「痛っ!」
不意に訪れた身体の衝撃に目を見開いた。目の前でジュリアスが濡れた衣装を脱いでいる。
いつの間にか邸内に自分の寝台に寝かされ…正確には、放り投げられていた。
いったい…あれから、どれほどの時間が経ったのであろうか?
髪や衣装にまとわりつく雨の雫がシーツを濡らしていく。
何も考えたくない…ただぼんやりと天井を見つめ続けた。
「そなたの無気力さに拍車が掛かったな」
忌々しそうにジュリアスが話し掛けるが、答える気力も意志もない。
私のことなど…放っておいてくれ……
寝台の軋む音…ジュリアスが寝台に上がったのか?
視線を移すのも億劫だ…
「そうやって心を閉ざし何も見ぬつもりか?生憎と私がいる限り、そのような事はさせぬ」
衣装を脱ぎ捨てたジュリアスが、覆い被さってくるのを他人事のように見つめていた。
唇を塞がれ、舌が差し込まれ、呼吸が出来ないほどの深い接吻。
無視したいのに、何も感じたくないのに…息苦しさが現実に引き戻そうとする。
身体を押しのけようと、もがいても力で敵わない。
苦しい…頭が朦朧とした頃、ようやく唇が離され、大きく咳き込み、酸素を求めた。
喘ぐように何度も咳き込む私を意に介した様子もなく、ジュリアスは、私の衣装を剥ぎ取っていく。
何が起こっているのか認識出来ない。しようとしないだけか…必死で現実から目を逸らそうとした。
私を引き戻すな!このまま闇に沈ませてくれ……誰も私の心に触れるな…瞳を閉じて全てを拒絶する…
不意に激しく頬を叩かれ思わず瞳を開けた。ジュリアスが冷徹な瞳で見下ろしている。
「何も見ぬならその瞳をこじ開けてやろう。感じぬなら感じさせてやろう。肉体の痛みを無視することは、早々できぬからな」
言い終えると同時に、両脚を開かれ、何の準備もなくジュリアスの怒張が身体を貫いた。
「!!ああーー」
気の遠くなるような痛みに悲鳴が止まらない。
突きつけられた痛みが、一気に現実へと覚醒させた。
繋がれた部分の鋭い痛みと滑り…血が流れを感じる。
オスカーならば、こんな抱き方はしない。いつでも優しく、私を愛してくれた…助けて…オスカー……
「オスカー!オスカー!」
「幾度呼んだところでオスカーは、来ぬ。あの者は、すでにそなたのものではないのだ!諦めるのだな」
ジュリアスが私を揺さぶりながら、冷たく言い放つ。
わかっている!だからと言って、何故おまえが…このようなことを……
「何故、私をこのような目に合わすのだ?それほど私が憎いのか?」
「そなたがそう感じるのならば、そうなのであろうな」
感情の読み取れない表情…私の全てがおまえを苛立たせるのか?だから、憎い?では、庭で見せたおまえの優しさは、何だったのだ?同情?
思考は、不意の激しい突き上げに停止する。
「ひっ!あっ…ああ!」
「何も考えるな!今は、この痛みだけを追え。それだけが…」
「痛っ…あああーーー」
ジュリアスの台詞は、痛みに泣く自分の悲鳴に掻き消された。
痛い…苦しい……それだけしかもう…脳裏に浮かばない……
ジュリアスの手や指が、私の胸を…勃ち上がったものに濃い愛撫を与え…痛みから快感へと変貌する。身悶えせずには、いられない疼きに忘れていた己を取り戻してしまう。
あのまま…何も分からなければよかったのに……
…この見苦しい痴態を意識せずにはいられない…
上げたくない声を上げさせられ、激しい動きに翻弄され、ジュリアスを抱きしめるようにしがみつく自分。
私が思考に捕まりかければ、ジュリアスが容赦なく深く抉る。
「う…はぁ……」
「クラヴィス…何も考えるな!私だけを感じていろ!もっと乱れろ!」
「あぁ…ああ…」
今、私を支配するのは、痛みでなくジュリアスのもたらす快楽…
その狂いそうな甘い感覚に心を乱され、オスカー以外の手に堕ちた己が忌まわしくて…意識を手放したいのに……
その度に…許さないとばかりに、突き上げられる。
何度もジュリアスを受け入れた疲れきった身体は、人形のようにされるがままに力なく揺らぐだけ…
「もう…いや……だ」
掠れた声を絞り出す…朦朧とする中でジュリアスの声が囁くように響く。
「………………………」
嘘だ…そのような事…信じられぬ……おまえは…何を言っている?
「………………………」
私の望みは……
「………………………」
おまえが…叶えてくれると言うのか?本当に?
「………………………」
ならば…約束してくれ…その約束…違えるな……
意識を手放す最後の瞬間、ジュリアスの優しい微笑を見た気がした。
おまえでもそのように笑えるのだな……
+++
「起きろ!クラヴィス!起きぬか!」
聞き慣れた声に覚醒を促される。ジュリアスの声?ここは、私の寝室では?
重い瞼を無理に開かせば、目前に身支度を整えるジュリアスの後姿が…髪の合間から見えるその背中には、赤い数本の線…爪の跡?
「痛っ!」
身体を起こしかけ、鋭い痛みに小さくうめく。この疲労と痛みは何なのだ…
身覚えのある…だが、しばらく遠ざかっていた身体の痛み…まさか…
昨夜の記憶が途中から、ジュリアスの前で醜態を晒した後からが曖昧ではっきりとしない。
だが、所々にジュリアスの体温ともたらした痛みを思い出す。
陵辱された現実に、信じられない…信じたくない…唇を噛みしめ…ジュリアスの背中を見つめた。
光たるおまえが私を更なる闇に突き落とすのか!
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