光につつまれた夜

Night which was wrapped up by the light



 首座不在の誕生日パーティーが始まった。
 クラヴィスは、平静さを保とうとするが敏感な同僚達の目を誤魔化しようもなく、何くれとなく声を掛けられている。
 クラヴィス自身せっかくのパーティーを自分の想いだけに捕らわれ、申し訳なく思っていたが皆が気遣えば気遣うほど、ジュリアスの不在を認識させられ、寂しくいたたまれない気持ちが募るのを止められなかった。

「ジュリアスも、愛しい恋人の誕生日くらい執務を放っておけばいいのにさあ。融通が利かないと言うか、生真面目過ぎよ」
「ジュリアス様は、執務を重んじる方ですから…」
「でも、年に一度の事じゃない?たまには、執務よりも恋人を選んでもいいと思わない?」
「ですから、そこがジュリアス様らしいと…」

 クラヴィスの両隣を陣取ったオリヴィエとリュミエールは、先程から堂堂巡りの会話を続けている。
 オリヴィエは、クラヴィスの寂しげな表情の元凶であるジュリアスへの非難が収まらない。リュミエールも同感であったが、恋人が非難されるのは、クラヴィスにとってもつらいのではと、ついジュリアスの擁護に回っていた。
 当のクラヴィスは、左右で展開される会話をぼんやりと聞き流しながら、せめてもの慰めにとマルセルが持ってきたカティスのワインを、ゆっくりと味わっている。

いつもは、私を満足させてくれるカティスのワインが、物足りなく味気なく感じるのは、ジュリアス…おまえがいないせいか?
わかっている…誰よりも責任感の強いおまえが、たかが誕生日くらいで大切な執務を疎かにできるはずもない事を。
それ故、おまえを責めはしなかったが……
本心は…今夜くらい共に過ごして欲しかった…私の我儘であろうな…




 その頃、ジュリアスは、聖殿の奥の間でスクリーンを見つめていた。
 映し出された惑星は、今まさに寿命を終えようとしている。予想されていた消滅だが、なかなか日時が確定されず、クラヴィスの誕生日だけは、避けて欲しいとの願いも虚しく、夕刻になって急遽研究院より、『本日消滅』との連絡が届いた。

 本来、惑星の消滅には、光と闇の守護聖が立ち会わなければならない。  闇のサクリアで安息な終焉を、光のサクリアで新たなる再生へと導くことが理であるからだ。にも関わらず、ただ一人光の守護聖だけがこの終焉を見守っている。
 ジュリアスがクラヴィスに伝えなかった理由は、いくつかあった。

 今回の惑星の規模が大きく相当量の闇のサクリアを送ることによって、クラヴィスの身体に少なからず負担を強いることへの懸念。
 既にこの惑星上には命ある者の存在は無く、仮に闇のサクリアを送らなくてもさして影響があるとは考えられない事。
 何より消滅していく星にサクリアを送る…生を断ち切る残酷な死神と化す務めを最も厭っているクラヴィス。

「私の不在に寂しい想いをさせても…一年に一度の祝福すべき誕生日に、そなたにつらく哀しい思いなどさせたくなかった。明日には、報告せねばならぬが…さぞ怒るであろうな」
 クラヴィスの怒りを思うとジュリアスは、苦笑を浮かべた。

 不意に緊急音が鳴り響く。同時に、コンピューターから惑星消滅のカウントダウンがコールされ、ジュリアスに緊張が走る。
「始まったか…上手くやらねばな」
 精神を集中させるとジュリアスは、消滅の波動が及ばないようにシールドの役目として、光のサクリアを惑星に注ぎ始めた。
 通常であれば、他の守護聖達と分担する役目を一人で行う事は、かなりの負担を背負う。 それをジュリアスは、承知の上でクラヴィスや他の守護聖達に悟られないように、細心の注意を払いながら、サクリアを注ぎ続けた。

  やがて、スクリーンから惑星が静かに消え失せ、コンピューターから消滅確認の報告がされる。
「終ったか…無事に済んで…よかっ…た…」
 絞り出すように紡がれる言葉、苦しげに歪められた唇から吐き出される荒い息、額に流れる汗、これらが如何に多大な負担であったかを物語る。
「今からで…あれば間に合う…かもしれぬな…」
 歩き出そうと一歩踏み出した瞬間、ジュリアスの身体がゆっくりと傾いた。

…クラヴィス…待っていろ…今行く……


NEXT


Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!