「…気にするな…今年の贈りものは、何であろうな?開けるのが楽しみだ」
負い目を持たせぬようにと、無理に微笑むクラヴィスをジュリアスは、すまなさと愛しさに強く抱きしめた。
「クラヴィス…誕生日を共に祝うことができぬが、私の想いは、常にそなたの傍にある」
ジュリアスは、クラヴィスの頬に手を添えると唇を重ねた。
熱を帯びたように徐々に激しさを増す口づけ。
呼吸もままならない状態に、クラヴィスの身体から力が抜けてゆく。
立っていられない…クラヴィスは、縋るように恋人の背に腕を回した。
情熱的な口づけがジュリアスの全ての想いを語っている。
ジュリアス…おまえも残念に悔しく思ってくれているのだな…
寂しさと切なさにクラヴィスは、心の中でそっとため息を吐く。
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