皇帝と名乗る侵略者に聖地を女王陛下を奪われ、俺達守護聖自身も捕らわれの身となった。
しかし、別の宇宙の女王となったアンジェリークやかつての教官、協力者達により、助け出され、
現在、陛下を救出すべく、聖地へ向かっていた。
聖地に近付くにつれ、戦いは、熾烈を極めた。
群れをなしたモンスターとの、長時間に渡る戦闘がようやく終わると、そのまま地面に座り込む者や寝転ぶ者等、大抵の者が動けずにいた。
皆、疲労の極地だ。この戦いでアンジェリークとメルが倒れた。
二人を休ませるには、この森の中は、あまりにも危険だった為、比較的元気なランディとヴィクトールが、安全な場所を探しに出ている。
俺は、今後の作戦を話し終えた後、皆より離れた場所にいるクラヴィス様に、やっと駆け寄る事が出来た。
「クラヴィス様!お怪我は?」
「心配いらぬ。ただ、疲れただけだ」
俺は、片膝を付き、ぐったりと木にもたれかかるように、座っておられるクラヴィス様の顔を覗き込んだ。
声を出す事さえ億劫なご様子。顔色も悪い、元々色の白い方だが蒼白に近い。
クラヴィス様の使う召喚魔法は、別世界から龍を呼び出し、多大なダメージを与える強力な魔法だ。
だが、非常に集中力を必要とする為、精神的にも肉体的にもかなりの負担が、クラヴィス様にかかっている。
人並みな体力も持たないこの方には、さぞかし、おつらいだろう。
しかし、憔悴しきった風情もこの方には、似合う。戦闘の連続で、接吻すら交わしていない事を思い出し、悪戯じみた事を思いついた。
「クラヴィス様、元気の出るおまじないでもどうです?」
「そのようなものが、あるのか?」
「ええ、とっておきのが!」
俺は、にっこり微笑み、訝しげな視線で、俺を見るクラヴィス様の細い顎を、指で自分に引き寄せた。何をされるのか悟ったクラヴィス様が逃げようとするのを、空いている片手で腰を抱き寄せ、強引に口づけを贈った。
唇を離すと同時に、クラヴィス様の叱咤。
「オスカー! おまえは!」
「ほら!怒鳴れるくらい元気が出たでしょう?」
「呆れて物が言えぬ」
「あなたは、俺に『愛してる』とだけ言えればいいんです」
クラヴィス様は、呆れた表情で、今度こそ本当に黙り込んでしまわれた。
「オスカー様!ジュリアス様がお呼びですよ!」
甘い(?)雰囲気を邪魔する声。マルセルとティムカが連れ立ってこちらに、向かって来る。ティムカは、クラヴィス様に持って来たのだろうと、思われるカップを手に持っている。
「わかった! すぐ行く」
「では、クラヴィス様、行って来ます」
俺は、立ち上がりざま、素早くクラヴィス様の唇にかすめるような口づけをして、そのまま、ジュリアス様の元へ走った。
後ろから、クラヴィス様の怒りの声が聞こえるが、今は、聞き流そう。後でお詫びもかねてたっぷりと…
マルセル達とすれ違いざま、礼を言ったが、俺達を見慣れているマルセルと違ってティムカは、真っ赤な顔で俯いていた。お子様には、少々刺激が強すぎたかな?
ジュリアス様の元には、ランディとヴィクトールが帰って来ていた。他にも動けるようになった者達が集まっている。
最後の登場になった俺に、呆然、冷やかし、羨望等それぞれの思いが表れた視線が、集中する。何だ?
「遅くなりました」
「てめえ、いちゃついてんじゃねえよ! 場所を考えやがれ!」
ゼフェルの言葉で納得だ。皆で見ていたわけか? はっきりと見える距離ではなかったが、雰囲気でわかったんだろうな。
「そりゃ、失敬。お子様には、目の毒だったか?」
「何だと!? てめえみたいな、時も場所も考えられない奴に言われたかねえ!」
「無駄だって! オスカーには、時も場合も関係ないの。クラヴィスさえいれば、それがこの馬鹿の時と場合なんだから!」
オリヴィエは、茶化すがあながち外れてはいない。
「悪いか?」
平然と答えた俺にオリヴィエが更に、言い募ろうとした時、ヴィクトールが遠慮がちに発言する。このままでは、話が進まないと思ったのだろう。
「あの…話を始めてもよろしいでしょうか?」
「かまわぬ。報告してくれ」
ジュリアス様に黙って聞け! と、言わんばかりの視線を向けられ、さすがの俺達も瞬時にヴィクトールを見た。
「この先の橋を渡り、少し行った所に、今は使われていない古い別荘がありました。中を見ましたが我々が休むには、十分かと」
「それとですね。橋がめちゃくちゃ古いんです! その上吊り橋だから、ひとりづつ渡らないと危険なんです!」
ランディの言葉にジュリアス様が考えこまれたが、すぐに結論を出された。
「実物を見なければ、わからぬが。そうそう落ちる物でもあるまい?ご苦労だった。早速、向かうとしよう」
俺達は、ランディ達の案内で橋の袂に着いた。本当に古い吊り橋だった。
長さは、50Mくらいか? 長くはないが、橋の下は、崖だった。落ちたらひとたまりもないだろう。
まず、メルを抱えたヴィクトールが、案内係として一番に渡る。次に、ジュリアス様が俺に声を掛けた。
「オスカー、アンジェリークを」
敵が現れた時を用心して、指名がかかったのだろうが…俺は、後方から来ている筈のクラヴィス様が気になった。だが、後から会えるのだからと自分に言い聞かせ、意識を失ったままのアンジェリークを、リュミエールから抱き取り、橋を渡った。
順次に皆が渡ってくるがクラヴィス様達の姿がない。
最後まで残りの三人を待っていたジュリアス様が、後方を振り返り、何かを言っている。
そして、橋を渡り始めた時、クラヴィス様とマルセルとティムカの姿が見えた。
マルセルが腕に何か小動物らしきものを抱いている。マルセルの事だ。怪我でもしていたのを見つけて、治療でもしていたのだろうが…
クラヴィス様を巻き込むな! 心配するじゃないか!
ジュリアス様が渡り終えると同時に、橋の向こうの子供達の悲鳴が上がった!
「わー!! モンスターだ!」
突如、クラヴィス様達のすぐ近くまでモンスターの群れが現れた! 俺は、アンジェリークを地面に降ろすと橋に向かった。なんて、こった! 油断した! お子様二人と疲れきったクラヴィス様では、防御すらままならんだろう!
俺が橋を渡ろうとした時、モンスターの風魔法が吊り橋の綱を……断ち切った。
俺の目の前で橋が大きな悲鳴を上げて、落ちていく。
「クラヴィス様!!」
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