あの夜以来、欠かさずあの星を見つめる日々。
日を追うごとにその輝きは増すばかり。
そして、まるで比例するように頻発する地震、安定しない天候、枯れ果てようとする大地。
これらは、均衡の崩壊を意味する。すなわち…女王の力の衰え……
では、新たなる時代の予兆と感じたあの星の意味は?
「クラヴィス!そなた、私の話を聞いているのか!?」
ジュリアスの怒鳴り声にはっと顔を上げると、他の守護聖の視線が私に注がれていた。
今は、会議の最中であったな…思考に入り込みすぎていたか…
「その顔では、聞いていなかったようだな」
剣呑な表情を浮かべるジュリアスの隣で、オスカーが心配げな瞳で私を見つめている。
「宇宙に関わる重大な話をしているのだぞ!そなたの態度は」
「ジュリアス様!お話の続きを…」
ジュリアスの非難から私を庇うように、オスカーが口を挟んだ。ジュリアスは、オスカーに鋭い視線を向ける。
「オスカー…そなたは……まあよい」
ジュリアスは、何かを言いかけたが時間の無駄とでも考えたのであろう。周囲に視線を向けながら本題を告げた。
「陛下は、早急に女王試験を行うことを決断された」
「女王試験!?」「女王陛下が交代されるのか!?」
口々にざわめく周囲…大半の者が初めて立ち会う女王交代と神聖なる試験に、戸惑を隠せないようだ。
「静粛に!本来は、二人の候補を聖地に召喚し、現女王が見極め指名するものだが、今回は、違う。女王候補に惑星の育成を行わせ競わせることで、優劣を決めることになった。よって、我ら守護聖のサクリアも必要とされる。我らの新たなる女王を選ぶ試験だ。女王候補に協力し、厳粛な気持ちで試験に臨むように。以上だ」
ジュリアスは、会議の終了を告げるように立ち上がり、私を一瞥する。
「クラヴィス、今までのような職務怠慢な態度は、控えるように」
一言言い残し、オスカーを従え部屋を出た。オスカーは、私を気にするように何度か振り返ったようだが…
私は、その姿を追うことなく椅子に深く座りなおし両肘をつく。
「…女王試験…か」
女王の交代…新しい時代の到来…星が……来る………
私からオスカーを奪う者。新たなる時代の統率者が…だが、女王に恋は禁忌のはず。
時代を担う者と守護聖では、成就できぬ運命…かつての私と…彼女のように……
もしかすると…私は、失わずにすむのだろうか?
ほどなく二人の女王候補が聖地に召喚された。名門貴族の流れを汲むロザリアと
そして…金の髪の女王候補アンジェリーク。
全身から強い輝きを放つ澄んだ瞳の少女…
一目でわかった…あの夜に生まれた星だと……
寝台の枕に背をもたせ、ぼんやりと宙を見つめていると、扉が開き、入浴を済ませたオスカーが姿を現す。
「何を考えておいでですか?」
「別に…」
オスカーは、私の隣に座ると肩を抱き寄せた。
「昼間、あの金の髪のお嬢ちゃんを熱心に見ておいでのようでしたが…妬けますね。まさか…気に入ったとか?」
「戯れ言を申すな…女王になるやもしれぬ娘に興味などない」
そう…おまえを奪う者など…気に入るはずがない…
「…おまえは…どうなのだ?気になるか?」
運命に結ばれているおまえと彼女なら、惹かれあうものがあってもおかしくない。探るように問い掛けてみた。
「そうですね。俺としては、もう少し育ってくれた方がいいですね。尤も俺には、あなた以外見えませんが」
「…そうか」
あっさりと否定するオスカーの嘘偽りのない瞳に安堵を覚える。
「安心しましたか?」
「…何にだ?」
見透かされたのかと動揺する心を隠した私の答えに、オスカーは、肩を竦め苦笑を浮かべた。
「俺の浮気を心配して下されたのかと思って喜んだのに…」
「馬鹿なことを…」
「俺にとっては、馬鹿な事ではないのですが…」
一瞬陰ったオスカーの瞳。小さく吐かれたため息。
その名を呼ぼうとしたが、深い口づけが遮った。
オスカーは、口づけながら引き込むように私を押し倒す。
息が苦しくなる頃、ようやく唇が離れ、真摯な瞳が私を見つめる。
「愛しています。あなただけを」
私の返事を待つような沈黙…だが返らない答えに、オスカーは淋しげな表情で目を伏せた。
…愛している…おまえを愛している……心の中で何度も答えてもオスカーには…届かない。
言葉にすれば…おまえは…行かぬのだろうか?