皇帝と名乗る侵略者に聖地を奪われるだけでなく、女王陛下や守護聖様方までが、囚われる最悪の事態に、
俺は、かつての教え子であり、現在は別宇宙の女王となったアンジェリークや仲間達と共に、守護聖様方の救出を敢行する。
各惑星で救出は、次々と成功を収め、全員の救出を終えた後、白き極光の惑星で休養を取る事になった。
そして、宿屋でクラヴィス様と同室になってしまう。
闇の守護聖クラヴィス様…俺が教官時代から想いを寄せる美しき麗人。
儚ささえ感じさせる孤独な影、その闇に惹かれた。
俺のつらく哀しい記憶が、安らぎを求めたのだろうか。
リュミエール様を通じて交流を持つようになると、俺と同じようにクラヴィス様が、過去に大切な何かを失われた方のような気がした。
それに捕らわれ身動きさえとれずもがき苦しんでいるのが、俺には分かる。
クラヴィス様の闇は、俺よりもずっと深く哀しい。この方にこそ安らぎが必要なのだと思った。
この方を包み込む安らぎになりたかった。だが…
女王試験が終われば、もう二度と会うことも叶わない存在。
俺は、想いを告げる事なく聖地を去った。
まさか再会できると思わなかった。緊急事態であるが、お会いできたのはうれしい。
しかも同室…うれしいはずなんだが二人きりが問題だ。
聖地でも二人だけで会ったり、会話する事はなく、常にリュミエール様やルヴァ様方がいた。
一体、何を話せばいいのか…惚れた相手だと言うのに情けない。
知らずにため息を吐く。顔を上げると視線の先にクラヴィス様が目に入る。内心の動揺を抑えながら、声を掛けた。
「クラヴィス様、無骨な自分と同室で申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
「ああ…」
クラヴィス様は、一言返事を返すと、寝台に置いた荷物の整理を始める。
隣には、俺の寝台。あたりまえだがこの部屋で、クラヴィス様が着替えたり、寝るってことだな。まいったなあ…今更ながら別の意味で二人きりの問題に気付いた。
新鮮な空気でも吸って気分転換でも図ろうと、窓を開けた。
純白の世界が広がる。光が反射してきらきらと煌めく幻想的な光景に見惚れる。
「美しい…見事だな」
いつの間にか、クラヴィス様が俺の隣に立ち感嘆の声をあげていた。
俺の鼓動が速まる。心臓の音が聞こえはしないかと、心配になるほどだ。
俺と背が変わらない為横を向くと、息がかかるほど近くに秀麗な美貌。
このまま抱きしめたい衝動が、俺を襲う。
しかし、一度抱きしめてしまえば…もう自分を抑える事ができなくなるだろう。
俺は、顔を背けると窓から…クラヴィス様から離れた。
ソファーに座ると、緊張を解くように息を吐く。
このままでは…クラヴィス様に何をしでかすか…軍で鍛えた忍耐力も自制心も、この方の前では、全く役に立たん。
取り返しのつかない事をする前に、逃げるとするか。
決意すると、外の景色を眺めているクラヴィス様に声を掛けた。
「クラヴィス様、部屋を替わってもよろしいでしょうか?」
「…好きにするがいい」
クラヴィス様は、俺を振り返るとあっけない返事。理由すら聞いては下さらないのか…聞かれても困るが寂しい気分だ。
「私といるのは疲れるのであろう?大抵の者がそうだ。気にする事はない」
少し寂しげな様子で、クラヴィス様が淡々と言われる。
いかん!誤解を招いた!あの言い方では仕方ないが…誤解されたままよりも、いっそうの事言った方がましかもしれんな。
「あなたと同室なのは、嬉しく思ってます!本当です。しかし…」
俺は、躊躇った。告白したところで皇帝を倒せば、再び離れて生きていかねばならないのに想いを語ったところで、何になる!?クラヴィス様を悩ませるだけではないか。
「ヴィクトール、言いたくなければ、無理をする必要などない」
「クラヴィス様…」
違います!俺は言いたい!伝えたい!一度は、諦めた事だったが実るはずのない想いだが…あなたに俺という存在を忘れられたくない。
俺は、覚悟を決めた。
「驚かずに聞いて下さいますか?」
「なんだ?」
「あなたを愛しています!」
クラヴィス様の瞳が驚きに見開かれる。無理もない…いきなり同じ男から告白されて、嬉しくもないだろう。
「本当です。教官として赴任しあなたに出会い、いつしか愛し始めました。
伝えたところで、試験が終われば二度と会うことも叶わないと、一度は諦めました。
だが、奇跡は起こった。こうして再び会うことができました。
この戦いが終われば、また離れ遠い存在になってしまうことも分かっています。
しかし、この奇跡に免じて言わせて下さい。ずっとあなたが好きでした」
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