二人の夜は…



 口づけながらクラヴィス様の衣装に手を掛けた時、制止するように肩を押し返され、身体を離された。

「自分で脱ぐ」

 訝しむ俺に素っ気無く言うと、寝台を降りさっさと自ら脱いでしまう。
 ありがたいけれど、ムードがなあ…

「一枚一枚脱がして、露になっていく過程が好きなんですけど…」
「馬鹿馬鹿しい。女性じゃあるまいし、男に脱がされるなどぞっとする」

 これから、脱がされる以上の事をやろうとしているのですがね…
 わかってますよね?

 ブツブツと言っている間に、クラヴィス様が寝台に戻ってくる。
 惜しげもなく裸体を現した肢体は、明らかに女性のきめ細かい柔らかい肌と違う。骨格や筋肉のつき方が、確かに男だと見せ付けた。
 綺麗な顔をしていても同じ男なんだなあ、妙な感心をしてしまう。
 だが、白い肌に纏わりついている黒髪のコントラストが…そそる。
 触れたくて手を伸ばすと辿り着く前に、叩き落された。

「痛いじゃないですか!」
「おまえは、やる気がないのか?」

『やる気があるから、触れたかったに決まっているでしょう!』と、言いたかったが、どうやら俺が服のままでいることがお気に召さないらしい。
 それもそうか…
『おまえもさっさと脱げ!』と、言わんばかりに睨みつけられる。

「申し訳ありません。少々お待ちを」
「早くせねば、気が変わるやもしれぬぞ」

 クラヴィス様は、ニヤリと意地悪い表情を作った。
 この方なら実行するよな…
 それは、困ると大急ぎで寝台で服を脱ぎ捨てた。ムードなんてあったものじゃない。甘い言葉を囁きながら段階を踏んでと、シュミレーションしていたのに、言い様に遊ばれてる感じがするぞ。
 このままじゃ、男としての矜持が…リベンジあるのみ!


 重ね合わせた身体。
 俺の頭を抱えるように深く口づけてくるクラヴィス様。
 角度を変え厭きることなく口づけを交わす。
 クラヴィス様は、行為に(女性限定だが)慣れているし…上手い。
 だからって、リードを取られっぱなしってのは、癪に触る。

 身体を少し浮かせると、クラヴィス様の下半身に手を伸ばし、そっと触れる。一瞬ビクリと身体が震えたが、すぐに力を抜き俺がやりやすいようにと、脚を軽く広げ受け入れてくれた。
 まあ、これは女性相手でもやってくれることだろうから、抵抗もないんだろうな。羞恥に頬が染まり震えるクラヴィス様も…グッとくるのだが…無理だろうな。
 指を巧みに動かし高みへと導けば、俺の与える快感に瞳を閉じ、素直に身を委ねている。
 愛の言葉もこれくらい素直に言って下さればと、つい思ってしまう。

 忙しなく荒くなる呼吸、俺の腕を掴んだ指に力がこもる。

「オスカー…達…く」
「指と舌のどちらがお好みですか?お好きな方で達かせて差し上げますよ」

 途端にクラヴィス様は、さっきまで見せていた快感に悶える姿を忘れ去ったように、俺を足蹴にする。さすがに力が入らないのか痛くないが、そんなに怒らなくても…
 意地悪で言ったのでなく、慣れているなら好みがあるだろうと思っただけの事なのに。

「おまえのを試してもいないのに答えられるか!」

 クラヴィス様…それが怒った理由ですか…
 なるほど…人には得て不得手がある。それぞれの得意な方でやってもらっていたわけか。

「これは、失礼。好みに合わせようと思ったのですが、俺のテクニックがあなた好みじゃない可能性に、気付きませんでした。ぜひ両方を味わって下さい」
「じっくりと吟味してやろう」

 挑戦的な視線を投げられると、俄然と燃えて来る。

 一度目は指で、二度目は口でどちらも散々焦らせて達かせた。
 途中、『早く達かせろ』『いい加減にしろ』と喚かれたが、無視して俺のやりたいようにしてしまった。
 感じたままに出される喘ぎ、身体をうねらせよがる様子が艶があって、簡単に達かせてしまうのが勿体無くて。
 さて、評価はどうだろう…どちらも同じくらい良さそうだったが。

「ご満足頂けましたか?で、どちらがよかったです?」

 クラヴィス様は、髪を掻き上げながら身体を起こすと、不機嫌に俺を見つめる。

「よかったと言ってやりたいが。言い忘れた私も悪いが焦らされるのは、嫌いだ。疲れたぞ」
「これからなのに体力のない。いつもはもっと疲れる事をしているでしょう?」

 動く方が疲れるに決まっている。
 それとも、動いてもらっていたのか?ありえる…
 押し黙ったところを見ると、どうも俺の考えがあたっているようだな。
 自分は、楽をして楽しむか…あなたらしい。

「…おまえは、どうしたい?どちらがいいのだ?」

 都合が悪いと話題を変えたのか、あなたの姿だけで充分反応してる俺を気遣ったのか……でも、いい質問だ。あなたに達かせてもらえるのは、魅力的だが俺の答えは、決まっている。

「もちろん、あなたの中で」
「…そう言うと思った」
「予想を外しては、申し訳ないでしょう?では、本番にいきましょう」

 俺の言葉にいかにも渋々って感じの嫌そうな顔って…覚悟を決めたわりには往生際の悪い。
 それもまた楽しいか…俺は、嬉々としてクラヴィス様を押し倒すとうつ伏せた。


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