我が手に在りし[2]

我が手に在りし


宇宙が望んでいるのは、惑星の消滅か…それとも守護聖の死?
一人でも守護聖が欠ければ、宇宙の均衡が崩れ…崩壊するのみ…
それこそを望んでいるのであろうか?
だとすれば、惑星『シュラム』の消滅は、死への前奏曲…予め決められたこと。
オスカーも惑星も救う事は、できぬ。

オスカーを救い出す事が、宇宙の意志に反しているのなら
本来死すべき者を救う事で…後の未来に影響を及ぼすやも…
ならば…運命を……受け入れねばならぬ。

『吊るされた男』とは、運命に逆らえぬ私自身のこと…


凍てついた私の心を…熱い炎で溶かし…温めてくれたおまえ…
闇の中で…もがき苦しんでいた私を…救い出してくれたおまえ…
そのおまえを私のサクリアが…私自身が殺すのか……
私が死を与えても…おまえならば…笑って許すだろう…
だが、愛しい者を失っても本当によいのか?

『クラヴィス様…愛しています…』

おまえの声が聴こえる…私も愛している…
今ならば、助けられるかもしれぬのに、運命だからだと簡単に諦めてもよいのか?
自分一人の我儘で宇宙の黄金律に背き、定められた歯車を壊してもよいのか?
相反する心が重く圧し掛かる…私は…どうすれば……


『クラヴィス様…運命とは、自分自身で切り開いていくものです。
自分の心に正直になり、本当に求めるものをこの手に掴む。
他の者にどうあれ、自分にとって必要ならば…俺は、逆らっても手に入れてみせます。 それが自分にとっての運命だと信じるから…』

おまえは、傍に居ずとも語りかけてくれる。
私も自分の心に正直になろう…失いたくない…救いたい……これが真実…望み…
おまえだけが私のすべて…おまえを失うことは…私の心の死…
ならば、抗ってみせよう。おまえの死が…たとえ運命であったとしても…
宇宙に背いた大いなる罪も下される罰も…私一人が受け入れればすむこと…
オスカー……おまえの強さを私に……



「この時期に『シュラム』へ行くだと!?そなたは、何を考えている!」
「私の我儘だ……失いたくないのだ」

『シュラム』行きを告げた途端に、ジュリアスの怒鳴り声。反対される事は、覚悟の上だが…こればかりは、決して譲れない。
決意を込めて、真っ直ぐにジュリアスを見つめる。

交差する視線を先に逸らしたのは、ジュリアスだった。
大きくため息を吐くと、再び私を厳しい表情で見る。

「わかった…許可しよう。但し!サクリアの乱調の原因を探り、オスカーと共に必ず戻れ!」

オスカーと共に戻れか…私の気持ちを理解してくれたらしいな…

「元より、そのつもりだ。そうでなければ、意味がないのだから…」

私の言葉に、ジュリアスは、皮肉げな笑みを浮かべる。

「流されるべき運命を堰き止め、抗ってみるか……そなたにしては、前向きな姿勢だな。それもよかろう」
「このような運命は、認めぬ。宇宙が認めてもな…」

そう…認めぬ。私からオスカーを奪う運命など!救い出してみせる!

「では、せいぜい足掻いて見せよ。だが、手におえぬなら、いつでも我らを呼べ。そなたにしろオスカーにしろ…替わりはいないのだ。忘れるな!」
「…ジュリアス」

真摯な瞳の奥に、おまえの憤りを感じる。 おまえも仲間の危機に本当は、動きたかったのかもしれぬな。この運命を認めぬのは、一緒だと言う事か…

「陛下には、私からご報告しておく。時間が惜しいであろう…さっさと行け」
「必ずオスカーと共に帰る…約束しよう。行って来る」

嘘や妥協を好まぬおまえとの約束。これを果たすために私は、帰ってくる。

「その約束を違える事は、許さぬぞ!」

ジュリアスに頷くと踵を返し、次元回廊へと急いだ。

オスカー…今…おまえの元へ……

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