我が手に在りし


『知りたいか?この男が篭絡されていく様を見せてやろう」

言い終えると同時に、脳裏に映像が送られてきたと同時に、いたたまれない嫌悪感に堪らず口元を覆う。

「なっ!……これを……オスカーに……」
これは…おまえの最もつらい記憶……オスカーにそのまま映したか……


数人の男に次々と陵辱される私の姿を見せ付けられるオスカー。
泣き叫び助けを求める己。
― オスカー!オスカー!―
「これは本当のあなたじゃない……俺のクラヴィス様じゃない!」

本物でないと理解していても感情が追いつかないのかオスカーは、唇を噛みしめる。

― オスカー!助けて!―

偽の私がオスカーに向って手を伸ばす。ハッとしたようにその手を見つめたオスカーは、苦痛に歪む顔を背けた。

場面が変わり、男達の姿が消えている。
恨みがましい視線を向けられ、オスカーがつらそうに目を閉じる。

― どうして…助けてくれなかった?私は、おまえに裏切られたのか…… ―
「違う!本当のあなたなら助けました!」
― おまえを愛していたのに… ―

直後、いつの間にか握った短刀を首筋に当て、一気に引き下ろす。
…迸る血飛沫…

「クラヴィス様!!」

咄嗟にか、オスカーが駆け寄って行く。

― ようやく…来てくれた ―

血溜まりから偽の私を抱き起こした瞬間、黒い影がオスカーに溶け込んだ。


姿かたちが同じでもあれは、私ではないのだぞ!
あれが私でないと理解していても…目を塞ぐ事ができなかったのか…
おまえが心を向けるのは、私一人だけでよいものを…
怒り、悔しさ、愛しさ、様々な気持ちが入り乱れる。
落ち着けるように深く息を吐くと、残忍な笑みを浮かべるオスカーの姿を見つめた。

『おまえの恋人は、偽者であっても救おうとしたようだ。おまえと違ってな』

その言葉にハッとする。昨夜現れたあの偽のオスカーは、彼の仕業か…

「私の身体も乗っ取ろうと考えたのか?何のために?」
『知れた事。炎のサクリアの役目は終り、次は闇のサクリアの出番。俺の手でシュラムに引導を渡してやるためだ!』

声高に楽しげにさえ聞こえる声。

炎のサクリアを使えたことで、私のサクリアをも可能だと考えたか……
守護聖は、自分のサクリア以外を操る事などできぬものを。
自分が炎の守護聖だと知らぬのであれば無理もない。
使えぬ事、聖なる存在であった事で何か変化があるだろうか…
危険な賭けかもしれぬが…真実を告げてみよう。

もう一度深く息を吐くと、決意を込めて真っ直ぐにオスカーを見据え淡々と告げる。

「身体を明渡したところで…私のサクリアは、使えぬ。炎のサクリアを使えたのは、おまえ自身が本来持っていたからだ。おまえは…炎の守護聖となる者だった…」
『馬鹿な!?俺が守護聖だと?』
「本当だ。そうでなくば、サクリアを使うことなどできぬ」

驚きに目を見開いていた顔が不意に、狂ったように笑い出した。

『ほう…面白い。では、俺に闇のサクリアが使えず、おまえ自身も使う気がないと?』

笑いを収めると、怒りの篭った視線を向け確認するように問い掛けてくる。

『最後の仕上げができないのか…いや、一つだけ手がある。おまえが死ねばいい!身体を裂きサクリアを放出させてやる!』

オスカーの意志に関係なく身体が…剣が私を殺める?
腰の剣を引き抜き刃を私に向け、一歩一歩、ゆっくりと歩み寄って来る。
聖なる存在であったこともおまえには、何の感慨も与えぬか…もはや彼の内には、復讐と破滅以外考えられぬのか…
彼が近付くにつれ、悪しきサクリアに包み隠されていた本来のサクリアを、微かに感じるようになった。 彼の内から発せられるそのサクリアが強さが増している?
オスカーが抵抗しているのか?ならば大丈夫だ。私を傷つけるはずがない!
それを感じると後退ろうとした足を踏み止まらせた。
剣が振り下ろされるのを目を逸らさずに見つめる。
信じている…オスカー……

笑みを浮かべながら、振り下ろされた剣が不意に引力に逆らうように止まった。
オスカーの顔が身体が苦痛に歪み、一つの身体から二人の声が重なるように発せられる。

『この男…抵抗する気か!忌々しい!』
「やら…せる……かっ…俺を…なめるな!」

苦しげに絞りだすような声、私を見た瞬間の優しい眼差しは、オスカー自身だ。
自分の身体を取り戻そうと、懸命に私を守ろうとしてくれている。
今は、私のオスカーだ…ようやく…会えた。
ふらつく身体を床に置いた剣で支えるように立つオスカーを、両手で抱きしめる。

「オスカー!」
「…クラ…ヴィ…ス様……」

オスカーは、剣を放すと両腕で私を抱き返す。私を見つめる瞳には、申し訳ないとでも言いたげな自嘲の色。

「俺が不甲斐ないばかりに…あなたを危険な目に……」
「言うな。こうしておまえに会えた…おまえが生きている…それだけで……」
「偽者だとわかっていても…俺には……」

私の肩に顔を埋めると、許しを請うように強く抱きしめる腕。

おまえの弱点が私…だといつか誰かが言っていた。
同じ姿、声だけで情を移してしまう…敵であっても傷つけることができないだろうと。
私としては…複雑なのだが…これがおまえの愛し方なのだな…

「わかっている。しかし…この代償は、高くつくぞ?覚悟しておくのだな」
「あなたが許して下さるのであれば、いくらでもお付き合い致します。酒でも…」

途中で言葉を切り、オスカーが項垂れていた顔を上げた。
そして、神妙な顔つきでなくどこか悪戯っぽく笑みを浮かべ、耳元に囁く。

「もちろんベッドでもね」
「…おまえは…この状況で……」

肩を震わせ可笑しそうに笑うオスカー。その立直りの早さに、呆れてしまう。
だが、自責の念に駆られるおまえの姿を見るよりは遥かにましか…

「…オスカー」

この一言でおまえは、私の望みを叶えてくれるだろう。

「クラヴィス様…」

真顔になったオスカーが私の顎を捕らえ唇を寄せる。
そう…おまえからの口づけが欲しかった…
口づけに応えながら、想いとサクリアを込めておまえの内に注ぎ込む。
おまえの疲れた身体と彼の魂の安らぎを祈って……



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