狂風



 リュミエールは、深夜にまで及んだ執務を終えて、宮殿の廊下をぼんやりと歩いていた。ガタガタと鳴り震える窓ガラスに、ふと足を止め外を眺める。
 星ひとつ見えない暗黒の夜空、風が益々激しさを増し、轟音と共に花々が散らされていく。


 聖地だというのに、この荒れ狂う風の強さはどうしたことでしょう?
 まるで何かを求め、得る事ができない苛立ちを表しているような…
 そう、今のわたくしの心そのもの…
 狂おしいまでにあの方を欲する歪んだ愛情…

 あの方を一目見た瞬間から、その彫像のような美しさ、深く沈んだ虚無のようなまなざしに惹かれ、恋焦がれ…
 あの方を覆う闇を少しでも癒して差し上げたくて、ずっとお傍にあったのに……
 選ばれたのは、オスカー。
 司るサクリアの力そのままに力強さと情熱を持った男。


 気が付くと、いつもの習慣のままに、クラヴィス様の執務室の前に立っていた。
 主のいない執務室などに用はない。
 去ろうとした時、室内から微かな物音が聞こえる。
 まさかと思いながら、ノックをすると確かに、クラヴィス様のお声が。
 室内には、主が窓際に立ち、わたくしを見ている。
 訝しげな表情、まるで『何故、おまえが来る?』と非難されているような。しかし、その表情も一瞬…いつもの無表情になってしまわれた。

「リュミエールか…どうした?」
「通りかかりましたら、物音が聞こえたものですから」
「…そうか」
「クラヴィス様こそ、こんな深夜にまでどうなされたのです?」
「帰りがけに、ジュリアスから書類を渡された。明日までに仕上げろと」

 微かな苦笑をたたえるクラヴィス様。普段の無表情からふと表れる内面に、胸の動悸が速まるのを感じてしまう。

「そうでしたか…お疲れになられたでしょう?」
「さすがにな…」
「お屋敷まで、お送りいたしましょうか?」
「かまわぬ」

 クラヴィス様が躊躇なく断わられる。
 先程の人を待っていたような表情は、あの男を?

「…オスカーが来るのですか?」

 クラヴィス様の答えは、なかった。だが、恋人の名に一瞬微笑まれた…その愛しげな表情。
 わたくしには、決して向けられる事のないその微笑。
 自分の中に何かが生まれる。
 それがオスカーへの嫉妬なのか…振り向いて下さらないクラヴィス様への苛立ちなのか…

 いますぐ、この方を陵辱したい。
 自分の下に組み敷いて、心ゆくまで犯したい。
 男の本能が疼きだす。
 このような機会は、二度と来ないかもしれない。これは、神がわたくしを憐れに思い、与えて下さった時間なのだろうか。
 ならば、これは、神も許されたこと。

 微かな忍び笑いと共に、クラヴィス様に近付いた。



 リュミエールが微笑みながら、近付いてくる。
 その表情は、明らかに普段のものとは違う。思いつめた瞳の奥に見え隠れする、残忍な刃のような欲望の眼差し。
 体中が悲鳴を上げたような危険を知らせるが、まるで射竦められたように一歩も動くことができない。
 
 −決して、リュミエールと二人きりにならないでください!−

 日頃から心配性の恋人に、言われた事を思い出す。
 子供じみた独占欲の現れかと、一笑に伏した自分の迂闊さを思い知る。
 オスカーは、リュミエールの狂気じみた想いの強さを、感じ取ったからこそ、忠告したであろうに。何故もっと耳を傾けなかったのか…
 否…私は、想いを知ったうえで、信じたかったのだ。
 この者が私を裏切るような真似をするはずなどないと。

 この身体にどれほどの価値があるのか…それ程抱きたければ身を任せてもよい。それで、リュミエールの気が晴れるのならば。
 それが、想いを知りながら、見ぬ振りをしていた贖罪になるのであれば。
 だが、オスカーを想うと簡単に意のままになるわけには、いかぬ。
 知られれば、哀しみ、怒り、その激情のままに、リュミエールを殺すやもしれぬ。彼ならば、きっとそうするだろう。
 それだけは、避けねばならない。


「クラヴィス様、お顔の色が優れないご様子ですが?いかがされました?」
「別に…もう、遅い。お前も帰るがいい」

 無駄を承知で去れと促してみても、歩みを止めようとしない。

「何故、そのような悲しい事を…」

 目の前の哀しげな表情に、声を掛けようとしたその時、ふわりと体が宙に浮く。考えられないような力でリュミエールに、抱き上げられていた。

「何をする!?離せ!」
「わたくしに隙を見せるなと、オスカーに忠告されませんでしたか?」
「リュミエール…おまえ…」
「愛しています。ですから、わたくしのものになって下さい」
「断る!」

 自分の声とは、思えないほどの怒声。足掻いてもリュミエールは、決して離そうとせずそのまま寝椅子に運ばれる。

「抵抗しなければ、優しくして差し上げますが?」

 覆い被さってくる身体から、逃げ出そうともがいても力は緩まらず、自分の方が疲れ果てた。
 荒く息を吐きながら、リュミエールを睨みつける。

「私に…おまえを憎ませるな!」
「どうぞ、憎んで下さい。愛と憎しみは表裏一体のもの。喜んで憎まれましょう」

 リュミエールの嬉しげな表情。もう…この者を止められない。
 貪られるような、激しい口づけ。

 許せ、オスカー。
 願わくは、おまえが来た時にすべて終わっていればよいのだが…



 長い間、想い続けたこの方を、癒して差し上げたいと願っていたこの方を…傷つけようとしている。
 それでも、わたくしのもたらす何かを感じて欲しい。
 あなたの心を手に入れられないのならば、せめてその身体にわたくしを刻みつけましょう。決して忘れられないように…

 クラヴィス様の冷たい唇、逃げる舌を追いかけ、捕らえ、貪欲に貪る。
 唇を味わいながら、クラヴィス様の服を襟元から引き裂いた。
 部屋中に布のつんざく音が響き渡る。
 わたくしの下で、ビクリとクラヴィス様の体が震えた。
 押しのけようとするその手が煩わしい。布の切れ端で、両手を一つにまとめてしまいましょう。

 長い口づけから解放すると、クラヴィス様が空気を求めて激しく咳き込む。
 生理的な涙が頬を伝い、露になった耳元や首筋が上気して淫靡な色を見せつけた。
 その姿だけで、わたくしの雄が猛々しく反り返る。
 堪らず、クラヴィス様のロープの裾を捲し上げると両足を抱え上げ、何の準備もできていない、その秘腔に突き立てた。
 クラヴィス様の全身が硬直し、肉体が激痛を訴えているのに、瞳を閉じ、強く唇を噛みしめ、悲鳴を飲み込まれてしまう。
 あなたは、わたくしには…声ひとつくださらないのですね。

「声を聞かせて下さい。あなたの苦痛にむせび泣く声を、聞きたい」

 クラヴィス様は、さらに血を流すほどに唇を噛みしめられた。

「強情な方ですね」

 その頑なな態度が、わたくしに苛虐性を自分をさらに追いつめていくことに、気が付かないのでしょうか?

 クラヴィス様の痛みのために、うなだれているモノを手のひらで包み込み、先端をしごく。
 それが自分の力で勃ち上るのに、たいした時間はかからない。

「うう…」

 全身に力を入れて、刺激を阻止しようとされても、所詮は無駄な足掻き。腰が微妙に動き始める。わたくしの手を避ける為なのか、感じているのかわからない。
 わかっているのは、この行為に慣れていらっしゃる事だけ。
 自分の瞳が嫉妬の怒りに細められ、唇が歪むのを感じる。

「オスカーの感触を忘れさせるくらい、可愛がってさしあげます」

 胸の飾りを唇で捕らえ、軽く噛みながら舌でねぶる。

「あっ」

 クラヴィス様が、思わず声を洩らすが慌てて唇を噛みしめた。

「感じるのでしょう?あなたの体は敏感ですね。ほら、もうこんなに」
「うっ…」

 クラヴィス様の勃ち上がった雄を強く握り締める。容赦ない刺激に、上半身が弓なりに仰け反り、わたくしを咥え込んだ場所が、キリキリと締めつけてくる。

 押し返そうとする力に逆らい注挿を繰り返す。
 浅く、浅く、いきなり深く。
 強く、ゆるく、荒々しく体を揺さぶった。

「あう…っ!あっ…」

 堪え切れない喘ぎが、耳に心地よい。もっと、間近で表情が見たくて、向かい合うように、抱き起こす。
 クラヴィス様は、わたくから顔を背けた。心が拒否をしたところで、オスカーによって慣らされた体は、快楽を知り、自然と求めてしまうもの。
 瞳からは、涙。
 その涙は、何を語っているのでしょうか?屈辱?羞恥?
 何であろうと、わたくしのもたらしたものが、あなたを感じさせているのですね。甘美な陶酔感。

「もっと…わたくしを感じて下さい」

 細い腰を持ち上げ、また沈める。クラヴィス様の浅い呼吸が、微妙だった腰の動きが、呼吸と同じリズムをとり始める。


 不意にノックの音。

「クラヴィス様、俺です」

 ドアが開かれていくのを、クラヴィス様は、目を見開いて見つめる。
 その唇が、全身が驚愕に震える。

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