縁(えにし)。
人と人を結ぶ、人力を超えた不思議な力。巡り合わせ。
特に男女の間に結ばれるものをこう呼ぶ。
それに結ばれるから、人は子々孫々続いてゆくという訳だ。
しかし俺は、そんなモノを全く信じちゃいなかった。

 

 

 

 

「あぁ……けぃごぉ……」
俺に組み敷かれ、女が嬌声を上げている。
体は本能に従って熱くなっているのに、頭の中は冷めたまま。
着衣はお互い着けたままだ。
最低限必要な場所だけが露出しているだけ。
ベッドの上での行為だというのに。
「あぁぁっ」
女の体がビクリと痙攣し、俺の自身が女の内壁で締め付けられる。
俺は無理やり女の中から自身を引き抜く。
避妊具で覆われた俺の自身には、女の愛液がべったりと付着していた。
数度、己の手でソレを刷り上げると、溜まっていたモノが一気に放出される。
それで、行為はすべて終わる。
俺は決して避妊具の無い行為はしない。
更に、避妊具をしていても女の中で達する事もない。

こんな行為をするようになったのは何時からだったか。

 

行為を終えて、俺は無言でベッドサイドに座り着衣の乱れを正す。
女はまだ、ベッドに横たわったまま。
「もう…二度と来ないでくれる?」
そう、呟く様に女が言った。
俺は何も答えず、ベッドサイドから立ち上がる。
この女とも終わりか。
しかし、何の感慨もなかった。
俺はベッドに…女に背を向けたまま羽織ったスーツのポケットから携帯電話を取り出す。
そして、それをベッドに放り投げ、何も言わず女の居る部屋から出て行った。
もう二度と、あの携帯電話は使われない。
あの女との関係のためだけに使われていたモノだ。
終わりになったのなら、必要ない。
だから、捨てた。
そうやって、また、俺は女との関係に終止符を打った。

こんな事は茶飯事だ。
ここ最近、付き合っていた女との関係が二ヶ月ともった事は無い。
大抵の女が俺の顔と財力に眼が眩んでいるのが解っているから。
くだらない野心を胸に抱いて、俺に近づいてくる。
あわよくば、俺の子を孕んでそのまま跡部夫人に…或いは囲われる女に…という奴らばかり。
まぁ、それを性欲処理に利用する俺も、随分とろくでなしだとは思うが……。
女を孕ませるような事だけは、絶対にするつもりは無い。
だから、あのような行為になる。
最後の最後まで、女の中でしないのは、その為だ。
俺の子を孕んだと嘘をつかせないように。
結婚?
正直そんなものに興味は無い。
跡継ぎがどうのと言う声も聞くが、まだ祖父も現役な今、早急に必要なわけじゃないだろう。
必要になったら、どこぞの才媛でも見繕って産ませればいい。
跡部の跡継ぎとしての才能を持った子が、確実に産める遺伝子の女を捜すなんて簡単だ。
そして、それを手に入れる事だって簡単に出来るだろうよ。
俺の子が産めると喜ばない女など居ないと確信できる。
子を産めば、一生 金に苦労する事のない人生を歩めるのだから。
そう考えれば、今 特定の女に縛られる必要ねぇだろ。
いつでも、欲しい時に何でも手に入るんだからよ。

女のマンションから出て、タクシーを捕まえて家へ戻る。
家…といっても、現在は一人暮らし。
跡部系列の不動産会社が管理するマンション。
その最上階のワンフロアが、今の俺の家だ。
まぁ、一人暮らしといっても、身の回りの事はすべてメイド任せで炊事一つやる必要は無いが。
俺が家に戻った時間は日付の変わった頃。
メイドはとっくに帰宅しているようだ。
シャワーを浴びて寝室のベッドにもぐるが、夢への誘いはまだ来ない。
仕方なく、手近な場所にあったテニス雑誌を読みながらそれを待つことに。
暫くして、やっと訪れた睡魔。
それに導かれて、俺は眠りへと落ちていった。
一人で眠る夜。
それは、幼い頃からそうだった。
両親は家に不在がち。
物心付いた頃から、俺は一人でベッドに眠る。
隣に眠る誰かを望んだ事などなかった。
これから先も、望む筈が無いだろうな。
そう思っていた。

 

 

 

なのに………。

 

 

すべて、覆された。
俺が今まで思ってきたものすべて。
すべてを覆されてしまった。
俺の考えてきたものすべてが……。

 

その時、初めて俺は人を結ぶ縁なるものの存在を信じる事が出来た。







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