二人の夜は…



 背筋から徐々に舌を這わせ下ろしながら、双丘へと辿り着く。
 舌を差し込もうとしたが、硬く閉ざされた入り口に行く手を阻まれた。

「力を抜いて下さい。これでは、指一本入る余地ないですよ」
「…気軽に言うな……」

 クラヴィス様が息を吐きながら力なく呟く。
 それでも何度か力を抜こうと試みられたが、身体は正直だ。
 さすがのこの方も緊張して、力が自然と入ってしまうのか。
 でも、少しは力が抜けてきたかな?
 後は、俺がほぐして差し上げましょう。

 唾液で濡らした指をまず一本。抵抗なく入る。
 狭いのは、入り口だけで中は案外広い。内壁に沿うように進め、ポイントを探るように少しづつ移動させながら、緩慢に動かし始めた。
 クラヴィス様の反応を伺い見ると、不快感にだろうか、シーツを両手で握りしめ耐えている。ビクリと震える度に背から黒髪が流れ落ちるのが…色っぽいよな。背後だと表情が見えないのが残念だ。

「あっ…」

 その場所に来た時、反応が返る。見つけた…
 腰を片手で抱き寄せ、指を増やしながら上下左右に激しく動かす。勢いを取り戻すクラヴィス様の雄。

「オスカー!」

 自分の身体の反応が信じられないような、認めたくないような、問い掛けるように、責めるように俺の名を呼ぶ。

「大丈夫ですよ。このまま感じていて下さい。もっと気持ちよくなりましょう」

 指先が白くなる程強く握りしめられたシーツ。
 四つ這いになり、腰だけを高く上げた淫らな姿勢。
 時折、悲鳴のような嬌声を上げ、上体を弓なりに反らせ頭を振る。
 俺の指に翻弄されるクラヴィス様ってのは、いいよな。今までやられっぱなしだったのが、ようやく俺の手に落ちて来た気分だ。

 充分に柔らかくほぐしたところへ、両手で腰を抱え己を突き入れた。
 クラヴィス様の声にならない悲鳴が口をつく。
 無意識に逃げようとする身体を押さえつけ、容赦なく一気に全てを咥え込ませた。初めての相手に無茶かなと思わないでもないが、この方なら大丈夫だろう。

 クラヴィス様は、首をめぐらし俺を見ると、非難の目を向ける。

「……少しは…加減しろ」
「おや?普段から女性扱いするなと言われるあなたらしくない。少々の事では、壊れやしないでしょうに。そのうちに慣れますよ」

 やはり加減すべきだったかな…と思ったが口には出さず軽口で答えた。

「慣れる…これにか。……やはり…理不尽だ。私だけが痛い目に合うのか」

 額に冷や汗が滲むほど痛みを我慢しているのに、口だけは達者だな。

 それにしても、理不尽って…俺だって締め付けられてかなり痛いんですがね。でも、これを言うときっと『おまえは、後で気持ちよくなるであろう!』とか返されそうだ。その通りですが…
 まあ、クラヴィス様の気持ちもわからないでもないし、妥協してもいいのだが。

「あなたがお嫌なら、別に逆でもかまいませんよ。俺を抱いてみます?」
「やめろ…想像すると萎える」

 俺の提案に心底脱力したような口振り。つられるように、身体の方もいい具合に力が抜けてきたな…もう少しか。

「あなたを気遣ってみたつもりなのですがね」
「…考えたくもない。おまえ相手に勃つものか」

 あんまりな言い草じゃないですか…しかし、抱こうとしては勃たなくても…こっちじゃ勃つわけか。
 意地悪承知でクラヴィス様のものを撫で上げた。

「ほう…これは?」
「あっ…」

 短い喘ぎと共に俺の雄が締め付けられる。

「ちゃんと勃ってるじゃないですか?」
「馬鹿者!状況が違うであろう!」
「俺相手に代わりませんって」
「全く違う!」

 大声を出すほど益々、俺を締め付けた。いい感じだ…尤もこんな体位で言い争うのは、傍から見ると滑稽だろうが…
 さて、痛みも薄らいだようだし、俺も我慢できん。ぼちぼち本格的に動くとするか。

「自分で振っておいてなんですが、その話題は、おいといて…そろそろいいですか?あなたの中で暴れたい」
「確かに…こんな時に言い争う事もない。だが、暴れる前に体位を変えろ。おまえの顔が見える方がいい」

 あっさりと同意してくれるのは、嬉しいが…意外な事を言われるな。てっきり顔を見られるのは、嫌なものだと思い込んでいた。抱かれる側に立つ嫌悪感や羞恥は、ないって事か?

「よろしいので?」

 思わず確認をしてしまう。

「おまえが見たいのは、変か?顔を見ている方が安心できるだろう?」
「俺に見られる事に抵抗があるかと…」
「馬鹿馬鹿しい。おまえに隠さねばならぬ事があるとでも?」
「クラヴィス様…」

 プライドの高いこの方が…どんな表情でも声でも、俺だからすべてを見せてもいいと思って下されたのか。感動して、背後から抱きしめたが、すぐにその腕を叩かれた。

「いいから抜け!このまま位置を変える気か?」

 即座に動かない事に焦れたのか、俺の腕や楔から這いでるように自ら抜け出した。そして、残った痛みに眉をしかめながら身体を仰向けに反転させ、上目遣いに呆れたような瞳を向ける。

「おまえも大概我慢の効く奴だ。自分の快感を求めぬのか?先程にしても軽口をたたきながら、私が慣れるのを待っていただろう?」
「どうせなら互いに気持ちいいほうがいいでしょう?何年も待っていたのですから…あの程度僅かな時間に過ぎませんよ」

 しっかりとばれていたか…でも、待ち望んだ関係だから大事にしたい。我慢させるだけじゃ気持ちよくならないからな。

「おまえらしい。もう、気遣わずともよいから来い。それとも、おまえが欲しいと言わせたいか?」

 『欲しい』としっかりと言って下さってるじゃないですか…可笑しそうに笑みを浮かべるあなたは、気付いているのか…きっと確信犯だよな。
 理不尽だと文句を言っても俺を拒絶しなかった。一方的な欲求じゃなく、互いに望んでいると再認識させてくれる台詞。

「あなたが欲しがらなくても、俺が欲しい」

 クラヴィス様の両膝を脇に抱え、今度はゆっくりと侵入した。一回目の反省と優しくしたい気分ってやつかな。
 先程のような衝撃はないようだが、唇を噛みしめ俺の腕を掴む力は強い。すべてを咥え込ませると、労わるように身体を倒し抱きしめる。

「大丈…夫だ…動け……オスカー」
「つらかったら、言って下さい」

 背中に回された腕と声に誘われるように、律動を始めた。



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