The love which it isn't possible
to finish giving up


 森の湖へ向う途中、クスクスと楽しそうな笑い声が聞こえた。
少女特有の少し高めだがやわらかい声。

  誰か一緒のようだが…相手は何処のどいつだ?
  女王候補をデートに誘うとは、なかなかやるじゃないか。

 芽吹いた好奇心を満たすべく、声の方向へ足を忍ばせた。
茂みから覗きこむと、大木にもたれ座るクラヴィス様と、寄り添うように座るアンジェリーク。

  二人の姿に眩暈が………悪夢だ……
  確かに女性にもてる方だ…密かに関係をもった相手も数多い…
  だが、分別のある大人の女性しか相手にしていなかったはず。
  それなのに…とうとう女王候補まで手を出しましたね…
  恋に恋する年頃の少女を…あなたって人は……

 アンジェリークの他愛ないお喋りをクラヴィス様は、時折相槌を打ちながら穏やかな表情で聞いている。

  普段無表情なくせに女性と二人だけだと、こんな顔を見せるわけか。
  どれだけ想いを告げても…俺には…無言で冷笑を浴びせるあなたが…
  俺との差があり過ぎですよ!
  まったく俺もやっかいな相手に惚れたものだ…

「もうすぐクラヴィス様のお誕生日ですよね?」

 アンジェリークの言葉に俺は、ドキッとした。まさかお嬢ちゃん…

「…その日は、何かご予定がおありですか?」
「特にないが…誕生日だからと言って何か特別な事があるわけでなし…」

 クラヴィス様は、いかにも興味なさげに答える。

「そんなの悲しいです!年に一度のことですもの…お祝いをさせて下さいます?」

 ほのかに頬を染めて、アンジェリークがおずおずと申し出た。

  やはり誕生日の誘いか…
  恋した相手の誕生日を祝いたい気持ちは、痛いほどわかるが…
  すまないな…お嬢ちゃん…すでに先約済みなんだ。

「私こう見えてもケーキ作りは、得意なんです!クラヴィス様のお好みに合うものを作りますから!駄目ですか?」
「誰かに祝ってもらうなど…記憶にない事だ」

 明るく言い放ちながら、不安な瞳が見えるアンジェリークをクラヴィス様は、優しい瞳で見つめ返す。

  ちょっと待って下さいよ!クラヴィス様!
  毎年贈りものをしている俺の立場は、どうなるんです?
  お祝いの言葉だって、一番に告げているじゃないですか!
  文句を言われながらも…いつも一緒に過ごしていた俺って…
  あなたは…俺の事を綺麗さっぱり忘れてませんか…

「感謝する…アンジェリーク」

 淡い笑みを見せるクラヴィス様にアンジェリークの顔は、真っ赤だ。

  恋する乙女心を思い切り刺激しましたね…
  それに感謝って事は、OKしたって事ですか!?
  俺との約束は…どうなるんですか……

 愛しい人に裏切られた現実に、目の前が真っ暗になる。



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